抗マラリア薬のリスク指摘した研究論文撤回、コロナ治療で データに問題
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今回のCOVID-19の流行にともない、査読すら通っていないプレプリントの報告も大きく取り上げられたり、投稿から掲載までの期間が短いものもみかけました。
感染拡大初期は確かに速報性が重視されました。
しかし一方で、『インフォデミック』の状態を来し、どこまで本当なのかを疑うもの、相互に矛盾した報告も多くなっていたことも事実。
そして今回、LancetやNEJMといった、我々が信頼をおく医学雑誌でデータの信頼性がゆらぐような報告があったということになります。
これらの研究に関与したデータ管理会社Surgisphere社が『架空会社』なのではないかという疑いが持たれており、極めて大きな問題です。
もしこれらが捏造だったと仮定すると、なぜ起こったのか、今後起こらないための対応が重要です。
一方で、『論文の査読』は基本的に無償で行われています。
Lancetクラスの査読はしたことはありませんが、私も月に1本程度いただきます。
査読は一般的に2週間以内の提出を求められますが、COVID-19関連は相当短縮した査読の提出を求められていたかもしれません。
査読は普段の仕事をしながら、合間の時間に行います。そして複数の査読者が査読し、何度も論文著者に戻しては修正の提出などを求めていくことになります。
Lancetクラスになると、素データの提出を求める場合もあるくらい、本来厳しい基準です。そして、査読者は短い査読期間内に、参考文献を確認したり矛盾点を指摘したりをするために大元のデータも確認したに違いありません。
しかし、大元のデータすら捏造だった場合…なかなか気づけない場合もある可能性があります。査読者も、そのテーマの専門家であったとしても、疫学データの専門家ではない可能性もあります。
科学の信頼を維持するためにも、十分に毅然とした態度で医学界は対応するべきと思います。一方で、論文・研究数が膨大になってきている現在、査読を無償で、短期間で行われる現状の難しさへ配慮する必要性もまた、あると思います。ヒドロキシクロロキンはコロナの治療として、アメリカなどで広く使われている抗マラリア薬に分類される薬です。トランプ大統領が「予防的に内服している」と発表したことで先日話題になりました。
感染が広まった初期段階では、治療効果の期待できる薬として、アメリカではメディアでも多く取り上げられていました。この流れは日本のアビガンと同様です。一方で使用したデータが集まってくると、投与による改善効果は期待できないという臨床試験の結果が複数出始めました。例えばニューヨークで1400人規模で行った観察研究の結果では、ヒドロキシクロロキンの使用と、人工呼吸器の使用や死亡率の低下との相関は認めませんでした。
https://www.nejm.org/doi/full/10.1056/NEJMoa2012410
5月22日にランセットで掲載された論文では、ヒドロキシクロロキンの副作用である不整脈の作用により、むしろ死亡率が上昇するのでは、という内容で衝撃を与えていました。その後さらに、この論文に使用していたデータベースが不透明性が高く虚偽のものではないかという疑いが浮上し、今回の論文撤回に至っています。かなり混沌とした流れです。
いずれにしても、ヒドロキシクロロキンの効果については他の臨床研究でもあまり期待できないという結論に至る結果が多く、効果が再注目されるということ考えにくいのでは、と思います。コロナ関連の論文は各国からすごいスピードで出されてきましたが、
科学論文の事情については堀向先生のコメントの通りです。
エビデンスに基づくことは大前提ですが、
そのエビデンスが正しいかどうかまで、簡単に確認できるわけではありません。
ただ、全てを疑っていてはなにも議論できないので、
その時点での正しい情報に基づいて判断し、
今回のようにその情報に虚偽があれば随時軌道修正していくしかないかと。