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トランプ氏の韓国G7招待に中国が「その国は大した力もない。意味ない」と上から目線

西岡省二ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長
G7首脳とのテレビ会議に臨むマクロン仏大統領=2020年4月(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 トランプ米大統領が主要7カ国首脳会議(G7サミット)にロシアや韓国、オーストラリア、インドを招待して「中国包囲網」構築を目指しているのに対し、中国側は「果たして各国は同調するのか?」と疑問符をつけている。加えて韓国やオーストラリアを眼下に見るように「国際的に影響力のない国」と表現し、米国が画策する枠組みのイメージダウンを図っている。

◇「中国包囲網」画策

 トランプ大統領がG7サミットへの4カ国招待を表明したのは5月30日。そもそもサミットは6月10~12日にワシントン近郊の大統領山荘「キャンプデービッド」で開かれる予定だったが、新型コロナウイルス感染拡大の影響によりテレビ会議方式での開催に変更された。トランプ氏はなおも対面での開催に意欲を示したものの、ドイツのメルケル首相やカナダのトルドー首相らが出席に慎重な姿勢を見せたことから、延期の考えを表明し、現状では国連総会が予定される9月中旬ごろの開催が見込まれている。

 延期の表明に際し、トランプ氏はG7の枠組みを「時代遅れ」「世界の情勢を適切に対処する国々だとは思わない」との持論を展開したうえ、ロシアや韓国、オーストラリア、インドも招待する意向を示した。これを受け、韓国の文在寅大統領は6月1日夜のトランプ氏との電話会談で、さっそく「喜んで出席する」との返事を伝えた。

 トランプ氏には「中国包囲網」拡大の意図がある。世界に感染が拡大した新型コロナウイルスへの初期対応や、香港への国家安全法導入問題をめぐり、米中間で対立が激化しており、中国を排除しつつ、米国が主導するG7の枠組みに主要国を引き入れることで、中国への圧力を強化したい考えのようだ。

◇韓国に踏み絵

 このトランプ氏の表明に、中国側は共産党機関紙・人民日報系列「環球時報」発行の英字紙グローバルタイムズを使って猛反発した。

 6月2日の論評では、トランプ氏が▽世界保健機関(WHO)からの脱退表明▽気候変動への国際的な取り組みを決めたパリ協定(2015年)からの離脱▽イラン核合意(2015年)からの離脱――などの措置を取ってきたことと、今回のG7枠組み変更を重ね合わせたうえで「特定の機関や協定が、トランプ政権の利益に反する、あるいは満足させられないと思えば、そうしたものと米国との関係を終わらせる」と非難した。

 そのうえで、米国が招待した4カ国のうち、あえて韓国を取り上げ「韓国は経済、外交、政治において、国際社会で大きな影響力を持っているわけではない。サミットに参加しようがしまいが、あまり意味はない」との認識を示した。新型コロナウイルスの感染拡大での国際調査をめぐって対立するオーストラリアについても「韓国と同様の状況にある」と位置づけた。

 さらに韓国に踏み絵を迫っている。

「各国は果たして米国と同一歩調を取るのか。ロシアはそうしない。韓国やフランス、ドイツ、イタリアも、そうはしない、と予想される」

 また、日本やオーストラリアとの関係においても自信をのぞかせている。

「中国を批判・非難するために日本とオーストラリアは米国側に加わるかもしれないが、中国に対する実質的行動には出ないのではないか」

 韓国は米中両大国の間で板挟みにされることが多い。安全保障面では米国の同盟国ではあるが、経済面での依存度は中国が高い。韓国はG7招待を「先進国への仲間入り」と肯定的にとらえつつも、習近平中国国家主席の早期訪韓を求める立場上、G7参加を「中国包囲網形成」というニュアンスでとらえられないよう注意を払うものとみられる。

◇D10という枠組み

 トランプ氏が提唱した新たな枠組みは、5月下旬に明らかになった英政府による「D10」連合の構想と重なる。

 これはG7に韓国やオーストラリア、インドを加えた構想(民主主義国家10カ国連合=D10)で、中国通信機器大手の華為技術(ファーウェイ)に代わる第5世代(5G)移動通信システムの機器メーカーの育成に向けて連携を模索する枠組み。トランプ氏はG7+4カ国に言及する前日(29日)のジョンソン英首相との電話協議で、香港の問題とともにこの構想も議論したとみられる。

 この動きに対してもグローバルタイムズは5月31日の論文で「冷戦時代のように、こんにちの世界をイデオロギーによって支配することはできない」と批判したうえ、「(華為に対抗するために米国と組む場合)中国が経済・貿易の面でこれまでと同様に英国を扱うことを、英国は期待できない」と対抗措置をちらつかせている。

ジャーナリスト/KOREA WAVE編集長

大阪市出身。毎日新聞入社後、大阪社会部、政治部、中国総局長などを経て、外信部デスクを最後に2020年独立。大阪社会部時代には府警捜査4課担当として暴力団や総会屋を取材。計9年の北京勤務時には北朝鮮関連の独自報道を手掛ける一方、中国政治・社会のトピックを現場で取材した。「音楽」という切り口で北朝鮮の独裁体制に迫った著書「『音楽狂』の国 将軍様とそのミュージシャンたち」は小学館ノンフィクション大賞最終候補作。

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