【直撃】本田圭佑の投資論。「僕は起業家の生命力を見る」

2020/6/2
コロナ後の世界で、本田圭佑氏の動きが活発だ。
4月末にはCEOを務めるNow Do株式会社が音声コンテンツの定額制配信サービス「Now Voice」をリリース。配信者としてダルビッシュ有選手、錦織圭選手ら、「本田人脈」を駆使した各界のトップアスリートが名を連ね、話題を呼んだ。
5月28日にはFiNC Technologies元CEOの溝口勇児氏、ネスレ日本元CEOの高岡浩三氏とともに、新ファンド「WEIN挑戦者FUND」を設立することを発表。
「ウェルビーイング(心身ともに健康で過ごすこと)」領域で事業を運営する国内スタートアップを支援すると表明した。
同ファンドは「孤独・退屈・不安」を21世紀の重要課題と捉え、その課題を解決する起業家に対して、事業支援・人的支援を含めた投資活動を行っていく。
まずは6月に最大20億円程度の「0号ファンド」を立ち上げ、その後立ち上げる「1号ファンド」は数百億円程度になる予定だという。
実は本田氏は、2016年に個人の投資会社「KSK Angel Fund」を設立し、すでに50社以上にスタートアップ投資を行っている。
中でも2016年から17年にかけて2000万円強を投資したクラウドファンディング企業の「Makuake」は、2019年12月にマザーズに上場。同ファンドは売却益として約4億円を手に入れ、現在も時価総額30億円を超える株式を保有している。
そんな本田氏はなぜ、このタイミングで「新ファンド」に参画したのか。「投資家・本田圭佑」に今の頭の中を尋ねた。

スマホがもたらした社会問題

──今回立ち上げた「WEIN挑戦者FUND」では、「ウェルビーイング」をテーマとしています。
本田 そもそもなぜ、僕が新しいファンドを作ろうと思ったかというと、パートナーの溝口さんとは以前から親しい関係にありました。彼がFiNCでやってきたことや、スタートアップをサポートしてきたことを、僕はずっと見てきまして。
一方、僕自身は、KSK Angel Fundというファンドで、個人のお金をスタートアップに投資してきました。ただ、チームとしてスタートアップを支援したい気持ちが強かった。KSK Angel Fundでは、アドバイスを求められたら力になれるように努めてきましたが、実際は投資をして終わりのことも多かったんです。
実務的にスタートアップをサポートして、成長させられるパートナーがいればと思っていて、溝口さんと一緒にやることになりました。彼は僕と違って、スタートアップに実際にコミットできる。(溝口氏が声をかけて参画した)高岡さんも同じです。
コンセプトに話を移すと、日本では内紛が起きることもないし、病気で死ぬ人も、明日のご飯に困る人も、全くいないわけではないけど、大枠は問題として解決されています。これは、先祖が日本を発展させてくれたおかげです。
一方で、人間関係の悩みや孤独といった社会問題が生じている。これは貧困や内紛に比べて目に見えませんが、僕は大問題だと感じていて。知られているように、日本の自殺率は先進国の中でトップ3に入っています。
特にネットやSNSでのやりとりに孤独を感じたり、疲弊したりする人が多すぎる。誰かがちょっとした発言をしたら、それが炎上して、ネットでのいじめが行われるなんて、本当に訳が分からないですよね。言葉の暴力が軽視されすぎだと思います。
スマホという発明はすごいけれども、そのトレードオフとして、こうした社会問題が出てきている。今後誰かが、もっと真剣にコミットしていかないと、問題は大きくなっていく。だから僕らは、この問題にアプローチしていこうと思っているんです。
「WEIN挑戦者ファンド」と名付けたからには、僕ら自身も挑戦者であることがテーマだし、社会の問題に目を向けた本物の挑戦者たちを支援していくつもりです。

