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SpaceX(スペースX)を徹底解剖! 事業概要、ビジネスモデル、歴史、組織、今後の展望まとめ

( 🚀🚀🚀2020年12月30日アップデートしました🚀🚀🚀)

sorano me編集部では『宇宙ビジネスモデル図鑑』と題し、Space Exploration Technologies Corp.(以下、SpaceX)を第1回として、様々な宇宙ビジネス企業を徹底解剖を行う連載を本日より開始します。

SpaceXと言えば、毎年多くのロケットを打ち上げ、民間による月周回旅行に株式会社ZOZOの創業者である前澤さんを世界初の乗客とすることを発表するなど、世界中の多くの人が知っているであろう世界有数の宇宙ビジネス企業。

また、直近ではロケットの開発だけではなく、大量の通信衛星を打ち上げ、ブロードバンド通信を世界中に提供するビジネスを展開するなど、その事業モデルは多岐にわたります。

名実ともに破竹の勢いで成長を続けるSpaceXは民間宇宙ビジネスのトップランナーと言っても過言ではありません。

では、2002年6月に創業してから現在に至るまで、どのような歩みがあり、また、どのように民間企業として儲けているのか。

sorano me編集部でSpaceXに関する3,000本を超える記事を読み、過去のプレスニュースを振り返り、求人情報を洗い出すなど、様々な観点からリサーチを行った結果をご紹介します。

それでは、SpaceXがどのような企業で、どのように儲けていて、また、創業者のElon Musk(イーロン・マスク)氏はどのような人物なのか、お楽しみください。

※宇宙ビジネスモデル図鑑では、『ビジネスモデル2.0図鑑』の「ビジネスモデル図解ツールキット」を活用させていただいております。

(1)ロケット、通信衛星、月面旅行に火星移住!? スペースXの事業一覧と概要

以下、SpaceXがすでに展開している事業、発表をしていて今後サービスが展開される予定の事業についてそれぞれ簡単にご説明します。

打ち上げサービス(Falcon9,Falcon Heavy)

SpaceXと言えば、ロケットの打ち上がる様子を思い浮かべる方も多いでしょう。まず初めに紹介するのは、打ち上げサービスです。2020年現在、SpaceXの打ち上げサービスで利用される機体は、「Falcon9(ファルコン9)」と「Falcon Heavy(ファルコンヘビー)」の2機。

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SpaceXのインスタグラムより

Falcon9は中型クラスの2段階ロケットです。衛星のほか、後述のドラゴン宇宙船やStarlinkの輸送に使用されています。標準打ち上げ価格は6,200万ドル。ブースターとフェアリングを再利用することで、アリアンロケットと比較して圧倒的な低コスト化を実現しています。

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SpaceXのインスタグラムより

Falcon Heavyは、Falcon9の発展型のロケットで、世界最大級の推進力を持っています。有人飛行を想定して設計されていて、月や火星ミッションへの使用が検討されています。標準打ち上げ価格はおよそ9,000万ドル。

【参考】
https://www.spacex.com/falcon9
https://www.spacex.com/falcon-heavy


衛星通信サービス(Starlink)

衛星「Starlink(スターリンク)」のコンステレーションを構築し、高速で低遅延なブロードバンド通信を世界中に提供することを目指しています。FCC(米連邦通信委員会)から12,000機の打ち上げ許可を得ており、追加で30,000機の申請を行っています。

2020年12月現在、すでに900機以上が宇宙空間に打ち上げられています。2020年10月にはアメリカとカナダを対象に「Better Than Nothing Beta」という名称のベータ版をリリースしており、アップリンク50Mbps、ダウンリンク150Mbpsを達成しました。

2021年には世界中でのサービス提供を開始すべく、ドイツでは周波数の認可を取得、日本でも調整が始まっています。

Starlinkの利用用途として、2020年10月にMicrosoftがAzureクラウドをStarlinkに接続する計画を発表、12月にはアメリカの地方の通信インフラを担うRural Digital Opportunity Fundで900億円規模の補助金を獲得しています。

