【森岡毅】マーケティングができるゴールドマン・サックスを目指す

2020/5/25
ユニバーサル・スタジオ・ジャパンの再生で名を馳せた、マーケターの森岡毅氏。2年前に「刀」を創業し、日本企業の成長に挑んでいる。この2年の道のりと、将来のビジョンを聞いた(全6回)
【森岡毅】リゾート施設と遊園地が「勝つ戦略」
大型資金調達の目的
佐々木 先日、「刀」と大和証券さんが組んで140億円の資金調達をしたというニュースが飛び込んできました。
今後は1000億円の規模でお金を集めて、地方創生やホテルや飲食店の再生も手掛けるということですが、これは「刀」にとってどういうチャレンジになりますか。
森岡 投資をともなわないと立て直しや成長が難しい事業にも、「刀」が関われるようになるということです。
つまりエクイティー(株主資本)を入れ、「刀」の人間が向こうの会社の人として働くことによって、思い切ったことができるようになります。
今回、大和証券さんにご出資いただいた140億円は一応マイナー出資として、「刀」の中に入れます。
正確に何割かは言えないのですが、3分の1以上、半分未満。3割か4割を溶かしたということですね。
佐々木 起業家にとっては大きな決断ですね。
森岡 今までに、「われわれがあと20億、30億持っていたら、この会社を助けられるのに」というようなことが何度もあったんですよ。
しかしわれわれは志や情熱はあるけれど、実働してからわずか2年のスタートアップなので、お金を持っていなかった。やはりお金を持っていないとエクイティーは手に入らないんですね。
だからわれわれは、シードマネーを入れてもいいという戦略パートナーが現れるような結果を出そうと、今までがんばってきました。目標は創業から5年以内に、そういうパートナーが見つかることでした。
それが、われわれ「刀」の第1形態です。
佐々木 これからどんどんメタモルフォーゼしていくわけですね。
森岡 そうです。
蝶でいえば第1形態の幼虫の時期。創業から5年で幼虫からサナギになろうと思っていたんですね。でもおかげさまで、2年でサナギになることができました。
これである程度実績を積み、さらに大きなキャッシュが使えるようにフローを組んで、もっといろいろなM&A案件などにも絡んでいけば、ついに蝶になる。
そこで大きく跳躍させるためには、賭けに出なければならないときが来るだろうなと想定しています。
これから「刀」は、マーケティングのノウハウを提供する部分を強化していきます。
今までは「刀」はフルパッケージのチームを送り込んで、かなり濃密にわれわれのノウハウを移管していくスタイルで目覚ましい結果を出してきました。
しかしそれでは安くはないコンサルフィーを払っていただける会社しか、われわれを雇えない。
でも将来の日本をよくするためには、小さい会社やお店にもマーケティングの技法を知って実行してもらいたい。
今朝も前を通ってきましたけど、商店街の花屋さんとかクリーニング屋さんとかケーキ屋さんにも、マーケティングを知ってほしいと思っています。そうすれば日本からもっと輝くようなアイデアがいっぱい出てくる。
それには私の本を読んでもらってもいいのですが、読んでなるほどと思っても、自分で実践するのはハードルが高いでしょう。それを自分のビジネスに生かすための落とし込みをするためには、やはり「ノウハウの使える化」をしなければならない。
たとえばスマホで「刀」のノウハウが使えるような、そういうプロダクトにしてノウハウを売る。そうやって裾野を広げていくことを、事業の柱のひとつにします。
マーケティング×投資
森岡 「刀」のような、一騎当千のマーケティングの精鋭を集めた、実業をリードする力を持ったマーケティングカンパニーって、実は日本にも世界的にもほとんど例がないんです。
でも私は、USJで頑張っていたとき、ある一つの集団の働きぶりを見たんですね。
それがゴールドマン・サックスです。
めっちゃ優秀ですごい人たちが大勢いた。どうやって中長期で利益を生み出す座組みをつくるかを考えるあの執着と、脳の中の回転速度と、その迫力。この人たち、すごいと思いました。
彼らのおかげでハリー・ポッターの資金調達ができました。そのとき、「ああ、投資ってすごく意味があるな」と思ったんです。
