コロナの影響で営業を中止したティファニーの店舗(写真:AFP/アフロ)
コロナの影響で営業を中止したティファニーの店舗(写真:AFP/アフロ)

 欧米で合意済みのM&A(合併・買収)案件の破談が相次いでいる。

 高級ブランド世界最大手の仏LVMHモエヘネシー・ルイヴィトン(LVMH)が米ティファニーの買収見直しを示唆、米ボーイングもブラジルのエンブラエルとの事業統合を撤回した。新型コロナウイルスの影響で、コロナ前に見込んでいた買収効果が得られるか不透明になったというのが理由だ。

 コロナ禍の今、欧米ではM&A案件は「撤回するのが当たり前」(外資系投資銀行)のようだ。そして日本で強行された1兆円ディールには驚きの声が集まっているという。

撤回すれば違約金は発生する

 LVMHは2019年11月、ティファニーを総額162億ドルで買収することで合意した。だが新型コロナの影響を鑑み6月2日の取締役会でティファニー買収の妥当性を再協議、同4日に「現時点でティファニー株の購入を予定していない」という声明を出した。水面下でLVMHが買収価格引き下げを打診したが、ティファニーが拒否したという情報もある。

 ブラジル航空機大手のエンブラエルは、事業統合を撤回したボーイングを相手取り「契約不履行とキャンセルにより被害を受けた」とする仲裁手続き入りを表明した。直近では6月10日、米ショッピングモールを運営するサイモン・プロパティ・グループが、同業タウブマン・センターズを36億ドルで買収するという合意の撤回を求める訴えを起こしている。

 いずれの場合も買収撤回の理由は新型コロナウイルスとされる。ティファニーなどの売り上げは新型コロナで急減しており、LVMHの翻意は分からなくもない。もちろん合意済みの買収を撤回すれば違約金は発生する。だが「違約金を払ってでも買収をやめた方が、強行するよりリスクが小さいと考える経営者が急増している」(米系投資銀行幹部)。もちろん合意を一方的に破棄するのだから、裁判沙汰になるのは覚悟の上だという。

 「クローバック条項」を導入している企業が欧米には多いことも、買収撤回の判断に影響している可能性がある。クローバック条項とは、投資に伴う巨額損失や不祥事などが後々発生した場合、支給済みの役員報酬を会社に強制返還させる仕組みだ。米では17年時点で製造業の9割超が導入済みとされる。新型コロナ前に決めた価格で買収を強行して後に巨額損失が発生した場合、役員としては自分の懐が痛みかねない。

「てっきりやめたと思っていた」

 こうして合意済みのM&A案件の撤回が欧米で相次ぐ中、逆に注目を集めてしまったのが昭和電工による日立化成買収だ。

 「えっ、あのディールは実行されたのか」。6月5日、東京証券取引所は日立化成株を6月19日付で上場廃止にすると発表した。昭和電工による買収成立を受けた措置だ。それを伝え聞いた米国の大手証券会社幹部は「てっきりやめたと思っていた」と絶句したという。

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