【歴史に学ぶ】「義理人情」で世界を制した商人たち
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マグリブ商人、というのは、つまり現在のチュニジアやアルジェリアの地中海沿岸を拠点にしていたユダヤ人の商人たちです。彼らの歴史は、古代ローマによる占領(ポエニ戦争)以前、カルタゴの時代までさかのぼります。マグリブ商人は、ユダヤ人として圧倒的なマイノリティの地位にありながらも、それぞれの時代の支配者にとって富をもたらす、利用価値のある存在であり続けることで、この土地に居住し、経済活動の中心を担ってきました。
マグリブ商人は、ローマ帝国とも、大移動してきたゲルマン民族とも、7世紀に征服者としてやって来たアラブ人ムスリムとも、19世紀に北アフリカを植民地化したフランスとも、何度も危機にさらされながら共存してきました。
マグリブ商人にとどめをさしたのは、まずロンメルのドイツ・アフリカ軍団による占領で、多くが強制収容所に送られました。その後に、アラブ民族主義の高まりと、100万人の死者を出したアルジェリア独立戦争が起きて、ユダヤ人は排斥の対象となりました。いずれも、マグリブ商人が経済的利益を提示しても、話の通じない相手でした。大部分のマグリブのユダヤ人は、建国したばかりのイスラエルへ移住しました。
マグリブ商人を地中海経済の主要なプレイヤーにしたのは、ユダヤ教の宗教的な紐帯です。そして、マイノリティであるが故に、鉄の結束と規律が無ければ生存できないという、圧迫された立場でした。
マグリブ商人についての数ある研究で特に注目されているのは、彼らが地中海世界の様々なプレイヤーを経済的に結びつける役割を果たしていたことです。彼らの拠点、ジェルバ島は、ジェノバ商人やヴェネツィア商人といったキリスト教徒、アラブ人、トルコ人、ユダヤ人などが集まって商談を交わす中立商業地区でした。宗教ごとに分断していた中世の社会で、大部分の人間は他の宗教の人間とは生涯、口もききませんでしたが、ここは例外でした。
20世紀のナショナリズムは、マグリブ商人の生存を不可能にしましたが、グローバル化した経済のルールは、誰でも世界中で商売することを可能にするはずでした。21世紀、もし世界が分断されていくのであれば、異なる共同体の間をつなぐ、結束の固いマイノリティの集団も再び必要とされるでしょう。最近「時代の見えない危機を読む」を上梓し、私もクライフの議論を元にマグレブ人とジェノア人の興亡を取り上げたのですが、現代に生きる多くの示唆があると思います。ただ、ネットで繋がるから義理と人情が通じるようになるプラス面はあるものの、フィルターバブルで分断が深まる負の側面もあると思います。足元の欧米でのデモの元々の原因は人種差別ですが、夜の不法行為に至るデモの背景としてフィルターバブルの影響は大きいと思います。
日本企業はこれから利他主義になれるかというのが最大のハードルです。COVID-19パンデミックで日本の金融機関と世界の金融機関では大きな差が出ました。
日本の金融機関は、自社から患者を出したくない、緊急事態なのだから顧客対応が疎かになるかもしれないのでよろしく、という利己主義に固まり、コミュニティを形成している最大の顧客を遠ざけました。
いっぽう、欧米の金融機関は、顧客に寄り添う姿勢をすぐに打ち出しました。ローンの返済猶予、口座維持費の返金・無料化、給付金申請のわかりやすい動画作成など。そしてトップ自らが、顧客に寄り添う姿勢を自分のことばで表明しました。
本来人情にあつい日本人。企業は利他主義、博愛主義に目覚めてほしいものです。