【参考】
https://www.spacex.com/news/2020/04/28/starlink-update

https://www.cnbc.com/2020/10/27/spacex-starlink-service-priced-at-99-a-month-public-beta-test-begins.html

https://www.zdnet.com/article/elon-musk-yes-spacexs-starlink-internet-will-even-work-on-high-speed-transportation/


https://www.cnbc.com/2020/10/20/microsoft-expands-its-space-business-pairing-its-azure-cloud-with-spacexs-starlink-internet.html

https://www.cnbc.com/2020/10/20/microsoft-expands-its-space-business-pairing-its-azure-cloud-with-spacexs-starlink-internet.html
https://spacenews.com/spacex-wins-big-share-of-9-2b-rdof-broadband-subsidy/
https://www.tagesschau.de/wirtschaft/musk-starlink-satellit-bundesnetzagentur-101.html

https://www.tagesschau.de/wirtschaft/musk-starlink-satellit-bundesnetzagentur-101.html

StarShip(月、火星を目指す大型宇宙船)

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SpaceXのインスタグラムより

StarShipとは、乗員および貨物を地球軌道や月、火星へ輸送することを想定して設計された、「StarShip(スターシップ)」と「Super Heavy(スーパーヘビー)」の総称です。当初はBig Falcon Rocket(ビッグ・ファルコン・ロケット 通称BFR)と呼ばれていましたが、後にStarShipに改名されました。2段目ブースターのStarShipと、1段目ブースターのSuper Heavyを組み合わせ使用することで大きな貨物の輸送も実現させることができます。再利用が可能なことも特徴です。将来的には、Falconシリーズと完全に置き換えられる計画です。

現在StarShipのプロトタイプのテストが着々と進められており、動画でも公開されています。

【参考】
https://www.spacex.com/starship

Dragon(2020年3月に引退した宇宙への貨物船)

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SpaceXのインスタグラムより

Dragon(ドラゴン)宇宙船は、ISS(国際宇宙ステーション)への物資輸送を民営化させる目的でNASAが実施した施策「商業軌道輸送サービス(COTS)」プログラムによって開発、「商業貨物輸送サービス(CRS)」契約によって運用されています。ドラゴン宇宙船は、FalconシリーズとStarShipと同様に機体を再使用することができる設計となっています。第1世代のDragon宇宙船は2020年3月が最後の打ち上げで、後継機であるDragon2の運用が開始します。


Dragon2(Crew Dragon/Cargo Dragon)

Dragon2は、有人宇宙船のCrewDragon(クルー・ドラゴン)と、貨物を輸送するCargo Dragon(カーゴ・ドラゴン)の総称です。


Crew Dragonは、NASAの施策である「商業クルー開発(CCDev)」プログラムによって開発されました。2019年3月に無人飛行テストに成功し、2020年5月28日にはNASAの宇宙飛行士2名が搭乗するテストも成功。また、11月16日に、日本人宇宙飛行士の野口聡一さんが搭乗したCrew Dragonも見事に打ち上げとISSへのドッキングに成功。スペースシャトル退役から9年の時を経て、アメリカ本土から有人宇宙飛行を成し遂げる歴史的な快挙を成し遂げました。

2021年春ごろには星出宇宙飛行士がCrew Dragonに乗ってISSに向かい、日本人として若田光一宇宙飛行士に次いで2人目となるISS船長を務める予定です。
Cargo Dragonは、Crew Dragonを活用した宇宙船で、こちらも2020年12月に打ち上げ成功、ISSへの自律ドッキング(貨物船としては初)を成功しています。

【参考】
https://www.spacex.com/dragon


DragonXL(月周回有人拠点への貨物船)

2020年3月には、NASAが主導で進める月周回有人拠点「ゲートウェー」への物資輸送サービスの委託を受けています。使用されるDragonXLは、Dragon宇宙船の発展型で、5トンのペイロードを搭載できる想定です。


月周回旅行(最初の乗客は日本人!)

2018年9月にSpaceXは民間月周回旅行サービスの計画とその最初の乗客がスタートトゥデイ社長の前澤友作氏であることを発表しました。使用されるのは、最大9名の搭乗が可能な大型ロケット「StarShip」。2023年以降に提供が開始される予定です。


火星移住プロジェクト

Musk氏は、人類の火星移住を構想したことがSpaceXの創業のきっかけになったと言われています。2022年に最初の貨物を火星に送りインフラの整備を行い、2024年には有人飛行を計画しています。


高速長距離移動計画

StarShipとSuperHeavyを利用し、大気圏外を移動することで摩擦による影響を受けずに、世界中を1時間以内で移動することが構想されています。実現されれば、従来の航空機では10時間かかるロサンゼルスーロンドン間は32分、5時間かかる東京ーシンガポール間は28分とのことです。