さきほども言ったように、1800兆円のお金が日本には眠っていますが、それが可能性のある投資のほうに回ったら、経済はどんどんよくなっていく。
投資というのは実はすごく貴重な社会的機能です。この投資能力を持っているのがゴールドマン・サックスなんですよ。
でも、彼らはマーケティングとか経営、運営能力がないので、私を雇う必要があった。
ということは、もしこの世にマーケティングができるゴールドマン・サックスのような会社が生まれたら、それはすごい可能性を持つのではないだろうかと思ったんです。
(写真:istock.com)
佐々木 マーケティングができるゴールドマン・サックス。いいキーワードですね。
森岡 可能性のあるアイデアや事業を見つけてきて、そこに投資する資金を持ち、かつ自分たちの人間を送り込んで立て直すことができる。この会社はさまざまな事業への対応能力が高い。
そういうマーケティングができるゴールドマン・サックスのような会社にするために、今「刀」は幼虫からサナギになりました。蝶になったときには、おそらく「刀」には三つの事業の柱ができているはずです。
絵に描いた餅で終わらないようにしなければいけないのですが、一つはマーケティングノウハウを世の中に提供して、マーケティングを広めていくこと。これはわれわれのマーケティングコンサルテーションサービスも含みます。
そしてこれからは、その裾野を広げていくこと。
たとえば街の洋服屋さんが、われわれの需要予測のノウハウを自分の売るTシャツの枚数に当てはめることを、スマホ一つでできるようにする。
もう一つは、沖縄のテーマパーク事業です。
私はUSJ時代に沖縄にテーマパーク事業をやろうとして、力不足でうまくいかなかったことがあります。
でもUSJをやめて、「刀」をつくってから、もう一度チャレンジしようと思いまして、実はジャパンエンターテイメントという運営会社をつくって準備しています。
今回、大和証券さんから得た140億円のうち30億円を、この沖縄のテーマパークの運営会社に出資します。われわれがメジャーで筆頭株主になると思います。
沖縄にテーマパークをつくるというと、「大言壮語だ」「妄想だ」とみんなに言われるのですが、でも私は今までいろいろな妄想をしてきましたけど、だいたい実現できましたよ。
どれだけ高い壁でも、階段を作れば登れちゃうんですよね。「登れないだろう」と思うよりも、「きっと登れるに違いない。じゃあどうすれば登れるか」を考えるようにしています。
沖縄にこだわる理由
森岡 したがって、沖縄のテーマパークの成功確率に、まったく根拠がないわけではありません。
私は「腹黒い」とか「計算高い」とか言われるんですが、ただ純粋に勝つ確率を計算しているだけなんです。
こういうと「森岡さん、なんでそんなに沖縄にこだわるの?」とか「沖縄のテーマパークって何?」と言われるのですが、私は沖縄のためだけにやっているんじゃないんですよね。
沖縄のテーマパークは、日本のエンターテイメント事業を日本の成長産業にするためのプロトタイプなんです。
ジムを造る前にガンダムを造ってるわけです。今の喩えは、世代間ギャップがあったらすいません(笑)。
佐々木 いえいえ、大丈夫です。
森岡 テーマパークを造るには、巨額の費用がかかります。USJはだいたい3000億円ぐらい。東京ディズニーリゾートはパークが二つあるので、その倍。とてつもない金額です。
それだけの投資をして、ペイできるサイズの商圏を持つ立地は、世界に数十カ所しかありません。
(写真:Travelina/iStock)
さらにパークを建設できる土地があって、ノウハウを持った人がいて、お金が集まって、アイデアがあってというこの四つが揃わないとテーマパークというものは建たない。奇跡のような確率なんです。
だから世界にバトルシップ・テーマパーク(超大型テーマパーク)って10個あるかないかなんですよね。
つまり、USJのような規模のパークをもう一回造るのはなかなか確率が低い。しかもこういうテーマパークはアメリカの会社、特にディズニーさんの独壇場ですから、そこで戦っても勝ち目がない。
