【森岡毅】マーケティングで日本を豊かにしたい

2020/5/23
ユニバーサル・スタジオ・ジャパンの再生で名を馳せた、マーケターの森岡毅氏。2年前に「刀」を創業し、日本企業の成長に挑んでいる。この2年の道のりと、将来のビジョンを聞いた(全6回)
森岡毅が語る、「刀」に込めた思い
丸亀製麺「V字回復」の舞台裏
佐々木 森岡さんが「刀」をつくってから2年のあいだに、丸亀製麺、ネスタリゾート神戸、農林中金など、さまざまなプロジェクトを進めてきました。
まずどれを最初に手掛けたんですか。
森岡 先方のご都合で名前の出せないプロジェクトもあったので、今、名前が挙がらなかった会社も実はやっています。
だいたい片手ぐらいのプロジェクトが同時並行していて、なかには思った通りにいったものもあるし、いかなかったものもあります。
でも、マーケットシェアとか売り上げという観点でいえば、顕著なプラスの成果が出なかったプロジェクトは一つもありません。それはわれわれの小さな誇りです。
たとえば丸亀製麺さんは、2018年の9月くらいにスタートしました。非常にわれわれをご信頼いただいたので、客観的な目でマーケティング戦略をつくり、「刀」のノウハウも入れていきました。
丸亀製麺を経営しているトリドールホールディングスの粟田貴也社長は、すごく決断力のあるカリスマであり、アーティストのような才能をお持ちの商売人です。
あの会社は急激に大きくなっていったので、もっと丁寧に社員一人ひとりと社長の信念を共有していけば、もっと質的に伸びる余地がありました。
われわれはマーケティング戦略をつくるお手伝いはしましたが、根本的なアイデアはトリドールさんがずっとやってこられたことから得たんですよ。
丸亀製麺さんは800店舗もあるのに、いまだに店ごとに粉から麺を打っています。ふつうはそんなことあり得ないでしょう。
写真:ロイター/アフロ
佐々木 それは意外と知られていませんよね。
森岡 知られていなかったんですよ。それは、やはり、「出来たての麺で人を幸せにしたい」という粟田さんの哲学を、みなさんが実直に実行されていたからです。
私たちがやったのは、それこそがダイヤの原石だと見切って、磨いて、それを本物のダイヤモンドにするところです。
私たちも汗はかきましたけども、実行にあたっては一生懸命店頭で頑張ってくださっている方がいるわけです。
この一連の流れを見ても、もちろん「刀」だけでできることはありませんし、ましてや私一人でできることなど何もないというのは、ご理解いただけると思います。
ただ、「刀」がいないと、もしかしたら難しいかもしれないのは、最新鋭のマーケティングの分析能力によって、勝つ確率の高い分野、投資すべき領域をあぶりだすことです。
これを私は「ビジネスドライバー」と言っていますが、たとえば丸亀製麺さんが出来たてにこだわって1店舗1店舗で麺を作っているということがそうです。
これが実はダイヤモンドなんだということを発見するのは、私だけのガッツやひらめきではない。
これはノウハウを体系化して「刀」のメソッドになっているので、「刀」の誰がやっても、分析能力でそれをあぶり出せるようになっています。
佐々木 能力が属人化していないのですね。
森岡 はい。それは若手でも使えるようにしています。そういうところが「刀」の得意技その1。
もう1つの得意技は、それを実行していくときの、実戦者ならではの苦労とかチャレンジがわかっていることです。
だからクライアント企業のみなさんの苦労も私たちには想像できます。「でもそこをやりましょう」と、痛みをわかりながらのコミュニケーションができるのです。
マーケティングなら何でも対応できる
森岡 でも最後はやはり、企業のリーダーの決断次第のところがあります。世の中は粟田さんのような優れたリーダーがいる会社ばかりではない。
そういう会社の事業のためには、われわれがコンサルティングのような立場で関わるのではなく、エクイティ(株主資本)を持ちながら、社長やマーケティング担当者を「刀」から派遣し、コンサルではなくてその事業会社の人間として立て直すこともあります。
意思決定の権限を握らないとよみがえらない事業ってけっこう多いんです。
のちほど詳しくご説明しますが、大和証券グループ本社と手を組んだのはその資金を得るためです。
私がUSJにいたことから、「刀」はテーマパークが得意だと思われるのですが、われわれは水でも、空気でも、電気でも、消費者が選ぶBtoCマーケティングであれば何でも対応できると思っています。
実は消費者が選ぶ構造というのは同じで、それを同じ一つの数式で予測できるというのが私の発見です。
私はUSJの前はP&Gでシャンプーや洗剤を売っていましたし、たとえば私が信頼している刀の森本咲子さんはSK-Ⅱという化粧品を大きくした人です。もういろんな背景を持つ人間が刀にはいます。