以上、SpaceXの事業を羅列する形でまとめてみました。後半のビジネスモデル図鑑でもご説明しますが、宇宙への移動、かつ、輸送手段であるロケット事業を軸に様々な事業展開をしていることがお判りいただけたのではないでしょうか。

では、SpaceXが現在の成長を遂げるまでどのような歴史があったのか、SpaceXの創業者であるMusk氏の生涯と合わせて次の章でご紹介します。


(2)SpaceXの歴史とElon Musk(イーロン・マスク)の生涯

本章ではSpaceXの歴史を創業者のElon Musk氏(以下、Musk氏)の出生から簡単にご紹介します。

■Musk氏の幼少期~SpaceX 創業まで(1971~2002.6月)

SpaceX創業者であるMusk氏は、南アフリカ生まれ。生まれた時期はアパルトヘイトの歴史上でも、特に対立の激しい時代で、当時の南アフリカは人種差別政策により他国から制裁措置を受けていました。

そのような環境下で育ったMusk氏は、成長とともに自国の状況を知る中で、国の秩序自体に疑問を持つようになりました。その疑問から「人類の救済が必要だ」という思いが芽生え、その実現に一番近い場所として、米国に行くことを考えはじめたのです。

そして、17歳でカナダに渡り、親戚の家を転々としながらオンタリオ州のクイーンズ大学に入学。優秀な成績を修め、2年生を終える時には奨学金を得てペンシルバニア大学に編入し、経済学と物理学の学位を取得します。

大学の夏休みにシリコンバレーにある企業でのインターンの経験から西海岸に魅力を感じ、ペンシルバニア大学卒業後はスタンフォード大学の大学院に進学。しかし、在籍2日で退学し、弟のKimbal Musk氏と共に地域情報サイトを運営するZip2を創業後、Zip2をCompaq Computerに売却します。

獲得した売却益を投資して創業したのがX.com(後のPayPal)です。X.comはライバル企業のConfinityと合併した後、クーデターによってMusk氏はCEOから退任することになります。2001年6月に、Musk氏が30歳を向かえるのと同じくして、X.Comの名称が正式にPayPalになります。

このタイミングで、Musk氏は妻のJustine Wilsonと共にパロアルトからロサンゼルスへ。そして、SpaceXを創業する大きな契機がロサンゼルスでの経験でした。

まず、Musk氏はNPO団体であるMars Societyと接点をもちます。Mars Societyは、火星への探査及び植民を目的とした協会で、著名な映画監督のJames Cameronも名を連ねています。同協会の2001年の資金調達のパーティーにMusk氏は参加し、会長のRobert Zubrin氏とすぐに意気投合。Musk氏はその後Mars Societyの理事となり、協会のメンバーと火星探査に関わるプロジェクトについて議論する日々を過ごし、宇宙における探査の重要性を把握するようになりました。

また、惑星間飛行を真面目に考えるようになったのもこの頃から。宇宙産業で人脈を拡げるMusk氏はMars Societyの理事を辞任し、新しくLife to Mars Foundationという組織(当時のプレスリリースがこちら)を立ち上げ、より大きな宇宙ミッションへのディスカッションを開始します。そこで出たのが「火星オアシス」という、Musk氏がロケットを購入し無人制御可能な温室を火星に送り込み、火星で植物栽培に取り組むというプロジェクトでした。この時、使用するロケットはロシアから大陸間弾道ミサイル(ICBM)の中古品購入することをMusk氏は検討していました。

そこで、Musk氏は後のSpaceXの創業メンバーのひとり、Jim Cantrellにコンタクトをとります。Jimはロシアとのパイプを持っている数少ない宇宙産業の人材でした。
※Jimは後にVector Launch Incを創業

ロシアに赴き、ICBMの購入に向かったMusk氏一行が用意していた予算は、ICBM3基で2000万ドルでした。しかしこの予算ではICBMを購入できず失意のなかロシアからアメリカに帰ります。帰りの道中、Musk氏は自前でロケットをつくることを決意し、今のSpaceXの原型となる「ロケットベンチャー企業」の構想が出てきます。


■SpaceX創業初期(2002.6月~2008.9月)

