【社長直撃】なぜトヨタとKINTOに「パートナー」が必要なのか

2020/6/18
 クルマを作って売る会社から、クルマを使ったサービスを提供する「モビリティ・カンパニー」へ――。
 この変革を掲げるトヨタ自動車が、モビリティ・カンパニーの象徴として立ち上げたサービスブランドが「KINTO」だ。
 そのKINTOが、トヨタ以外のモビリティ事業者と協業する「KINTOパートナーズ」構想を立ち上げた。その背景や狙いをKINTO社長の小寺信也氏に聞いた。また、KINTOパートナーズの第1号となったMellow社長 の森口拓也氏には、KINTOとの出会いから協業の実情を聞いた。
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「クルマのサブスク」は手始めに過ぎない

──KINTOは日本では、クルマのサブスクリプション・サービスという印象が強いです。
小寺 豊田章男社長から「新しいクルマの売り方を考えてほしい」と言われて生み出したのが、KINTOというサービスブランドです。その手始めとして、2019年秋に、サブスクリプションで3年間車を借りていただくKINTO ONEという個人向けの商品を作りました。
1984年一橋大学商学部卒業後、トヨタ自動車株式会社入社。海外企画部などを経て、2013年常務役員に就任。2018年よりトヨタファイナンシャルサービス株式会社取締役上級副社長に就任し、2019年に株式会社KINTO設立後、同社取締役社長も兼務する
 しかし、このサブスクリプションはKINTOのほんの始まりにすぎません。
 カーシェア、ライドシェア、1台の車両に複数の人が乗るカ―プーリング、複数の交通手段を検索して表示するマルチモーダルなど、様々なモビリティサービスを世界中で展開しようと計画を練っています。
 この6つ以外にも様々なモビリティサービスが今後でてくると思います。わかりやすく言えば、移動に関わるビジネスはすべてがモビリティサービスです。
 海外ではクルマのみならず電動スクーターのシェアリングなどもトライし始めました。
 ただ、トヨタはこれまで「クルマを作って売っておしまい」というビジネスモデルだったので、「クルマを使う」ビジネスのことが全然わかっていません。
 そうすると、わからないことを一から勉強するよりも、わかっている人と手を組む方がいいのではないかと思うようになりました。
 そして立ち上げたのが、「KINTOパートナーズ構想」です。

会社の規模や成熟度は関係なし

 KINTOパートナーズの構想を実現していくうえで、まずはモビリティサービスに取り組んでいる様々な会社と出会うことが必要だと考えました。
 スタートアップのみなさんを始め、規模の大小や会社の成熟度と関係なく、パートナーを探しています。これまでにも様々な事業者の方とお話をしてきて、少しずつ手ごたえを感じています。

日本の道の起点「TOKYO JCT」

 そのような事業者の方々と知り合う場として「TOKYO JUNCTION(以下、TOKYO JCT)」を東京・日本橋に開設しました。私自身もいろんな方にお会いして、ディスカッションして、勉強させていただきたいと思っています。
 トヨタでは「道がクルマを鍛える」と言います。世界中のいろんな道を走ることで、クルマの乗り心地や性能を良くしていくということです。
 だからこそ、TOKYO JCTの場所に日本橋を選びました。日本橋は日本の道の起点です。その日本橋を、様々なモビリティサービスに関わる人が集まってくる場にしたいと思っています。
 NewsPicksとKINTOとのコラボレーションで生まれた次世代モビリティ番組「モビエボ」もこのTOKYO JCTから配信しています。
日本の道の起点である東京・日本橋をイメージした「TOKYO JCT」

