【眞鍋亮平×須藤憲司】「クリエイティブ×DX」の可能性

2020/5/24
7月に始動する「NewsPicks NewSchool」は、「クリエイティブ×ビジネス×テクノロジー」がコンセプトのひとつ。NewSchoolで「広告クリエイティブ」プロジェクトを担当する眞鍋亮平・電通 統括クリエーティブ・ディレクターと、「DX人材養成」を担当するKaizenPlatformの須藤憲司CEOが、広告とクリエイティブの未来を語り合う(全3回)
【眞鍋亮平×須藤憲司】クリエイティブと広告はどう変わるのか?
広告は二極化する
須藤  第1回で話したエコシステムの話ともつながるのですが、キーワードとなるのは「アンバンドル」です。
例えばレストランで言うと、店舗や接客はやらないキッチンだけのレストランが出てきました。いわゆる、ゴーストレストランですね。
キッチンだけで、Uber Eatsを使うことで経営が成り立つレストランもたくさん出てきています。必要なのはキッチンだけで、レジも接客もおしゃれな飲食スペースもいらない。
つまりは、それぞれの要素がアンバンドルされているんです。
同じように、放送局や総合広告代理店がアンバンドルされる可能性があるのではないかと。
要は、今までのエコシステムでは、入り口から出口までがつながったすさまじく効率のいい商流があって、それを最適化するための仕組みになっていました。
でも今後は、そのエコシステム自体をトランスフォームしたり、アンバンドルしたりしないといけない。サービスモデルも含めて変えていかないといけません。
――広告代理店の例で言うと、クリエイティブの機能をアンバンドルした、クリエイティブブティックは増えていますね。
眞鍋 それは、これまでは付帯サービスだったもののほうが、価値の源泉になっているということだと思います。
かつての広告代理店では、CMなどの枠売りがメインで、そこにクリエイティブが付帯サービスとして付く形でしたから。
眞鍋 亮平/電通 統括クリエーティブ・ディレクター
中長期で展開する耐用年数の長いブランドアドと、短期で結果を出すコンバージョンアドの両方を得意とする。マス広告やデジタルアド、PR、OOH、イベント施策の最適な掛け合わせを考える企画や、コンテンツをハブにした参加型の広告キャンペーンに多数携わる。主な仕事は、大塚製薬「ポカリガチダンス」「ポカリNEO合唱」/YouTube「好きなことで、生きていく。」など。
「価値があるのはどこなのか」が大きく変わってきている感じがあります。
今後も、コンバージョン重視の獲得型広告も、ブランド広告も両方残るはずですが、二極化するなと思っています。
私もアプリのダウンロードを促すCMを15社ほど担当しましたが、コンバージョン型広告の場合は、効率が求められるため、新しいメソッドもすぐにコモディティ化し、どんどんオートメーション化していく方向に進む可能性があります。
一方、ブランド広告の方は、オートメーション化しづらいところがありますので、クリエイターの存在は今後も重要です。
ただし、クリエイティブディレクターの中には、ブランド広告だけ、あるいはコンバージョン広告だけに特化した人も多い。
双方の広告は目的に応じて連携するように設計すべき関係性なので、両方を深く理解しないといろいろな問題が出てきます。
例えば、コンバージョン型広告が得意な須藤さんみたいな人と、ブランド広告が得意な私のような人がタッグを組んで、クライアントの「ブランド定義」「顧客体験の設計」「広告クリエイティブ」までを統合して行うと、いい結果が生まれそうだなと思っています。
今は獲得型とブランド型が分断されがちです。
クライアント側でも、担当者が分断されているケースも多い。そうした構造的な部分の再編がこれから起きてくるはずです。
ブランド広告の本質
須藤 僕の考え方としては、UI/UXの設計自体がブランディングなんですよね。
UI/UXの力でユーザーを引き付けて、コンバージョンして、その後にエンゲージメントの高いファンをつくっていくという流れです。
このファネル全体の設計が大切です。
とくにスタートアップの場合、最初に熱狂的なファンをつくっておくと、コンバージョンやブランディングの広告設計が容易になります。
