【森岡毅】沖縄テーマパークの勝算と具体像

2020/5/26
ユニバーサル・スタジオ・ジャパンの再生で名を馳せた、マーケターの森岡毅氏。2年前に「刀」を創業し、日本企業の成長に挑んでいる。この2年の道のりと、将来のビジョンを聞いた(全6回)
【森岡毅】マーケティングができるゴールドマン・サックスを目指す

ベンチマークはハワイ

佐々木 沖縄のテーマパークに勝算があるとおっしゃっていましたが、特にどういうところに勝算を感じていらっしゃるのですか。
森岡 沖縄パークが100%成功するとは言いません。
ただし、構造的に成功できる確率が非常に高い。なぜならば沖縄のパークの周辺、移動距離3時間圏内には3億人のアジアの人口があるわけですね。
ベンチマークになるのは、たとえばハワイです。ハワイは世界の観光の宝石と言われていますよね。
(写真:okimo/iStock)
沖縄を中心に飛行機での移動3時間圏内の円を描くと、アジアの主要都市はほとんど入っています。
よく比較されるハワイで3時間圏内の円を描けば、人間はいなくて、住んでいるのはイルカだけ。
ところが、ハワイと沖縄にはほぼ同等の人数が訪れています。
長距離を飛んでくる分、向こうのほうが滞在日数が長いので、1人当たりが使うお金は沖縄に比べたら何倍も多い。
そのハワイと比べて、沖縄は地政学的にはるかに有利なんです。近郊の離島も含め、水の透明度や、落ち着いた美しい海が見られる確率などを計算すると、観光資源としての海の価値は沖縄のほうが上です。
「やんばるの森」というところなどは、素晴らしい観光資源を持っている。でもアピールされていないので、この良さを知らない方が多い。
正直言って、ハワイと沖縄が入島数で並んだといって喜んでる場合じゃないんですよ。飛行機で3時間圏内に3億人もの人口があるのに、ハワイと人数が同じなのは絶対におかしい。
じゃあ、なぜハワイは沖縄並みに集客できているのか。
実は、みなさんあまり知らないのですが、1960年代のハワイは、なんとただの軍港でした。あんな宿泊施設などなかった。
1960年代に、志あるアメリカ人と、志のある投資家が、地域に属す産業として観光をやるんだと投資した結果、50年かけて今のハワイになったんです。飛行機で8時間、10時間かけて人が飛んでくる島になった。
これ、めちゃくちゃ尊い仕事をしていると思いませんか。
それなのに、この人たちの名前に正確にリコールできる人が、現代ではほとんどいない。私は調べましたけどね。
人生なんて一瞬でしょう? その中で自分が死んでからも残るような変化の起点をつくれるって、なんて価値の高い仕事をされたんだろうと思うわけですよ。
それに比べてわれわれ日本人がどれだけ沖縄に対して向き合ってきたんだろうと思うと、まだ投資が足りないと思います。
(写真:okimo/iStock)
特に東京にいると、必ずしもポジティブなニュースばかりではないので、沖縄はいろいろな見方をされています。
でも沖縄は、琉球王国時代から交易と観光でうまくいくように地政学的に運命づけられた奇跡の土地だと思っています。
ですから沖縄のためというよりもむしろ日本のために、沖縄を日本のための観光の宝石に変えるという戦略を本気で実行するべきだろうと、USJ時代からずっと思ってたんですよ。
USJはあのとき日本企業だったので私は当時の社長のグレン・ガンペルと一緒に、日本のためにアジア最大のエンターテイメント企業をつくるぞって本気で思っていましたから。
でも株主がコムキャストさんに代わり、企画が白紙に戻ってしまった。
もちろん私もちゃんと議論させてもらいました。彼らにしてみれば、沖縄にパークを造ることは、長期的な戦略メリットがなかった。
当時は北京にユニバーサル・スタジオを造ることが決まっていて、大阪にもUSJがあり、シンガポールにもある。その中間地点である沖縄にテーマパークを造るメリットはなかった。
(写真:NonChanon/iStock)
しかも沖縄は3000億円のパークを造る商圏ではない。
しかし小規模のものを造るとなると、今までの開発のパイプラインとはまったく違うリソースを当てなければいけない。
カニバリゼーションが起こる中間に、開発思想の違うものを1つ追加で持つことは難しいという決断をした。
これは一つの正解だと思います。だから恨みがましいことは申し上げません。彼らを説得させられなかったのは、私の力不足です。
当時われわれを応援してくださった多くのみなさまには、本当に申し訳ないと今でも思っています。
ですからこれが原因で辞めたわけではありませんが、だったら自分たちでやってやろうという気持ちになりますよね。日本国のために、観光を成長産業に変えるために。
日本にはさまざまなソフトウエアのコンテンツのアセットがある。
これを生かしてマネタイゼーションできる、しかもユニバーサルもディズニーも持っていないようなマーケティングノウハウを持った会社をつくろうと思った。
それが「刀」という会社をつくろうとした根本の動機の一つになっています。