それなら800億円前後で建てられるものはないか。私が今回やろうとしているのは、ゴルフ場に居抜きで入ること。これならアジアだけでも建てられる商圏は何百とあります。
アジアは成長していて富裕層が生まれているし、ライブエンターテイメントのニーズもある。これから5Gが主流になる世の中では、デジタルに振れれば振れるほど、ライブがきゅんきゅんきますからね。
ですからテーマパークはライブエンターテイメントの一番身近な選択肢として残るはずです。
となるとそこが成長産業になっていく。
3000億円ないと第二のUSJは建てられないけれど、ゴルフ場に居抜きで入るような、800億円でできてしまうテーマパークを仮に10個造れば、オリエンタルランドに比肩するエンターテイメント会社がつくれるということです。
その運営会社が、ジャパンエンターテイメントですよ。
なぜこの会社に「ジャパン」という名前をつけたかわかりますか。
今、USJもオリエンタルランドも、ディズニーさんやユニバーサルさんにライセンス料を払ってるわけですよ。これは米国にとって稼ぎ頭になっているのですね。
日本はクリエイティブの天才が、いろんなアイデアを生み出す国でしょう。でも、それをマネタイズする力がない。
これまで私のような仕事をしてきた人間たちの力不足のせいです。クリエイティブの天才が大勢いるのに、それをGDPに変える力がない。
私は世の中の不便、不合理、非効率という、この三つを打破することによって、起業が成功すると思っています。
私自身は真ん中の不合理にチャレンジして、ジャパンエンターテイメントという会社を、クリエイティブの天才たちが生み出したさまざまな傑作を輸出していくプラットフォームにしたいんです。
佐々木 わくわくしますね。
森岡 私はいつもチェックメートの完成形から入るので、もう最終的な目標もできています。
つまり日本が生み出したソフトパワーによってGDPを稼ぎ、稼いだお金が日本に入ってくる構造をつくりたい。
ジャパンエンターテイメントの本社は沖縄の北部に置きます。そこにパークを造るということですね。
この話をすると「ああ、また妄想癖が出た」と言われます。
ハリー・ポッターを造るときも、みんなに「おまえ、何を妄想しているんだ」と言われましたし、私がP&GからUSJに移るときも、先輩方に「やめたほうがいい」と言われましたけど、私の中には勝ち筋が見えるときがあって、それを試さずには死ねないんですよ。
もちろん絶対うまくいくなんてことは世の中にありません。何か予測外のことが起きてうまくいかないかもしれない。
でもやるべき意味があって、成し遂げることに価値があるのなら、私は、私の目の前に来たハードルは跳びたい。何度も繰り返しますが、みんなが高いハードルを跳ばなくなってから、日本は停滞していると思います。
これをうまく跳べたならば、日本のために幸いなものができるはずです。
整理すると、マーケティングのノウハウを売る、エンターテイメントを日本の成長産業に変える、それから直接投資によって経営に直接関わることで、事業を再生する。
この3本柱で「刀」を大きくしていきます。
でも一つひとつの柱が大きいので、順番なども考えながらやっていこうと思います。しかしこの三つは全部つながっているので、「刀」が成長することで、日本が今よりもいいほうに行くようにしたいんです。
もちろん一企業が出てくることによって、日本の大問題が解決するなんてことはありません。
ただ、もしもわれわれがやろうとしていることが一つの成功モデルになれば、同じような考え方を持っている方が刺激を受けて、さまざまな変化の起点になれるかもしれない。それを期待しています。
※続きは明日掲載します。
(撮影:竹井俊晴)
NewsPicksは、2020年7月よりプロジェクト型スクール「NewsPicks NewSchool」を開校。その中でも9月から特別プロジェクトとして始まるのが、「森岡毅& 刀実戦マーケティング・ブートキャンプ」を開校します。伝説のマーケターである森岡毅さんと、森岡さん率いる精鋭マーケター集団「株式会社刀」が総力を挙げて実施します。

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