【歴史に学ぶ】「義理人情」で世界を制した商人たち

2020/6/14
人は必ずしも、効率やお金ばかりを重視した行動を取るわけではない。一見、不合理な人間行動を「義理人情」というキーワードで読み解く、気鋭の経済学者・山村英司氏(『義理と人情の経済学』/東洋経済新報社)。
インタビュー最終話では、「義理人情」が必ずしも日本人に固有の感覚ではなく、人類全体にとって重要な感覚であることを、歴史からひもといていこう。
【新】人生のパフォーマンスを高める「人情経済学」の教え

「他者」の存在が人の行動を変える

──海外の人にも「義理人情」という感覚は理解できるのでしょうか?
山村 実は、この『義理と人情の経済学』を読んでくれた日系アメリカ人の研究者に「これを英語で出すつもりはないの?」と勧められ、英訳が決まったところです。
日本独自の「感覚」を世界に紹介した書物と言えば、『菊と刀』という有名な古典が思い出されます。文化人類学者のルース・ベネディクトによって、第2次世界大戦中の調査研究をもとに、戦後出版された本です。
この中で、ベネディクトは日本と西洋の類型を比較し、日本は「恥の文化」、西洋は「罪の文化」だと述べています。
(Nastasic/iStock/Getty Images Plus)
恥の文化とは、対人関係に根ざした文化です。日本人は「自分が他者からどう見られているか」をとても気にする。だから、他者から見て悪いと思われるようなことはしない。一方、西洋にはキリスト教があるので、「神の前で罪を犯してはいけない」という文化になる。そこが大きな違いだとベネディクトは主張したのです。
私の『義理と人情の経済学』の英訳も、この『菊と刀』のような文脈で読んでもらえればいいなと思っているのですが、一方で、この本はベネディクトの言説への「反論」にもなり得るのではないかと考えています。
行動経済学の最新の研究からわかってきたのは、「人間とは結局、他者と自分を比較してしまうものである」ということです。「他者によって行動が変わる」という研究は、洋の東西を問わずさかんに行われています。
例えば、先日NewsPicksの記事でも紹介されていたように、社会心理学者のロバート・チャルディーニは米国でも同じようなデータ分析を行い、その結果から次のような結論を得ました。「人は理にかなった説得を受けて行動を変えるのではなく、周囲の人々に合わせるために行動を変えるのだ」
これはつまり、日本的な恥の文化、恥の行動原理であって、そこに「神」は必ずしも関係ありません
もし、英訳版への反響から、「義理と人情」の感覚が広く世界中の人々にも共通するものだということが見えてくれば、面白いだろうなと思っているのです。
(Marco Bottigelli/Getty Images)

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