実はブランド広告というのは、いったんブランドを創った上で実施したほうがいいのかもしれません。
そもそも、ブランドとは、1顧客のLTV(生涯価値)を上げるものであり、ブランド広告とは、そのLTVを最大化するためのものです。
つまり、コンバージョン型広告は、顧客獲得単価(CAC)の最小化を目標にして、ブランド広告は、LTV最大化を目標にする。
LTVが上がれば上がるほど、コンバージョン型広告のROIも上がるという好循環が生まれます。
眞鍋 そのとおりだと思います。まさにUI/UXのところでブランドへの愛が生まれますからね。
TikTokの場合も、UIがものすごく気持ちいいですし、それが継続率にもつながっています。
今は、広告だけでブランドを創れる時代ではなく、プロダクト自体のUI/UXの勝負になってきています。
(写真:iStock/Anatoliy Sizov)
ただ、われわれクリエイティブディレクターに寄せられる相談は、広告に限定されるケースが多い。
いかにバナー化したテレビCMで、コスト当たりのアプリダウンロード数を上げるかという話になりがちです。
実際には、プロダクトのUI/UX設計と統合的にやらないと、ブレるというか、結果を出しにくいところがあります。
だから、僕自身も、UI/UX設計やDXについて須藤さんから勉強させてもらっています。
須藤憲司氏、豪華ゲストと学ぶ「DXを成功に導く“真のノウハウ“」
ここがわからないと、クリエイティブディレクターの仕事が成り立たなくなると感じていますので。
ネスレの衝撃
須藤 例えば、ポカリスエットについて言うと、ポカリスエットの広告をデジタルで展開するのはわかるのですが、さらにもう一歩進んで、ポカリスエットの体験自体にデジタルを絡めることもできそうですよね。
要は今までは、テレビCMをすることで、お店または自動販売機で買ってもらうことが目的だったわけです。
でも、ポカリスエットのサブスクがあったり、ポカリスエットのオンラインサロンがあったりしてもいいわけですよね。
例えば、サロンに入っていると、ポカリスエットの全商品がeコマースで気軽に買えたり、どこか特別な場所に行って遊べたりとか、いろんなやり方が考えられます。
D2CとSNSが出てきたことにより、インフルエンサーがメディアを代替して、主な露出面になってきています。
ブランド広告と一言で言っても、いろんなやり方が生まれてきていますね。
眞鍋 まさにそのとおりで、ブランドの意味の定義や、顧客と直接つながるチャネルを持つことがポイントになってきています。
僕がそこに気づくきっかけになったのは、ネスレです。
ネスレのネスカフェゴールドブレンドは、幾多の荒波にもまれながら、40年以上、同じフレームでテレビCMが続いてきた奇跡のようなブランドです。
そのシリーズの最後の5年をCMプランナーとして担当させてもらったのですが、当時日本人で初めて社長になった高岡浩三さんの改革は衝撃でした。
【高岡 浩三】市場調査からイノベーションは生まれない
高岡さんは、それまでの「流通を通じてコーヒーを売る」というモデルから、「バリスタを無料で貸し出して、顧客と直接つながる」モデルにシフトしたんです。
しかも、スマホアプリで操作できたり、デジタルもうまく組み込みました。
「これからはメーカーとユーザーが直接つながる時代なんだ」というのも目の当たりにして、「CMプランナーだけをやっていると、認知獲得のフェーズしかやれないクリエイティブディレクターになってしまう」という危機感を抱き、デジタルの勉強を始めんたんです。
須藤 僕もデジタル前とデジタル後で、考え方がすごく変わってきているように思います。
消費財の場合、今までのテレビCMは、コンビニやドラッグストアの棚を取るという目的が強かった。
CMを打てば、ブランディングにもなるし、棚も取れるということで、獲得型とブランド型がセットになっていました。シンプルだったんです。
(写真:iStock/Torjrtrx)
この構図が、デジタルが出てきたことで複雑化しました。
流通で言うと、従来のリアル店舗もあれば、アマゾンもあれば、D2Cで直販の可能性もある。パターンが豊富になってきたんです。
D2Cのデジタルネイティブのメーカーの場合は、デジタル中心でブランドを創っていくでしょうし、リアル中心のメーカーの場合も、いろんな展開が可能です。