2002年6月、Musk氏は創業時のメンバーとして、Jim Cantrell、TRWでロケットエンジンの開発経験があり、後のSpaceXの事業開発に大きく貢献するTom Mueller、Boeingの航空宇宙エンジニアのChris Thompsonらを誘い、SpaceXを創業します。

その後、Falcon1と命名された635kgのペイロードを690万ドルで運ぶロケットを、会社設立から15ヶ月で打ち上げることを発表。当時、300kgのペイロードを3000万ドルで運ぶロケットが普通だった宇宙業界にとってSpaceXが発表したのは異例の価格設定でした。また、2002年7月にはeBayが15億ドルでpaypalを買収したことで、Musk氏は約1億8,000万ドルの現金を手にし、この現金の多くがSpaceXの事業に注ぎ込まれました。

Falcon1の製作当初は、宇宙関連の部品業者の部品を組み合わせてFalcon1を完成させる予定でしたが、部品業者の納期が遅い上に見積もりが高く、自社でロケット部品も製作することに方針転換します。これを機にSpaceXは積極的で優秀な人材の確保が活発化。航空宇宙分野の豊富な経験を買われ同社初の営業としてスカウトされたGwynne Shotwellの入社もこの時期です。彼女はその後同社COO兼社長に就任し現在ではMusk氏の右腕となっています。

Falcon1の開発が順調に進む2003年の中頃、国防高等研究計画局(DARPA)が、偶然にもFALCONという同じ名称の”画期的な軍事能力”を求める計画の企業入札案件を公募を発表しました。

FALCONの内容は
・発射許可から24時間以内に打ち上げられる
・超音速の兵器や偵察用の小型衛星を搭載できる
・500万ドル以下で打ち上げられる
といった条件を満たすロケットの公募でした。
※『宇宙の覇者 ベゾスVSマスク』より

この公募にMusk氏は応募。FALCON(DARPA)のプログラムマネージャーのSteven H. Walkerは、多くのプロポーザルの中で、プログラムと同じ名称のFalconというロケットを開発しているSpaceXの書類に目をとめます。

Walkerは、実際にSpaceXの本社を見学し、彼らが本気でロケット事業に取り組んでいることを理解します。そして、2004年にDARPAは、SpaceXのFalcon1打ち上げを支援するために数百万ドルを出資。毎年Musk氏のポケットマネーで操業してきたSpaceXが、初めて外部から資金を調達した瞬間でした。

そして、2006年3月24日、Falcon1の最初の打ち上げ日がやってきます。離陸には成功しましたが、打ち上げ後約34秒後にエンジンが停止し、約59秒後に岸に近い海に墜落します。結果は失敗。DARPAの事故調査委員会の結果によると、失敗の原因は、燃料ポンプのナットが緩んだことによる燃料漏れと結論付けられました。ナットが緩んだのは、環礁の潮風による腐食だと見られています。

最初の打ち上げに失敗したSpaceXでしたが、2006年の初頭には、NASAは"商業軌道輸送サービス"(COTS)という名の、ISSに物資の運搬を行う補給機を開発する民間企業を支援する計画を発表し、SpaceXはこのプログラムにも応募していました。SpaceXにとって、COTSに選ばれることはNASAからのお墨付きという点だけでなく、受託による財務的な安定性にも繋がります。

無事、2006年8月にCOTSの企業にSpaceXが選ばれ、2億7800万ドルの契約金を受け取ることが決まります。

最初の打ち上げから約1年後、2回目のFalcon1の打ち上げ。この時の打ち上げでは上空100kmを超え宇宙空間に到達しました。ただし、第1段が切り離され、第2段が軌道に乗ろうとした時に空中爆発を起こし、結果は部分的成功。爆発の原因は、”スロッシング”と呼ばれるロケットの内部で液体燃料が振動することで機体の姿勢制御が崩れる現象でした。SpaceXはここまでで約2億ドルの資金を食いつぶしていました。

2回目のFalcon1の打ち上げから約1年半を経て、3回目のFalcon1の打ち上げが実施されます。しかしながら、結果はまたしても失敗。原因は、第1段ロケットが第2段ロケットに激突してロケット上部とエンジン自体が損傷したこと。また、第2段ロケットが点火しなかったため、前回の失敗のスロッシング問題が解決したのかどうかを検証することも出来ませんでした。

