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アストリット・キルヒヘアへの想い 前編

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  • ノンフィクション作家、小説家、インタビュアー

    デビュー前のビートルズでギターを弾いていた「もう一人のビートルズ」と呼ばれるスチュワート・サトクリフと、彼の婚約者でビートルズにファッションやカルチャーで大きな影響を与えたアストリット・キルヒヘア。

    彼女はハンブルグのライブハウスで演奏していた若きビートルズと知り合い、友人となった彼らを撮影し、その作品で写真家としても注目を集めました。

    しかし、悲劇は間もなく訪れます。
    1962年、21歳の若さでスチュワートは突然に亡くなります。原因不明の脳内出血で婚約者を失ったアストリットは、ジョン・レノン、ポール・マッカートニー、ジョージ・ハリスンの友情に支えられながらも、芸術活動を手放し、その後は、嵐の中を行く小さな小舟のような、波乱の人生を送るのです。

    この2人と、若きビートルズを主人公にした「アストリット・キルヒヘア ビートルズが愛した女」が、私の作家デビュー作です。

    ビートルズが大好きで、彼らを撮ったアストリットの写真に魅せられた私は、アストリットとビートルズの青春を描くために、イギリスとドイツへ渡りました。今から28年前のことです。

    そして、アストリットに150時間にも及ぶインタビューをし、本を書き上げました。

    アストリットは、極東から来た親子ほど歳の違う私に、クリエイターとして信じた道を歩みなさい、と言ってくれました。自分はナイーブな心が邪魔をしてそうできなかったけれど、成美は絶対に諦めないで、と。人を描く作家になりなさい、と。

    私はアストリットの言葉を胸に、原稿を書き、その時間を紡いできました。
    アストリットは私にとって掛け替えの無いテーマであり、先輩であり、そして、歳の離れた親友でした。

    そのアストリットが亡くなりました。5月13日、ドイツのハンブルグで、友人に見守られて。

    82歳の誕生日を迎える数日前の水曜日でした。

    天国でスチュワートやジョンやジョージに、再会しているアストリットの晴れやかな笑顔を思いながら、追悼の原稿を書きました。

    アストリットの死を受け止め、パソコンの前に座るまで2週間かかってしまいました。


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