アマゾンが、高級ファッションをのみ込む

2020/5/21
NewsPicksのグループメディア米Quartzから、新型コロナウイルス感染の拡大による社会的・経済的なインパクトについて、配信された内容をお届けします。
INDEX
①ファッション業界の危機に手を差し伸べるAmazon
②買収は増えるのか
③世界をアップデート

①ファッション業界の危機に手を差し伸べるAmazon

Amazonの破竹の勢いは止められない──。
多くの人がそう思っているでしょう。しかし、そのAmazonが唯一征服できていない分野があります。ハイファッションです。
Amazonは、少なくとも2012年からこの分野に取り組んでいますが、デザイナー企業をプラットフォーム上に誘致しようにも大きな苦戦を強いられてきました。
Amazonは“ベーシックなもの”を売ることにたけており、それによって同社は、米国でおそらく最大の衣料品小売業者へと成長していきました。一方、存在そのものが利便性とはほど遠いハイファッション・ブランドを売るのはあまり得意としてこなかったのです。
しかし、新型コロナウイルスがAmazonに好機をもたらしています。
世界各国と同様、米国の独立系デザイナーは、悪夢のような状況に直面しています。これらの企業はキャッシュへの依存度が高く、小売業者が店舗を閉鎖し買い物客も支出を減らしているなか、売り上げが大幅に減少することになりました。
多くの企業は、長く生き残るための資本を持っていない可能性が高いのです。そして、同じ状況にもかかわらず多くの顧客を集めているAmazonが、それらの企業へのサポートを提供しようとしています。
AmazonはVOGUE誌および米国ファッション協議会(CFDA)とパートナーシップを締結し、3.1 Phillip LimRyan RocheAdam Lippesなどの有名デザイナーを含め、20人の独立系デザイナーのプロダクトを販売するデジタルショップを開始しました。
実際のところ、それらの大半は、すでにAmazonの子会社であるShopbopで売られていました。
しかし、今回のディールによって、プレーリードレス(西部開拓時代をイメージしたデザインのドレス)のパイオニアであるBatsheva Hayなど、話題性のある新規ブランドがリストに加わり、さらに多くのブランドが続くことも予想されています。
さらにAmazonは、米ファッション界で最も権威のあるVOGUEとCFDAから、販売チャネルとしてお墨付きを得ることにもなるのです。
Amazonを利用する買い物客が、Jonathan Cohenの1000ドルのメタリックドレスやブライダルデザイナーDanielle Frankelの9000ドルのスリップガウンを買うという保証はありません。しかし、こうしたブランドの存在は、時に業界内で懐疑的に見られていたAmazonのファッションにおける信頼性を高めるのに役立つかもしれません。
偽造品を販売する業者は、そのサードパーティマーケットプレイスを利用して偽物を販売しており、ブランドとの摩擦を引き起こしてきました。
また、ハイブランドは、その商品と同様にイメージを売りにしているにもかかわらず、そのイメージはAmazonの膨大な検索結果の海に埋もれて失われてしまっています。買い物客が素敵なドレスを探すのに、最高スペックのエアコンを探すような感覚になってしまっているのです。
しかし、Amazonはこの業界への働きかけをやめようとはしませんでした。ニューヨークファッションウィークにおいてメンズのショーをスポンサードし、商品を販売するライブショーも試みました。
また、3月には、米国で人気のリアリティショー「Project Runway」に出演してきたHeidi Klum(ハイディ・クルム)とTim Gunn(ティム・ガン)をホストに迎えた「Making the Cut」と題したリアリティショーをスタートさせました。このファッション番組は、毎週、世界中のデザイナーが審査員に挑み、優勝した服はすぐにAmazonで販売されるという内容です。
さらに、同社はラグジュアリーファッションに特化したプラットフォームを立ち上げようとしているとも報じられています。
Business of Fashionによると、新しいブランドを獲得するべく、Amazonのファッション部門はVOGUEのマーチャンダイジングに協力したとされます。このプロジェクトは、VOGUEとCFDAがパンデミック下において苦境に置かれているファッションビジネスを支援するために設立した「A Common Thread」と呼ばれるファンドレイジングの延長線上にあります。Amazonはこの基金に50万ドルを寄付しているのです。
VOGUEの編集者でファッション界に君臨するAnna Wintour(アナ・ウィンター)は声明で感謝の意を表明しています。
「このパートナーシップを発表できて感激しています。また、Amazon FashionがA Common Threadを惜しみなく支援してくれただけでなく、パンデミックの影響を受けたアメリカのデザイナーを支援するためにリソースを迅速に提供してくれたことに感謝します」と彼女は述べたのです。
Amazonもきっと彼女のサポートに感謝していることでしょう。

②買収は増えるのか

新型コロナウイルスは取引を混乱させましたが、合併や買収の波を巻き起こす可能性もあるようです。資本力のある大企業や民間企業のグループは、この機会を利用して財政基盤が弱っている企業をバーゲン価格で買収する可能性が高いでしょう。
このシナリオは、特に小売業において可能性が高いと思われています。
マッキンゼーとBusiness of Fashionの報告書によると、ヨーロッパと北米で上場しているアパレル企業の34%が、パンデミックの前から財政難の兆しを見せていたと推定されています。2~3カ月間の店舗閉鎖によって、その数は80%を超える可能性があると同リポートは報告しています。
プライベート・エクイティ・ファンドは近年、カーライル・グループが2017年にストリートウェアの有名ブランドであるSupremeの株の半数を取得したように、注目度の高い買収を行っています。
昨年6月の時点で、プライベート・エクイティ・ファンドには1.5兆ドル近い手元資金が用意されているのです。

③世界をアップデート

・聴覚障害者はズーム疲れをよく知っている
・新型コロナウイルスでアメリカの給与はおかしくなる。自宅での抗体検査の準備はできていますか?
・香港の企業が「どうぶつの森」の専門家を雇って、ブランド化された島をつくっている
(執筆:Mary Hui、Marc Bain、Stevie Borrello、Kira Bindrim、翻訳:小西悠介、編集:年吉聡太、森川潤、写真:REUTERS)