この時点で、残された資金で打ち上げられるロケットはあと1回だったとMusk氏本人は語っています。

Musk氏のポケットマネーも残り僅かで、出資元のシリコンバレーのVCであるFounders Fundからの投資額も底をついていました。3回目の打ち上げのわずか1か月後の2008年9月28日、4回目のFalcon1の打ち上げに臨みます。この時は誰もFalcon1にペイロードを搭載したいと思わなかったため、163kgのダミーペイロードを搭載します。また、3回目のFalcon1の時から、第1段ロケットと第2段ロケットの切り離しに要する時間のみ変更し、他は一切変更しない仕様でした。

そして運命の4回目、ついにFalcon1は打ち上げに成功します。Musk氏が500人の従業員と共に掴んだ快挙でした。この4回目の打ち上げの際、法務部長のTim Hughesは願掛けとしてワッペンに四葉のクローバーを付け足していました。失敗すればこれが最後の打ち上げとなることが社員も分かっていたからです。

4回目の打ち上げで成功したことから、以降のSpaceXのロケットの打ち上げでは、ワッペンのどこかに必ず四葉のクローバーが添えられることになっています。『宇宙の覇者 ベゾスVSマスク』より


■受託成長期(2008.10月~2012.5月)

Falcon1の打ち上げに喜ぶのも束の間、SpaceXの財務状況は危機的状況だったようです。Falcon9の開発も本格化し、さらにはMusk氏がCEOを務めるテスラモーターズの業績も芳しくなく……と、Musk氏にとっては資金繰りが喫緊の課題でした。

そんな状況に追い打ちをかけるように2008年のリーマンショック。Falcon1の打ち上げ成功で、マレーシア政府から衛星の打ち上げを受注していましたが、その金額が入るのは2009年。

絶望的な状況のなかで、Musk氏はNASAがISSへの補給契約を結ぼうと動き出していることを聞きつけ、SpaceXは、NASAの契約を獲得し、SpaceXがTesla, Inc.に融資することで両者が生き残ることに望みを託します。

2008年12月23日、SpaceXはNASAから合計12回分のISSへの商業貨物輸送契約を獲得し、16億ドルを手にします。SpaceXにとっては、NASAからの少し早いクリスマスプレゼントに見えたことでしょう。

2010年6月、SpaceXはFalcon9の打ち上げに臨み、1回目で見事成功。同年12月にはドラゴン宇宙船を搭載したFalcon9を打ち上げ、「ドラゴン」を地球軌道上に乗せた後地球に無事に帰還。そして、2012年5月22日、Falcon9から送り出された「ドラゴン」はISSへのドッキングを果たしました。成功が続く中で、数ヶ月後にはNASAから新たに4億4000万ドルを獲得し、「ドラゴン」による有人飛行に取り組み始めました。


■商業成長期(2012.6月~)

ドラゴンのドッキングに成功した頃、SpaceXの従業員は2000人を超え、NASAとの契約総額も40億ドル超。もはや世界を代表する宇宙企業となっていました。

2013年には、Musk氏は第39A発射台に関する契約書にサインをします。ケープカナベラル空軍基地の39A発射台が、民間企業であるSpaceXの手に渡った歴史的瞬間でした。その後も、Falcon9は打ち上げ数を着実に重ねていきます。NASAからの受注や米軍の発注だけでなく、他国の民間業者からも受注もありました。

その結果、2013年は3回のFalcon9の打ち上げに成功(内1回はドラゴン補給船)、2014年には6回のFalcon9の打ち上げに成功(内2回はドラゴン補給船)、2015年には6回のFalcon9の打ち上げ成功(内2回はドラゴン補給船)と、着実に成功を重ねていきます。

Musk氏はこれに満足せず更に新しい挑戦を始めますが、宇宙開発の壁がSpaceXを待ち受けていました。

2015年6月28日、約7年ぶりにロケットの打ち上げに失敗。この失敗でドラゴン補給船7号機を喪失します。

失敗から半年後、様々な修正点を加えたFalcon9の打ち上げに臨むSpaceXが宇宙へ運ぶのはORBCOMM社の衛星11基(ORBCOMM-OG2)。3回目の第1段ロケット着陸の挑戦(具体的には、Falcon9の第1段を自律的に制御して地上に再着陸させる)でもあり、このチャレンジが成功すればロケット第1段の再利用が進み、打ち上げコストが更に下がるというものでした。第1段の着陸の試みは過去3回失敗しており、今回が4度目の挑戦でした。

