【森岡毅】リゾート施設と遊園地が「勝つ戦略」

2020/5/24
ユニバーサル・スタジオ・ジャパンの再生で名を馳せた、マーケターの森岡毅氏。2年前に「刀」を創業し、日本企業の成長に挑んでいる。この2年の道のりと、将来のビジョンを聞いた(全6回)
【森岡毅】マーケティングで日本を豊かにしたい
ネスタリゾート神戸の改革メソッド
佐々木 横浜のIRにも刀は関わっているんですね。
森岡 今度発表されたセガサミーさんの横浜のIR(カジノを含む総合型リゾート)の計画の志に、私は感銘を受けました。
カジノを造るのなら、絶対にいいものにしなければいけない。日本人をギャンブル好きにして終わるようなものには絶対にしない。
もちろん懸念はありますが、すでに公営ギャンブルも、パチンコも存在しますから、ここに関しては激変するとは思いません。むしろカジノを起点にして、エンターテイメントを事業化することができる。
カジノで回る経済によって、たとえば海を渡ってラスベガスまで行かないと見られない『O(オー)』のような100億円を超える生のライブショーを日本の子どもに見せることができる。
社会的なメリットとコストを考えたときに、私は日本にとってカジノIRは必要だと思います。
刀のノウハウを活かすことで、人の心を豊かにする、本当の意味でのインテグレーテッドリゾートをつくらねばならないと思って参画させていただきました。
それからグリーンピア三木というリゾート施設にも関わらせていただいております。
佐々木 「ネスタリゾート神戸」ですね。
森岡 そうです。志のある素晴らしい経営者のみなさんに、「刀さん、お願いします」と情熱をもって言っていただいて、お手伝いすることになりました。
ただ、関東にお住まいの方はわからないと思いますが、「グリーンピア三木」というだけあって兵庫県の三木市にあるんです。でも「ネスタリゾート神戸」という名前になった。
佐々木 ブランドが全然違うように聞こえますよね。
森岡 そうなんです。
でも、まあ神戸と三木は隣合わせでそれほど離れていない。千葉にありながら「東京」と名乗る東京ディズニーランドさんよりはまだ罪は軽いかなと私は思います(笑)。
これを立て直すのはもちろんハードルが高いです。でも、われわれが関わらせていただいてから、もう売り上げが2.6倍になっています。
グリーンピア三木は開業以来、もう何十年にわたって赤字しか出したことがないんですが、今期中にキャッシュフロー黒字になりそうです。
後藤高志会長率いる西武グループのみなさまとの、西武園ゆうえんちの立て直しも進んでいます。これも実は2年くらい前、「刀」の創業とほぼ同じタイミングで温め始めたアイデアです。
西武グループさんには100億円というお金を出していただいていますが、遊園地を全部造り替えたら1000億かけても足りません。
ディズニーランドもUSJも、うん千億円かけています。ハリー・ポッターだけでも400億~500億円かかっているわけですから、100億円というのは、大きなファサードを5つ造ったら終わりです。ですから普通は100億円では何もできないわけですよ。
もう、ないものはない。でも、あるものはあるわけです。
気づけていない「価値」を見いだす
森岡 一つの現象には必ず両面があります。西武園ゆうえんちを見て「うわあ、古くて人がいなくて廃墟のようだ」とおっしゃる方もいます。
でも私は西武園ゆうえんちが70年の歴史の先に行き着いたこの現状を逆手に取って、見方によってはそこに生まれる価値をつかもうと思います。
今の西武園ゆうえんちの、かなり古くなった遊具を大きく全部替えなくても、100億円はできるだけ追加のほうに回していって、今のものを生かしながら、古さを良さとして見せるようにしたい。
その物自体を変えられなくても、見方を変えることで価値が変わるんですよ。たとえば佐々木さんの眼鏡を変えてしまうとしますね。
佐々木 眼鏡が変わると見え方が変わる。
森岡 もしくは絵そのものを変えることができなくても、額縁を変えることによって絵の価値を変えてしまうということができます。これはマーケティングのリフレーミングというテクニックです。
要は、人はものごとの価値を文脈で判断するということですね。
たとえば私が今、海パンでここに座っていたら、みんな、「変なやつ」と思うでしょう。
でも同じ格好でも、ここがビーチサイドならOKでしょう。ものごとの価値は文脈が決めるという話なんです。
ですから西武園ゆうえんちの特徴がプラスに変わるように文脈ごと変えてしまうような戦略で、この100億円を有効投資しようとしています。
西武園ゆうえんちが古くて昔からあることがいいなあと思うように仕掛けていく。古き良き日本の、あのころの世界観を使って幸せを売っていく。
