【森岡毅】マーケティング人材を輩出したい

2020/5/27
ユニバーサル・スタジオ・ジャパンの再生で名を馳せた、マーケターの森岡毅氏。2年前に「刀」を創業し、日本企業の成長に挑んでいる。この2年の道のりと、将来のビジョンを聞いた(全6回)
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「ノウハウ」を残したい

森岡 IPOすることを考えたら、「刀」も、今よりももっと実力をともなった会社になって、上場できるぐらいになりたいですね。
ただし上場はあくまでも、われわれがやりたいことをするために必要な資金の調達手段だと思っています。
佐々木 森岡さんは、ご自身がお金持ちになることには、あまり興味がありませんよね。
森岡 あまりありませんね。お金は老後のためにため込むより、世の中に還元すべきだと思っています。
P&G時代、年収が1000万あるかないかぐらいの20代の後半のときに建てた家に今も住んでいますし、乗っているクルマもジムニーです。
本当はUSJの成功報酬で少しお金をいただいたんです。でも、それも「刀」に全賭けしました。
私は死ぬときにお金が残っていたら、あまりうれしくありませんね。
こんな言い方をして誤解されたら嫌なんですが、せっかく佐々木さんがいらっしゃるので、本音を言いますね。
私は昔、一生働かなくても済むぐらいのお金を手に入れたら、自分は何をするだろうかと考えたことがあります。
でもきっと働くんじゃないんだろうか、私はお金ではなくチャレンジが欲しいんじゃないんだろうかと思ったんです。
実際USJの成功報酬で、一生働かなくてもなんとか生きていけるくらいのお金をいただいた。
だからそのとき人生守りに入ろうと思えばいくらでもできたし、USJも残ってくれと言ってくれたので、そこで何となく気持ちよく過ごしていくという選択肢もあったんです。
でも私はその道を選ばなかった。なぜなら安定やお金は私にとってあまり重要でないということが、実際にそういうお金を手にしたときにわかったんです。
私が欲しかったのは挑戦であり、自分が生きている間に生み出せる価値の達成感なんです。
だからもしIPOをしたら創業者メリットを得られるかもしれませんが、そういうお金が手に入ったら、また新しい事業に全賭けするでしょうね。
佐々木 オールインですね。
森岡 生きていくだけだったら、そんなにお金はいりませんよ。
それよりお金って、われわれがやりたいアイデアとか情熱とか、世の中を少しでもよくすることができる力なんです。
世の中の不便、不合理、非効率、この三つのどれかを解決することで、社会が少しでもよくなることにお金を使ったほうが私は気持ちがいい。
自分が死ぬときに残っていたのがお金だけなら、私は笑って死ねませんよ。
やはり私は50年後、100年後、日本の役に立つだろうと思える事業と、自分のノウハウを残したい。「刀」をそういう器に仕上げることができたならば、私は自分の人生に、少しだけ意味を感じることができる。
そういうことにチャレンジしていきたいと思います。

「刀」を人材輩出の器に

佐々木 森岡さんは、「日本の役に立ちたい」とか「元気にしたい」とよくおっしゃいます。
今回、大和証券との提携でも「地方創生」というキーワードが出ていましたけど、そこにこだわるのは、やはり日本全体を元気にするためには地方が大事だと思われるからですか。
森岡 おっしゃる通りです。
私はそもそも「地方」という言葉はあまり好きではありません。だから別のいい名前がほしいのですが、「地方創生」という言葉が意味しようとしていることは、その地域に持続可能な事業をつくるということだと思います。
(写真:kanonsky/iStock)
つまり仕事を生み出し、価値を生み出すということ。
そうすると人が集まる。人はいい仕事があって、いい学校があって、いい住環境があれば集まるんです。
そうやって魅力のある地域が増えていくことが、日本の安定的な経済のためには、絶対に必要なんですよ。
もし東京だけで日本が成立するかといえば、そんなことはない。完全に経済が停滞します。
でも北海道に魅力的なものがないと、人は北海道へ動かないわけです。
東京の中で楽しく過ごせるのなら、北海道まで行く飛行機代も宿泊代も出しません。長距離をより多くの人が動いて初めて経済や情報が動くわけですよ。
それには東京以外の場所に、消費者にとって彩りある選択肢をつくるしかない。
私がUSJでハリー・ポッターを頑張ったのも、まず大阪にそういう場所をつくろうと思ったからです。
それまでは大阪なんかストローだと言われてましたからね。関空は通るけど、みんな京都か富士山か東京に行っちゃって、大阪にとどまる人などほとんどいなかった。
でもハリー・ポッターをきっかけに、いまは東京からたくさんの方に来ていただいています。
インバウンド動線も大阪経由に変わったんです。人の動線が大阪に向き始めると、大阪の経済が回り始めますよね。
(写真:ymgerman/iStock)
ああいうことを、他の地域にもできないかと考えるんです。たとえば沖縄でも北海道でも東北でも九州でもできるでしょう。
九州も新幹線が通っていない地域は本当に危機感がありますよ。
日本にはすごくいいものがいっぱいあります。本当に誠実に頑張っていらっしゃる方も多い。
ただ、マーケティングに関しては、知見が不足しているが故に、成功していない。
そういう方々に対して、われわれが化学反応を起こすことによって、世の中を活性化していきたい。
そういう意味では「刀」という器では事業もつくり、思想もつくるのですが、もっと大事なものを生み出さなければいけないと思っています。
私は「刀」の社是を、「マーケティングで日本を元気にする」と定めていますが、その根幹は何かというと、やはり"人"だと思っています。
「刀」を強力なマーケターを生み出す器としてビルドアップしていきたい。
今は本当に一騎当千の、一人でも食っていけるようなツワモノばかりが集まっています。
佐々木 武将のような方が。
森岡 はい。みんな個性が強い。それこそトマムの星野リゾートを復活させた佐藤のような人間も来てくれました。
もちろんこれからも、そういう方を集めていきます。
一方でマーケティングの前歴はないけれど、シンキングもリーダーシップもコミュニケーションもポテンシャルを持っている、新卒の方を採用する構想もあります。
そして「刀」でノウハウと実践経験を学んで、いつか旅立っていけば、そこでマーケティングが生きるでしょう。
マーケティングを広めていくというのは、マーケティングができる人をつくっていくということです。
私の目の黒いうちに、ぜひとも「刀」をマーケティング人材を輩出する器としてビルドアップしたい。新卒採用も始めていきたいと思っています。
佐々木 それは人気が出そうですね。
森岡 そのためにも今回の大和証券さんとの資本増強は意味があると思っています。
安定的な経営をするためには、即戦力ではなくても、将来の日本の宝になってもらえるような方々に広く呼びかけたいと思っています。
われわれはまだ何一つ達成していない、まだ創業から2年しか歴史がないルーキーですので、これからいいことも悪いこともあると思います。
でもわれわれが歩いた後ろを振り返ったときに、これは日本のためになったなということを一つでも増やしていければと思っています。
どうぞサポートをよろしくお願いします。
NewsPicksは、2020年7月よりプロジェクト型スクール「NewsPicks NewSchool」を開校。その中でも9月から特別プロジェクトとして始まるのが、「森岡毅& 刀実戦マーケティング・ブートキャンプ」を開校します。伝説のマーケターである森岡毅さんと、森岡さん率いる精鋭マーケター集団「株式会社刀」が総力を挙げて実施します。

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