ネスレのように自らマシンを製造して、直接、顧客とつながってもいいわけですし、フレキシブルにさまざまな方法を組み合わせて、勝ちパターンをつくっていくことができます。そこが面白い。
瞬間風速の勝負ではなくなった
眞鍋 その勝ちパターンづくりにこそ、須藤さんみたいなDX人材や、クリエイティブディレクターが求められているのだと思います。
今はものすごい数の順列組み合わせがあるとはいえ、リソースは限られているので、「このパターンを試すべき」と言える人が必要なのではないかと。
その役割を担うには、守備範囲が広いので、めちゃめちゃ勉強しないといけません。
守備範囲が狭い人だと、自分の得意なパターンに引き寄せてしまって、誤ったソリューションを選んでしまうかもしれません。
その意味で、テレビも非テレビも、広告も非広告も、獲得もブランディングも、メディアや売り方も含めたバリューチェーンも全部わかった上で、「ここを一点突破でハックすべきだ」と提案しないといけない時代です。
須藤 要は戦場が広がったので、つける軍師を替えないといけなくなったという。
眞鍋 そうだと思います。
それはつまり、クライアント企業側の意思決定のルールもそれに合わせて変えないといけないということですね。
須藤 でも組織がまだ変わっていないですね。
例えば、ネスレの場合、自社でECを持つだけでなく、デジタル上でネスレアミューズというメディアまで創りました。
しかし、ただネスレをまねすればいいわけではなく、各企業は「自前のメディアや流通を持つのがいいのか」をしっかり考え抜く必要があります。
ソリューションは各社さまざまですから。
眞鍋 まねということで言うと、僕はコモディティ化も課題だと思っています。
特にルール化しやすいもの、メソッド化しやすいものはどんどんコモディティ化していきます。
アプリのCMを15社くらい担当させてもらったとき、ダイレクトマーケティングの知見をCMにつぎ込んでみたら、結果うまくいったんです。
ただ、あっという間にキャッチアップされて、コモディティ化してしまいました。
タクシー広告も同じで、一度、ビズリーチのようなタイプの広告が成功すると、みな同じようなパターンをまねし始めました。
みなが同じことをした時点で、価値がなくなってしまう。それが起き続けるので、つねにアップデートし続ける必要があります。
これからの時代は、相当シビアですし、継続力を持たないとやっていけません。
須藤 瞬間風速の勝負じゃなくなったっていうことじゃないですか。
眞鍋 そうです。
そうすると、企業の組織だけでなく、予算のあり方も見直す必要が出てきます。
短期と中長期、テレビと非テレビのバランスをどうとるか、など、予算の使い方も含めて、意思決定を変えていかないと、太刀打ちできなくなってきています。
小さく始めて、拡大再生産する
須藤 クライアント側の組織の問題はすごく難しいですよね。
脈々と受け継がれた縦割りとか、部署間のライバル関係とか、感情的な問題がすごくありますから。
DXの本でも書いたのですが、とにかくまずは小さくやって、自分たちの中でできる範囲で結果を出して、少しずつ巻き込んでいくというやり方をしないと、大抵の場合、足を引っ張られて潰されてしまいます。
【動画講義】グロースハックの秘訣をKaizen・須藤氏が徹底解説
これは日本文化の良くないところですが、日本の会社ならではのやり方はすごくありますので。
眞鍋 いきなり部署を2つ以上またがない、といったことですね。
須藤 まずは、「これは1つのブランドに限った話で、デジタルマーケティングの一環です。他の既存ブランドには何も影響しません」というふうに言わないと、「やれ、あいつはライバルだ」といった話が出てきてしまいます。
まずは余白部分をちゃんとつくって、その中で小さく、しっかり実績をつくっていく。
もうひとつ大事なのは、小さく始めるにしても、拡大再生産できるようにすることです。
その条件を満たさずに、POC(実証実験)をやってしまうケースが、とくにスタートアップでは多い。
早く安く拡大再生産できるPOCにするためにも、プロセスを小さく切り分けることに時間をかけたほうがいいです。
――POCの際に、いちばんハードルになるのはなんですか?