パートナー第1号はMellow

 KINTOパートナーズの第1号として、「TLUNCH」などのフードトラックのマッチング事業を展開するMellowが仲間になりました。 
 彼らが目指す世界観と情熱に心を打たれ、今は私もMellowのボードメンバーとして一緒に色々な話をしています。
 例えば、フードトラックを開業したい事業者にとって、クルマを安価で調達し開業資金をできるだけ抑えたいという課題がある。Mellowのメンバーはその課題に悩んでいたのですが、KINTOでリースを活用するとか、そこにビジネスを包含した保険を付けるといった提案は我々はすぐにできます。

e-Paletteとの相性に夢が膨らむ

 実は、Mellowから最初にフードトラックの話を聞いた時に、KINTOやトヨタとどう関係があるのか分かりませんでした。
 その認識が変わったのは、Mellowの「SHOP STOP構想」を聞いてからです。
SHOP STOP構想はバス停「Bus Stop」から着想(Mellow提供)
 これは、彼らが今やっているようなランチだけではなく、様々なサービスをクルマにのせてお客様が集まるところへ出かけていく、というサービスです。
 これを聞いてピンと来たのが、トヨタが2年ほど前に発表したe-Paletteとすごく相性がいいということでした。e-Paletteはサービスを運ぶ自動運転車です。ただ、どんなサービスを運ぶべきか、トヨタではわからない。このサービスの「ソフト部分」を彼らなら運用できるかもしれない、と夢が膨らんだわけです。
CES2018での豊田章男社長のプレゼン。“Today you have to travel to the store. In the future, with e-Palette, the store will come to you…”「現在は、お店まで行かなくてはなりませんが、将来はe-Paletteにより、お店が貴方のもとまで来てくれるのです」
 KINTOとMellowでは会社規模も歴史も全く違います。仕事の進め方も常識も全然違う。そんな2つの会社が、e-PaletteによるSHOP STOPというゴールや世界観を共有していると思っています。
 Mellowと同じように、KINTOが協力させてもらうことで一気に広がりが出るビジネスが他にもあるはずです。パートナーは知恵と情熱、我々にはクルマと世界で1億人を超すお客様というグローバルな販売ネットワークがあるので、とても良いコンビネーションが実現していくと信じています。
 同じ夢を共有できるか、そしてシナジーが生まれるか。この2つのポイントでKINTOパートナーズを広げていきたいと思っています。

「トヨタ先入観」が崩壊した

森口 以前からe-Paletteは気になっていて、豊田章男社長のプレゼンを何度も見ていました。いつか一緒に何かビジネスができたらいいな、と思いながら、足元のキャッシュを稼ごうと頑張っていました。
 ある日、いきなり、Mellowのサイトのお問い合わせフォームにトヨタの方から連絡がきたのです。これが最初の出会いでした。
 知人の紹介でもなく、お問い合わせフォームですよ! トヨタの人がこんな飛び込み営業みたいなことをするんだ、と「トヨタ先入観」が崩壊しました(笑)。
 そこからどんな協業ができるかディスカッションをして、グループ会社の方もたくさん紹介していただきました。
 「クルマの導入コストをもっと抑えたい」というような好き勝手を言わせてもらっていますが、「できない」ではなく、「どうやってやろう」という話になります。
 今年4月、新型コロナで緊急事態宣言が出されている中、医療機関に温かい料理を届けたいと思い、キャンピングカーのシェアリングサービスを提供しているCarstayさんと一緒に共同プロジェクトを発足させました。
 そのときも、わずか1週間あまりでトヨタファイナンシャルサービスとKINTOが協賛していただけることになりました。とにかく意思決定が非常に速いことに驚かされます。
 私たちスタートアップができるかできないかを考えても仕方がない。ですから、「こういうことをやりたい」という実現したいことベースでお話しするようにはしています。
 コロナ禍でビジネス的に厳しいこともありましたが、KINTOパートナーズとして支援いただいていることが、とても心強いです。今後もよいコラボレーションをさせていただいていけると思っています。
「モビエボ」番外編では、山里亮太さんと奥井奈々からおふたりにインタビュー。山里さんから、「KINTOパートナーズ」へ立候補する一場面も!?モビエボ番外編はこちらから
(編集:久川桃子 撮影:稲垣純也、小池大介 デザイン:月森恭助)
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