日本人は精神的に疲れている

──本田さんはかねがね「世界の課題を解決する」を人生のテーマに掲げていますが、今回のファンドは日本企業が対象です。課題解決の手法が「日本から出てくる」ことに期待する思いがあるのですか?
僕が日本人ということは間違いなくありますし、ウェルビーイングに関しては、日本は一番深刻な国の一つと言っても過言ではないと思っています。
僕はよく、外国の人から、「何で日本人はあんなに働くんだ。もっと幸せなバケーションを取ればいいのに」と言われるんです。それに対して「それが日本人の良さや!」と言うことはあるんですが、確かに人生を楽しむという意味では、ヨーロッパやアメリカの人の方が上を行っています。
僕らの方が勤勉ですが、すごく精神的に疲れているわけですよね。外から日本を見ていて、ずっとそれを感じてきました。
だからこそ、一番深刻な状態に陥っている日本から解決策が出てきたら、世界にそれを広げることができるんじゃないかなと思います。

あえて苦しい時期に立ち上げる

──前回のインタビューでも「今はスタートアップにとって環境が厳しい」と話されましたが、コロナ下の今、あえて乗り出す理由は何ですか?
ウェルビーイングというテーマは、こういう苦しい状況でこそ、やる意味があると思っています。このプロジェクトをなんとしても成功させて、あえて苦しい時期に立ち上げたことを意味のあるものにしたいという覚悟でいます。
今は経済対策も発表されていますし、なんとかまだやれている状態だというのが僕の認識です。ただ、これからは本当に深刻なときがくると思っていて。
そんなときに力を合わせて挑戦者をサポートすることができれば、ビジネスとしてももちろん、社会的にもインパクトがあると思うんです。
また、リーマン・ショックのときには、あの時期に立ち上がったアメリカや中国のベンチャーがデカコーン(時価総額100億ドル以上の未上場企業)になっている事例がありますよね。日本もそれくらいのポテンシャルがあるというのが投資家としての視点です。
日本の金融機関や大企業はもっとベンチャーをサポートすべきだと思うし、ある意味僕らみたいな小回りの利く人間が、大企業が手の届かないところをカバーする。そうした役割を担えればと思います。

案件を「新ファンド」に集約

──「WEIN挑戦者FUND」は本田さん、高岡さん、溝口さんが代表パートナーに名を連ねていますが、本田さんはどのような役割を担うのですか?
僕は遠隔での関わり方になるので、可能な範囲でのコミットになりますが、KSK Angel Fundでやったこと、学んだことの延長線上を行っていきます。
意思決定はチームで行いますが、たとえばPRや発信など、他の投資家にはなくて僕にはある強みを全面的に発揮してきたいと思います。
5月28日に実施されたオンライン記者発表会
また、これまでKSK Angel Fundで受けてきた新規の案件を、今後は全て、WEIN挑戦者ファンドで引き継ぎます。僕に来る全ての案件は、まずはWEIN挑戦者FUNDで検討します。
もっとも、チームで「投資しない」と判断して、それでも僕が投資したいと思った案件はKSK Angel Fundで投資する形もあり得ますが、僕の国内の投資は、WEIN挑戦者FUNDを前面に出していきます。
──投資の際、どのような判断軸で意思決定を行うのですか?
そこは難しいですね。それぞれのメンバーが経験を持っているので、場合によっては激論になるんじゃないですかね。スタートアップのフェーズによっては、数字で分析することが可能な企業もあります。
でもまだ数字がない段階の会社に関しては、本当に千差万別だと思っています。だから、自分たちがウェルビーイングだと言えるのであれば、どんな起業家もアプローチしてほしい。
僕らはスタートアップが一番大変な、事業を立ち上げてから軌道に乗せるまでの時期を、サポートすることができるので。

ビジネスモデルは変わるのが前提

僕個人で言えば、経営者しか見ていません。ビジネスモデルはとりあえず聞きますが、どうせ変わると思っています。こんなふうに事業が成長していく、というのは9割9分うまくいかない、絵に書いた餅です。
それよりも、思い通りに行かなかったときに、とにかくこの人は死なずに生き残れるか、それだけの生命力があるかというのを、経験値を元に判断していきます。はっきりと言語化しているわけではありませんが、要するに、僕は人に投資をするんです。
繰り返しますが、数字が既に出ている会社は、きちんと数字を見ます。でもこれまでも、数字が出ていない段階での投資も多かった。その場合は人を見てきましたので、今後もその点を大事にしていくと思います。
(聞き手・構成:野村高文、撮影:龍フェルケル、デザイン:堤香菜)