須藤 端的に言うと、サービスレベルです。
多くの企業では、サービスレベルを極めて高く設定しているので、ベータプロダクトという概念が存在しません。
でも、ベータプロダクトはあっていいと思うんですよ。
「これは限定100人のプロダクトで、まだサービスレベルは低いけど我慢して使ってください」というふうに小さい枠組みで始めてみる。
すると、すでにエンゲージメントが高い人が来てしまうので、取得できる実証データは限られるんですが、「ああ、ここでこういう問題が起きるんだ」というふうに、ワークフローやバリューチェーンを検証することができます。
トヨタがスマートシティをつくる話もそうですが、「これは実験なんです」と思い切って言っておかないと、「お客様サポートセンターに電話が入ったらどうしよう」「クレームが来たらどうしよう」という話ばかりになってしまいます。
だからこそ、サービスレベルの切り分けが一番の課題ですね。
DXの遺伝子を体内に取り込む
眞鍋 ベータ版を使ってくれた人が一番のコアファンになってくれたり、味方になってくれるじゃないですか。
スナック理論ではないですが、カウンターのこっち側に来てくれる人を増やせるのはものすごいチャンス。ベータ版は意外とメリットだらけですよね。
大きなメーカーなどでも、法務チェックなどをクリアできれば、やれると思います。
須藤 そのとおりです。
第1回の「テレビと非テレビ」の話に戻すと、既成産業は、自分たちのサービスレベルを所与として非テレビを考えるので、コストパフォーマンスが合わなくなってしまう。
それでは非テレビのやり方で非テレビに挑むプレーヤーに勝てません。
例えば、金融機関の新サービスは、金融機関ではないテック企業などが手掛けるからこそ、エコノミクス的に怖いわけじゃないですか。
既存の大企業がDXに挑むときには、同じ会社の中に、矛盾するものを内包していかないといけません。DXの遺伝子をどう体内に取り込むかがいちばん難しいところです。
眞鍋 今の話ですごく面白いなと思ったのは、テレビCMはすごくかっちりしているんですよ。100点の完成度でなければいけない。
それに対して、デジタル広告、例えばTikTokとかミックスチャンネルに出すものは、ベータ版に近い。
ユーザーと一緒に走りながら、ユーザーの反応をみながら、インタラクティブに創っていく感じです。
こうしたカルチャーが、テレビCMのところにまで浸透するかはひとつのポイントですね。
須藤 それこそユニリーバがDollar Shave Clubを買収したのは、自社が弱いデジタル領域を取り込もうとしたということですよね。
Dollar Shave Clubは、月額1ドルで髭剃りの替刃を提供するスタートアップ
クレイトン・クリステンセンの『イノベーションへの解』に書いてあるのですが、3Mのポスト・イットが成立したのは、パトロンになった役員がいたからです。
社内では「あんな事業は潰してしまえばいい」という声も強かったのに、「まあ、とりあえずやらせておこう」と言う変な理解者がいた。要は、イノベーションはいつも変なところで起きるのです。
こうした矛盾の内包は、これまでは割と属人的に行われてきたんですが、今後はどう仕組みとしてマネジメントできるかがカギを握るはずです。
(写真:是枝右恭、デザイン:九喜洋介)
【眞鍋亮平×須藤憲司】「BTC人材」の奪い合いが始まる
2020年7月よりプロジェクト型スクール「NewsPicks NewSchool」を開校。その中で、眞鍋亮平氏の「広告クリエイティブ」プロジェクト、須藤氏の「DX人材養成」プロジェクトをスタートします。詳細はこちら