【論文PICKS】髪を生やす。その役目を忘れる細胞たち
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日本の中曽根元総理が提唱して開始された日本が誇る国際研究ファンドであるHuman Frontier Science Program(HFSP)のフェローを獲得していた佐田さんのアイデンティティと老化のお話。
人も歳を取ると認知症になって、人の名前や自分のいる場所が分からなくなります。実はそういった認知症は人レベルではなく細胞の一つ一つで起こっていることが分かってきています。
心臓では心臓の細胞として、毛を生やす細胞は毛を生やす細胞としてのアイデンティティをお母さんのお腹の中で赤ちゃんとして作られる時に獲得します。しかし、加齢に伴ってそういった記憶が喪失されてアイデンティティクライシスが生じて、それが病気を引き起こしていると考えられてきています。
佐田さんの研究は皮膚だけでなく全身の老化にも繋がる大事な研究という位置づけと言えます。アイデンティティ・クライシスの理解はアルツハイマー病、心筋梗塞、糖尿病など様々な病気の治療法を切り開く可能性があり、ホットな領域を佐田さんのようないつも明るく研究者がやっているとほっとします。…ん?
国際ファンドHFSPは30年で28人のノーベル賞を輩出した類を見ない秀でた研究基金です。その方針は、応用性を顧みない挑戦的な研究です。しかしながら日本からの申請書件数が近年激減しており、ここにも日本のサイエンスレベルと若い研究者の創造、サポートに課題があることを示しています。
日本の未来をみんなで支えましょーっ!日本のサイエンス・クライシス!
注目のコメント
組織を作り出す大元の細胞である幹細胞は、臓器の再生や傷の修復に大切な役割を果たします。しかし、加齢とともにこの幹細胞の機能が徐々に低下してしまう「幹細胞老化=ステムセルエイジング」が起こることが、最近の研究から明らかにされつつあります。
幹細胞の老化メカニズムを解明し、健康な幹細胞を取り戻すことができれば、加齢に伴う心身の不調や疾患を根本から治すことにもつながるのかもしれません。私たちは、皮膚における幹細胞老化の実態を探るべく研究を行っています。いずれは幹細胞に直接働きかける発毛が可能に!?熊本大学で研究室を主宰されている佐田亜衣子准教授による幹細胞老化の論文紹介です。筑波大学では友人の研究指導をなさっていたので一方的に存じ上げており、NPでの登場におぉ!となりました。私は最近、免疫細胞を供給する造血幹細胞も研究対象にしているのでその視点からコメントいたします。
多能性幹細胞は言うなれば赤ちゃん細胞、どんな細胞にもなれる(分化できる)ポテンシャルがあります。しかし分化が進むと後には戻れず行く先は次第に限定されていくわけです。分化は山から転がり落ちて行き先がわかれていくボールで例えられることもあります。このボールを重力に逆らって無理やり山頂へ戻す方法を開発したのが山中伸弥教授率いるグループだったのです。
幹細胞はちょっとした環境の変化で分化してしまいます。幹細胞を幹細胞のまま維持するゆりかごのような環境が必要で、それを”ニッチ(niche)”と呼びます。ビジネス用語としても「ニッチを探さないと!」という表現が使われたりすると思います。語源は西欧建築で花瓶などの小物を置く壁のくぼみでした。近年の解析技術の発展でニッチのメカニズムと重要性が少しずつ紐解かれてきています。記事にも登場するように、幹細胞そのものの老化とニッチを作る細胞の老化を、多角的に見なければならないという認識が高まっています。造血幹細胞ニッチも仮説が生まれては反論され、また新たな仮説が生まれるなど非常に興味深い展開を見せておりワクワクの領域です。私の所属研究室では、山本玲氏(現京都大学准教授)が老化した造血幹細胞を若いマウスに移植することで、細胞が若返る現象を発見しました。
https://www.asahi.com/articles/ASL4G20SRL4GUBQU001.html
3日間連続のPaperPicks最高に面白かったです!【論文PICKS】老化研究特集の最終回は、「幹細胞の老化」を取り上げます。
幹細胞とは、自分自身を分裂して増やしたり、さまざまな細胞に変化したりして、組織や臓器を健康に保つ働きをしている細胞のこと。
近年の研究で、なんと、老化によって自分の役目を忘れ、末端の細胞に変化してしまうケースがあることが分かってきました。
幹細胞の「アイデンティティ・クライシス」は組織全体の老化とどう関連しているのか。奥深い研究の世界をお楽しみください。