佐々木 たとえばCMのノウハウとか生かされていますよね。私も丸亀製麺のCMを見て、ちゃんとこだわって作っていることが伝わると思いました。
森岡 あれは丸亀製麺のマーケティングチームと一緒に作らせていただいたものですが、売れる確率が上がる広告を作るノウハウが「刀」にはあるので、それを伝えて、われわれがいなくてもノウハウを使えるように彼らをトレーニングします。
もちろんわれわれも、彼らが持っているさまざまな経験、知見、ノウハウから学ぶことも多いです。
うどんというものの奥深さとか、消費者がうどんに求める本質的な欲求とか、深く理解すれば理解するほど奥行きがある。
そういう意味では、「刀」は広告代理店のようにどこかよそで広告を作るのではなくて、丸亀製麺さんと一緒に、広告代理店の皆さんに作っていただいているのです。
日本のウォーレン・バフェット
佐々木 BtoCという意味で印象的だったのが、「刀」が農林中金バリューインベストメンツさんと組んで投信まで啓蒙していることです。「ここに来るか」と少し意外でした。
あれも今までのノウハウを生かすための、延長線上にあるということですね。
森岡 そうですね。
実はすべてのプロジェクトは共通しています。20年後、30年後、50年後、100年後の日本が豊かになるための事業に、われわれは自分たちの知恵と時間とエネルギーを注ぎ込もうとしているということです。
まず農林中金というのは、日本を代表する、世界有数の機関投資家なんですね。ものすごくでかい巨大戦艦なんですよ。
日本の行く末を考えると、豊かであり続けるために極めて大切なことがあります。
日本には投資されていない、あぶれているお金が1800兆円ある。でも日本の内需は減っていくわけですよ。
それならこの1800兆円のお金を世界中に投資して、そこから上がってくるリターンによって日本を潤わせるしかない。この1800兆円を種もみにして実らせるしかないでしょう。
しかし日本人には金融リテラシーがめちゃめちゃ欠けている。お金を儲けるとか、投資をするというのは悪いことだと思っている人が多い。とんでもないですよ。
実は投資と投機の違いもわかっていない方が多い。
だから、株を買うことは投機だと思ってしまう。短期売買は投機的側面が強いけれど、実は株を買うというのは投資なんですよね。
投資というのは、中長期において社会に出資しながら、そのリターンとして自分もリターンをいただくという志あるものです。
農林中金には、日本のウォーレン・バフェットと言われる奥野一成さんという方がいます。
彼の話を聞いたとき、私と同じ危機感を共有できて、かつ私にはないものを持っている人だと思ったんです。
もちろん彼は3500億円のファンドを預かる、機関投資家の中でもエース中のエースですから、私にないものを持っているのは当たり前ですけどね。
その彼が、トリプルAとかダブルAプラスとかいう会社ばかりが投資しているような、機関投資家向け優良ポートフォリオの門戸を個人投資家に開いて、一般の個人が100円から参加できるようにしてくれたんです。
この投資信託には刀が「おおぶね」という名前をつけさせていただきました。
マーケティングで日本を豊かにしたい
森岡 長期厳選の哲学にのっとった、機関投資家向けの脇の固い投資ポートフォリオです。
彼らのもともとのリソースを元にしているので、取引手数料は、コミッションが1%を切っています。私が自分で買ったときは1万1800円だったものが1年間で1万3800円になりました。
農林中金さんと組んだのも、彼らの目指すものが日本を豊かにすることだったからです。
丸亀製麺のトリドールさんにも、うどん文化を土台にして、世界に打って出てほしい。日本の食がいかに洗練されていて、安くてうまいのかを世界に知らしめてほしい。
海を渡って世界で稼いだお金を日本に還流してくれる未来を、私は願っているんです。
つまり行き着く先が、豊かな日本の未来につながりそうな事業をお手伝いしている。
さきほど対消費者相手のビジネスだったら、「刀」はお役に立てると言いましたが、もちろんテーマパークもそうです。
実はエンターテインメントこそが、日本のためにお金を稼ぐ次の成長産業だと思っています。
※続きは明日掲載します。
(撮影:竹井俊晴)
ニューズピックスは、2020年7月よりプロジェクト型スクール「NewsPicks NewSchool」を開校。その中で9月から特別プロジェクトとして「森岡毅& 刀実戦マーケティング・ブートキャンプ」を開始します。伝説のマーケターである森岡毅さんと、森岡さん率いる精鋭マーケター集団「株式会社刀」が総力を挙げて実施します。

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