【上田岳弘】ブロックチェーンは国家に代わって暴力の抑止力になる

2020/7/4
芥川賞作家の上田岳弘氏は、実は経営者でもある。大学卒業後、法人向けソリューションメーカーの立ち上げに参加し、その後役員となった。言うまでもなく、作家も経営者も片手間にできる仕事ではない。
作家として食べていけるようになったいまでも、上田氏が会社経営から退かない理由は何か。そもそも、なぜ兼業が可能なのか。その生き方と仕事術を聞いた。
SF的と評されることの多い作風だが、コロナ後の世界をどう予測しているのか、作家の発想と世界観にも迫る。(全7回)

ビットコインがテーマの受賞作

もともと僕はデビュー作「太陽」のころから、お金をテーマに小説を書いてきました。
「お金に興味がある」というと語弊がありますが、資本主義社会では「お金=力」です。
お金を中心に社会が回っているからこそ、中心となっているお金に興味があり、その本質を知りたくて小説を書いていたところがあります。
上田岳弘(うえだ・たかひろ)/芥川賞・三島賞作家、ITベンチャー企業役員
1979年、兵庫県生まれ。早稲田大学法学部卒業。2005年に設立されたソリューションメーカーの役員を務める傍ら小説を執筆する。2019年、仮想通貨をメインモチーフにした小説「ニムロッド」で第160回芥川賞を受賞。最新刊は『キュー』。他に、2013年「太陽」で新潮新人賞受賞、2015年「私の恋人」で三島由紀夫賞受賞、2016年「GRANTA」誌のBest of Young Japanese Novelistsに選出。2018年『塔と重力』で芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞。2019年から一般社団法人日本AI協会理事。
そんなとき、ビットコインがニュースで取り上げられるようになってきた。聞けばビットコインを初めて提示したのはサトシ・ナカモトという人だという。
それ以外は正体不明で、名前は日本名だけれど、本当に日本人であるかどうかもわからない。もしかしたら日系人かもしれないし、ただの偽名かもしれない。
でも日本名である以上、ナカモトサトシという名前で小説を自然に書けるのは日本人作家だろう。これはチャンスだと思いました。
そこで書いたのが芥川賞を受賞した『ニムロッド』という作品です。
第160回芥川賞を受賞した『ニムロッド』は仮想通貨を題材として多くの注目を集めた
主人公はIT企業に勤める中本哲史(なかもと・さとし)という青年。偶然にも会社の命令で、自分と同姓同名の人物が発明したとされるビットコインの「採掘」を仕事にするところから始まる小説です。