打ち上げから2分24秒後、第1段と第2段が無事に切り離され、第1段は窒素燃料のスラスターを使用してブースターの前後の向きを反転させます。その後9基あるエンジンの内3基が再び点火し、軌道上でブレーキをかけます。そして地上のケープカナベラル空軍基地に戻ってきます。地上に戻ってくる際は、縦150cmほどの小さなフィンで姿勢制御。SpaceXは着陸の様子をwebサイトで生中継していたため、世界中の人が固唾を飲んで見守っていました。Musk氏をはじめSpaceXの社員に大きなプレッシャーがかかる中、Falcon9の第1段着陸は見事に成功し、ロケット第1段の回収という前人未到の挑戦に成功します。

その後もFalcon9の第1段回収を精力的に実施し、ついに第1段の再利用に挑戦したのが2017年3月30日。このFalcon9の打ち上げで使用された第1段ブースターは、2016年4月18日に打ち上げで回収されたものでした。
これにより、一度使用した第1段ブースターを再度打ち上げに使用できることをSpaceXは実証。また、この時の打ち上げでは、ロケットのフェアリングの回収にも成功しています。

時は戻り、SpaceXは2016年IAC(国際宇宙会議)で、BFR(後にStarshipと名称変更)という名称の火星への往還を可能にする大型宇宙船の計画を発表します。Starshipの大きな特長は新型のエンジン。Falcon9やFalcon Heavyで使われているマーリンエンジンは、ケロシンと液体酸素を使用するエンジンですが、Starshipで使用されるラプターエンジンは、液体メタンと液体酸素を使用する新型エンジンです。

ラプターエンジンの燃料に液体メタンを採用した理由は、火星でも燃料を生成することを想定しているから。Starshipは火星往還機であり、火星から地球に帰ってくる必要があります。しかし帰りの燃料まで地球から運搬するのは非現実的なのです。

Starshipと Super Heavy(1段目のブースター)の実験は、テキサス州ボカチカに新たに建設した打ち上げ場で実施しています。Starshipは、まだ市場に登場していませんが、2023年には日本人実業家の前澤友作氏が搭乗し、月へ1週間の宇宙旅行をする予定です。

さらに、Falcon9で第1段の回収及び再使用の実績を重ねるなか、SpaceXは、最終ミッションである火星移住のために更に収益性の高い事業に乗り込みます。それが2015年1月に発表したStarlinkという名称の通信衛星コンステレーション計画です。計画当初は、Starlinkと言う名称はついていませんでしたが、2015年1月に同計画を発表しています。

Starlink計画では、1基あたり約400kgの小型通信衛星を軌道上に1万2000~4万2000基打ち上げ、高速で低遅延なブロードバンド通信を地球上のどこからでも利用できるようになることを目標にしています。サービスの運用が開始されれば、今まで価格や地理的な要因などでインターネットが利用できなかった人々にもアクセスを提供できるようになると期待されています。小型通信衛星の設計寿命は5年で、1基あたり20Gbpsの通信帯域を担保する計画となっています。

通信衛星コンステレーションに取り組むライバル企業はSpaceX以外にも多数ありますが、自前の打ち上げロケットを持っている点で、SpaceXの優位性は圧倒的です。2018年2月22日にデモのStarlink衛星を打ち上げ、その後FCC(連邦通信委員会)から承認を受けて、2019年5月24日に最初のStarlinkミッションに取り組み、同衛星60基を軌道投入成功。

2020年5月1日時点で、7回のStarlinkミッションに取り組んでおり、合計422基のStarlink衛星が軌道投入されています。SpaceXは2020年後半から、カナダと米国北部をカバーするStarlink通信ネットワークの提供を開始させる予定で、2021年には全世界へサービスを展開する計画となっています。

2020年2月6日には、COOのGwynne Shotwell氏が世界有数の銀行持株会社であるJPMorgan Chase & Co.主催の投資家イベントに出席し、Starlink事業部門をSpaceXから分社化し、将来IPO(新規株式公開)させる可能性があるとも宣言。SpaceXのロケットという大きな優位性を活かしながら持続的、かつ、大きな収益ポテンシャルがStarlink事業には期待されています。

