【上田岳弘】経営と作家を「両立」する「引き算」の仕事術

2020/6/29
芥川賞作家の上田岳弘氏は、実は経営者でもある。大学卒業後、法人向けソリューションメーカーの立ち上げに参加し、その後役員となった。言うまでもなく、作家も経営者も片手間にできる仕事ではない。
作家として食べていけるようになったいまでも、上田氏が会社経営から退かない理由は何か。そもそも、なぜ兼業が可能なのか。その生き方と仕事術を聞いた。
SF的と評されることの多い作風だが、コロナ後の世界をどう予測しているのか、作家の発想と世界観にも迫る。(全7回)

知見を広げると両方のためになる

現在、僕は小説を書きながら会社の役員もしていますが、企業からの相談・アドバイスなんかも対応するようになりました。
いま役員を務めている会社では代表取締役の好意で、小説を書く時間を確保するためにも、わりと時間的に自由にさせてもらっています。
その中で、もうちょっと成果を出していかないといけないのですが、ずっと同じ仕事をしているのがどうしても性に合わない。
上田岳弘(うえだ・たかひろ)/芥川賞・三島賞作家、ITベンチャー企業役員
1979年、兵庫県生まれ。早稲田大学法学部卒業。2005年に設立されたソリューションメーカーの役員を務める傍ら小説を執筆する。2019年、仮想通貨をメインモチーフにした小説「ニムロッド」で第160回芥川賞を受賞。最新刊は『キュー』。他に、2013年「太陽」で新潮新人賞受賞、2015年「私の恋人」で三島由紀夫賞受賞、2016年「GRANTA」誌のBest of Young Japanese Novelistsに選出。2018年『塔と重力』で芸術選奨文部科学大臣新人賞受賞。2019年から一般社団法人日本AI協会理事。
また、前々からいろんな方とお話をしていると、「うちの会社の将来について相談にのってくれないか」と頼まれることが多かった。でも時間の余裕がなかったので、それに関してはお断りしていました。
しかし最近はある程度落ち着いて小説が書けるような状況がそろってきた。
そこで、「これは面白い企業だな」「この会社がもっと効果的な役割を果たすと日本や世界のためになるかもしれない」と思える会社限定ではありますが、お引き受けしています。
そうやってさらに知見を広げることが、小説にも会社経営のためにもなると思っています。

時間の配分は半々

いま、1日の時間の配分は、小説と会社の仕事は半々くらい。8時間以上は働かないようにしたいと思っているので、どちらも3~5時間程度です。あまり明確に区分けしているわけではなく、日によって違います。