ディズニーランドさんはディズニー映画の素晴らしいコンテンツを使って幸せを売っています。
彼らと規模は比べるべくもないでしょう。でも消費者の彩りある選択肢の一つにはできるのではないか。
これも、50年後、100年後の日本のために意味のある仕事だと思っています。
佐々木 昭和ですよね。私もイメージビデオを拝見しましたけど、本当に懐かしくなります。
森岡 昭和のテーマパークを造ろうとしているわけではなく、昭和の世界観を使って幸せを売りたいのです。
もう問答無用に愛されてた子どものときを断片的に思い出すことってありませんか。
佐々木 ありますね。母親の愛とか。
森岡 はい。自分が人に嫌われるかもしれないとか、礼儀作法とか、社会的しがらみとか、まったく気にせずに行動していたころ。
私はきれいなチョウチョを追いかけて近所の庭に入っていって、思いっ切り植木鉢を踏み割ったことがあるんです。でも「ごめんなさい」と謝ったら、お隣のおじいさんは許してくれました。
そういう自分の心の中に置き忘れてきた、自分が無条件に愛されていたときの原体験はみんなそれぞれ持っている。
その原体験を刺激しながら、その人の現状を幸せだと再確認してくれるような脳内の構造ループをどうやってつくるかを考えて、ブランドを設計しています。
佐々木 そこまで考えているんですね。
森岡 ですから、私はうまくいくと思っていますが、正直言ってハードルは高い。でもハードルが高いから、私たちは挑戦したいと思ったんです。
逆にそれだけの意味がある仕事です。後藤さんのおっしゃる「所沢をいい場所にしたい」というビジョンもその一つです。
私が失敗するのを待っている人もいると思います。
「誰でも450億円かけてハリー・ポッターを造れば成功するよね。でもあの西武園ゆうえんちを甦らせたら本物だって認めるよ」と言われたこともあります。
でもみんなが失敗するかもしれない高いハードルを跳ばなくなった結果、この30年間で日本はどうなったか。
誰かが跳ばなくてはならないハードルを跳ばないのは駄目だと思うのです。
それはもう、跳ぶしかない! 跳んだら見える世界がある。転んで泥まみれになっても、地べたに落ちた目線から見つけられるものは、きっとあるはずなんです。
中規模、小規模の事業者のみなさんに「あの西武園ゆうえんちが甦ったんなら、うちも何かできるんじゃないか」と思ってもらえるような結果を出したい。
ないものはありませんよ。それは、ないものを考えてもしょうがないと言いますが、ないものはない、つまり、ないように思えても実はすべてある。実はわれわれの考えようです。
戦略というのは、物の見方によって、自分の周辺にあるリソースを見いだすことです。
著名な戦略家は、このリソースを見いだす天才ですよ。実は気がついていないだけで、いろんなリソースはすでにあるんです。だから「ないものはない」けれど、「あるものはある」んです。
丸亀製麺さんも、最初は少し自虐的に、「うちは一店ごとに粉から麺をつくるという鈍くさいことをやってるんですよ。
本当はセントラルキッチンを造ってそこから各店舗に麺を配送すれば、すぐに利益率が数ポイント上がるんです。でも、こういうところがうちらしくてね」とおっしゃってたんです。
だいたいダイヤモンドっていうのは、その会社でみなさんが「うちはね」と少し恥ずかしげにおっしゃるものの中に埋まっていることが多いんですよ。
佐々木 自分では、いいところが見えないわけですね。
森岡 そうなんですよ。そういうものを見つけることによってリソースが増える。
リソースの多い少ないは自分の見方次第。リソースが足りないという前提で考えると、パワーが湧いてこない。
「リソースは絶対にある。自分が気づいていないだけだ」というバイアスを自分にかけないと続きません。
それを思いつくまでは、私もかなりしんどいです。
でも、そのぎりぎりのところで考え抜く力というか、『思考の耐久力』というか、ずっと考え抜くことが大事です。マラソンのようなものですよ。
それがポキッと折れないためには、「リソースはある」という前提を信じることにしています。
だから今のところ私も、「刀」の仲間も、何とか価値を生み出すことに携われてきたのかもしれません。
※続きは明日掲載します。
(撮影:竹井俊晴)
ニューズピックスは、2020年7月よりプロジェクト型スクール「NewsPicks NewSchool」を開校。その中で9月から特別プロジェクトとして「森岡毅& 刀 実戦マーケティング・ブートキャンプ」を開始します。伝説のマーケターである森岡毅さんと、森岡さん率いる精鋭マーケター集団「株式会社刀」が総力を挙げて実施します。

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