※本章の執筆にあたり、海外ニュースサイト、複数の書籍を参考にさせていただきました。より深く興味のある方はぜひ書籍もご覧ください。

【参考】
宇宙の覇者 ベゾスvsマスク
イーロン・マスク 未来を創る男

以上、SpaceXの成長の軌跡とMusk氏の生涯についてご紹介しました。ロケットの打ち上げに3度失敗し、資金が尽きかけたところで念願の成功を果たし、次々と異例の成功を遂げ続けるSpaceX。火星への移住という壮大な話は、SpaceXのこれまでを考えれば決して夢物語ではないと実感していただけるのではないでしょうか。では、これほどまでに大きなビジョンと事業を推進するSpaceXの組織はどのようになっているのか、次章ではボードメンバーの経歴と組織構造を紐解いてみました。


(3)SpaceX役員の略歴と組織体制・求人情報

現在、SpaceXの役員は全部で7人、アドバイザーが3人という経営体制になっています。

役員

この中で宇宙業界に精通していると思われるのは、役員かつ社長(President)およびCOOでもあるGwynne Shotwell氏とアドバイザーで、15年のロケット開発経験を持つTom Mueller氏の2名です。

この2名以外の8名はIT企業出身もしくは、投資側の人材です。PayPalやTesla Motersなどイーロンマスクとの関係が深い企業に関わっていたメンバーから、Googleなどいわゆる一般的なIT企業のメンバーもいます。

社員数としては6000人以上で、現在も多くのポストで人材を募集しており、2020年5月5日時点で623のポストで募集があります。

OPEN POSITIONS | SpaceX
https://www.spacex.com/careers/list

以下、大きいカテゴリと募集しているポジション数でまとめてみた表になります。※最近サイトHPが変わってしまったようで、職種の大きなカテゴリがなくなってしまったようです。

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さすが技術投資の話題に事欠かない企業だけあって、ロケット打ち上げ関係のエンジニアや作業者、衛星の量産体制を作れる製造系のエンジニアの採用が目立ちました。「Manufacturing and Production - Technicians and Trade Skills」の詳細を見ると、「Structures Technician (Dragon Spacecraft)」「Starlink Electro-Mechanical Technician」のように、プロダクトや技能ごとにさらに細かく募集内容を見ることができるので興味のある方はぜひご覧ください。

■エンジニア・技能士関連の職種(一部抜粋)
・Manufacturing and Production - Technicians and Trade Skills
・Manufacturing and Production - Engineering
・Launch - Engineering
・Satellite Development
・Software Development
・Launch - Technicians and Trade Skills
……etc

このように、あらためて募集しているポストを眺めてみると、本当にロケットや衛星のほぼ全てを内製していることが分かりますね。

さらに、ポジション数で比較した時に一番募集の多いカテゴリが「Supply Chain Management(供給連鎖管理)」であることや、「Information Technology - Infrastructure Design and Support(情報技術・インフラ)」「Manufacturing and Production - Operations(製造オペレーション)」といった職種も多くの門戸が開かれていることから、ロケットや衛星そのものの設計よりも、いかにそれを定常的に動かしていくかという部分にも焦点を当てて人を採用していることが伺えます。

■経営成果をより高めるための職種(一部抜粋)
・Supply Chain Management
・Information Technology - Infrastructure Design and Support
・Manufacturing and Production - Operations
・Information Security
……etc

また、「Sales(営業)」「Legal and Government Affairs(法務・政府関連業務)」「Finance(経理・財務)」のように、日本で言うところの文系職と呼ばれる職種も募集がありますね。その他、「Food Services」というものも公式HPに掲載されています。私はロケット開発や衛星開発のスキルは持っていないけれど、何か宇宙産業でできることが無いかを探しているという方はぜひ覗いてみてください。

■直接ロケットや衛星開発に関わらない職種(一部抜粋)
・Sales
・Legal and Government Affairs
・Finance
・Food Services
……etc

以上、SpaceXのボードメンバーと採用状況から見る組織体制についてまとめてみました。次はいよいよSpaceXのビジネスモデルについて、ヒト・モノ・カネがどのように回っているのかを調査した結果をご紹介します。

(4)スペースXのビジネスモデル総覧(サービス、ステークホルダー総まとめ)

本章では、スペースXが展開する事業について、お金の流れと合わせてその特徴をご紹介します。

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