本能を揺さぶられるような体験

佐々木 沖縄のテーマパークはどんなテーマパークになるか、もうある程度、具体像もできていますか。
森岡 あります。これもしかるべきタイミングで発表します。
ジャパンエンターテイメント社の社長である加藤健史は、USJ時代に私と一緒に沖縄のプロジェクトをやってた仲間なんです。
私は彼のことを一度も部下だと思ったことはない。彼の口から世の中に発表してもらえる時期は、いずれ来ると思います。
しかしながら、今、実は環境アセスメントをしている最中で、その結果によっては、ある程度、企画を変えなければいけないかもしれません。
私たちは自然をできるだけ傷つけない方法でパークを造りたいと思っているので。ですから詳細は言えないのですが、大きいことは言えます。
つまり東京にいる人が、そこに行くために沖縄に行きたくなるようなものを造らないといけないんですよ。
たとえば昔うわさになったことがあるんですが、沖縄にディズニーランドを造るという計画があるとするでしょう。
でも沖縄にディズニーランドを造っても、みんな沖縄に行きませんよ。すでに東京ディズニーランドがあるからです。
どれだけ大規模に造っても、沖縄のディズニーランドが東京ディズニーランドよりも大規模になることはないでしょう。それにジェットコースターに乗りたいなら富士急ハイランドに行けばいい。
要は、都会でできるようなことを、わざわざ沖縄まで行ってしたくないわけですよ。
みんな沖縄のような南国リゾートならではの、本能を揺さぶられるような体験がしたいわけですよ。それが一番都会でできないことです。
(写真:tdub_video/iStock)
それには大自然とのインタラクションの中で、それを高確率で発生させる装置をつくることです。
その装置のことを、われわれはこのパークの「アトラクション」と呼ぼうと思っています。
鉄骨とコンクリートとハイテクマシンのみでできているテーマパークにはない、自然の良さを味わえるものをつくります。
簡単に言うと、お金を持っている人がリゾートに行って、すごくスリリングに見えるんだけど、実はちゃんと安全性と快適性が担保された体験をする。
基本的なコンセプトはgreat nature without messです。「mess」というのは、面倒くさいこと。
いま、富裕層にアフリカのサファリキャンピングなどが売れています。
野生動物が出没してもおかしくないところにテントを張って、そこでグランピングをしたりする。そういうものにお金持ちが1泊何百万円も払っている。ニューヨークでもフィラデルフィアでも得られない刺激を求めているんです。
まあわれわれは1人何百万円払っていただくわけにいかないので、沖縄に行ってみようかと思う人が、「ああ、ここを訪れてみたいな」と思うものを造りたいと思っています。
佐々木 ネスタリゾート神戸でも、自然を押し出したかたちで成功されましたものね。そのノウハウも生きるかもしれません。
森岡 その学びも生きると思います。
もちろん、今ネスタでやっていることよりももっとダイナミックに、金を使った企画にはなると思います。
でも、そのハイテクに仕掛けられているということがあまり表立って見えないようにします。
むしろ自然環境の中で本当に自然に起こっているように見せる。テーマパークに来る人たちは、「私をだましてちょうだい」と思って来てるわけでしょう。
ディズニーランドには、「ディズニーの世界観の中で私をだまして」と思って来る。ハリー・ポッターだって、原作のJ・K・ローリングさんの世界を描いた映画をさらに模型にした、模型の模型なわけです。
でも、そこを本物だと思わせるのがお約束です。
だから、「大自然の中でしびれるような体験をさせて」という人間のデザイアに火をつけるようなものにならないといけない。
(写真:7maru/iStock)
そのための企画も用意はしていますが、環境アセスメントの結果によっては組み合わせが変わってくるので、もう少しお待ちいただければと思います。
佐々木 早ければいつごろ体験できそうですか。
森岡 2024年から2025年ぐらいでしょう。できるだけ早いほうがいいとは思っていますが。
佐々木 楽しみですね。ちょうど万博とも同じ時期ですね。
森岡 そうなんです。そこで1号店がうまくいく兆しが見えたら、すぐ2号店、3号店のスイッチが押せるようにしておかねばならない。
このエンターテイメント事業に関しては、だいぶ資金調達しなければいけないと思うので、そのときは資金調達のために「刀」をIPOすることも考えています。
※続きは明日掲載します。
(撮影:竹井俊晴)
NewsPicksは、2020年7月よりプロジェクト型スクール「NewsPicks NewSchool」を開校。その中でも9月から特別プロジェクトとして始まるのが、「森岡毅& 刀実戦マーケティング・ブートキャンプ」を開校します。伝説のマーケターである森岡毅さんと、森岡さん率いる精鋭マーケター集団「株式会社刀」が総力を挙げて実施します。

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