【眞鍋亮平×須藤憲司】クリエイティブと広告はどう変わるのか?

2020/5/23
7月に始動する「NewsPicks NewSchool」は、「クリエイティブ×ビジネス×テクノロジー」がコンセプトのひとつ。NewSchoolで「広告クリエイティブ」プロジェクトを担当する眞鍋亮平・電通 統括クリエーティブ・ディレクターと、「DX人材養成」を担当するKaizenPlatformの須藤憲司CEOが、広告とクリエイティブの未来を語り合う(全3回)
【募集開始】プロジェクト型スクール「NewsPicks NewSchool」が目指すこと

テレビは残るに決まっている

――今、広告の世界が大きく変わろうとしている中で、クリエイティブ、デジタルの双方を理解する重要性が高まっています。
須藤さんは、DXの専門家であり、リクルート時代には250億円のマーケティング費を差配するなど、広告主側の立場も経験しています。
眞鍋さんは、クリエーティブ・ディレクターとして、CMなどのマス広告だけでなく、デジタル系の広告も多数手がけています。
コロナショックの影響も含めて、これから広告の世界はどう変わると見ていますか?
須藤 以前、眞鍋さんも出演した「The UPDATE」で「テレビCMはネット広告に喰われるのか?」を議論しましたが、僕が強く思っているのは、「ネット広告がテレビ広告の額を超えても、テレビCMや広告代理店がダメになるわけではない」ということです。
より重要な論点は、「放送を中心とする巨大なエコシステムやビジネスモデルが転換期を迎える中で、非テレビのモデルとどう組み合わせていくか」です。
テレビと非テレビのモデルの組み替えを行うべきタイミングだと思っています。
眞鍋 テレビの衰退を強調するのは、サブスクリプションに抵抗がない人たちが多いですよね。私は、地上波テレビのような無料で見られるメディアの価値は残ると思っています。
とはいえ、メディアの世界がDXの流れから遅れていることは否めません。
眞鍋 亮平/電通 統括クリエーティブ・ディレクター
中長期で展開する耐用年数の長いブランドアドと、短期で結果を出すコンバージョンアドの両方を得意とする。マス広告やデジタルアド、PR、OOH、イベント施策の最適な掛け合わせを考える企画や、コンテンツをハブにした参加型の広告キャンペーンに多数携わる。主な仕事は、大塚製薬「ポカリガチダンス」「ポカリNEO合唱」/YouTube「好きなことで、生きていく。」など。
家庭のテレビ画面の奪い合いの戦いの中で、地上波テレビとYouTubeをはじめとしたデジタルメディアが今後どれくらいの割合で見られるようになっていくのかについては、しっかり見極める必要があります。
須藤 テレビは残るに決まっています。
多くの人が「メディアの危機だ」と言っているのは、要は、今までの巨大な固定費を含むインフラコストを抱えたモデルでい続けることができるのか、ということだと思います。
単純に、今までのエコノミクスが合わなくなる可能性があるので、これにどう対応するべきかという話です。
須藤 憲司/KaizenPlatform 代表取締役
2003年に早稲田大学を卒業後、リクルートに入社。同社のマーケティング部門、新規事業開発部門を経て、リクルートマーケティングパートナーズ執行役員として活躍。その後、2013年にKaizen Platformを米国で創業。現在は日米2拠点で事業を展開。
眞鍋 その意味でも、5Gのインパクトは大きい。
放送の強みは一気にマスに届けられることでしたが、5Gになると通信でもそれができるようになります。放送の人たちも本気にならざるを得ない状況になってきました。
須藤 5Gが来たときに、放送側のエコシステムやビジネスモデルをどう変えていくといいのでしょうか?有望なモデルはありますか?
眞鍋 そのひとつがサイバーエージェントの「ABEMA」ですね。テレビ朝日とタッグを組む「ABEMA」がどうなっていくかを注視しています。
スマホで見るTVが本当に定着するのか、若年層の視聴者中心でビジネスとしてペイするのか、よりお金を持っている層を取り込めるのか。そこがひとつの分岐点になると思います。

4つのカテゴリー

須藤 マトリックスで整理してみますね。テレビ、非テレビと広告、非広告の2軸で分けると、こうなります。
スポットやタイムといったTVCMは「TV×広告モデル」の第1カテゴリーです。
ほかに「TV×非広告」の第2カテゴリーも存在していて、たとえば、NHKは有料課金のサブスクですし、民放でもテレビショッピングなどのビジネスモデルがあります。
テレビの今後を考えるときのひとつの論点は、第2カテゴリーにどんなビジネスモデルがあるかということです。
もうひとつの論点は、テレビと非テレビのモデルをどう組み合わせるか、ということです。
眞鍋 「非テレビ」のカテゴリーにYouTubeを置くとわかりやすくなります。
たとえば「非テレビ×広告」の第3カテゴリーは、無料で見られるYouTubeモデル。
「非テレビ×非広告」の第4カテゴリーがYouTubeプレミアムやネットフリックスのような課金モデルです。
YouTubeで「勝つ」ために「やってはいけない」こと
今、コロナショックの影響で、課金モデルが伸びていますが、それでもサブスクモデルの限界はあると思っています。どこかで臨界点が来るはずです。
だからこそ、やっぱりタダで見られる広告モデルの価値があると思っています。
須藤 私が、非テレビですごく注目しているのは、「非テレビ×非広告」の第4カテゴリーです。この領域は、結構いろんなパターンがあります。
ライブコマースもあれば、投げ銭もあれば、クラウドファンディングもあれば、オンラインサロンもある。
次にテレビが浮上するシナリオは何かを考えると、ここにひとつの答えがあるはずです。
つまり、「非テレビ×非広告」領域からヒットコンテンツが今後生まれる可能性が上がってきたときに、リーチをさらに広げるために、テレビを使うのではないかということです。
今でも、ABEMAはコンテンツをライブは無料で出して、アーカイブでも一部無料にすることでリーチをとって、課金へと誘導しています。
そのリーチをさらに拡大するためにテレビを使って、そのコストを課金収入で回収できるようになれば、強力な方法論として確立できます。
テレビでCMを打ってもいいし、番組枠を買い取ってもいいし、複数の方法がありますよね。

ポカリスエットの戦略転換

――ソーシャルゲームはすでにそのやり方で成功しています。
須藤 そうです。ソーシャルゲーム以外にも、e-Sportsなどいろんな可能性があるはずです。その組み合わせ、ねじりの関係のところにカギがある気がします。
眞鍋 熱量があるコンテンツさえあれば、そこからマネタイズする方法は複数生まれてくるはずです。
オタク経済圏創世記』で中山淳雄さんが書いているように、今後のコンテンツはどんどん“ライブコンテンツ化”していくと思います。
一度コンテンツを出したら終わりではなく、コンテンツ自体がライブ化して、つねにアップデートされていく。ファンとの関係性が継続していく。
まさに“ライブ継続力”が問われます。
そのときにキーワードになるのは、サステイナブルなCV(コンバージョン)。数字に見える成果を継続的に生み出していく必要があります。
あらゆるコンテンツがそうですし、広告クリエイティブもそこから逃げられません。
過去には、テレビCMを大きく花火的に打って、一時的な施策で終わってしまうケースもありました。しかし今では、それが大きく変わってきています。
たとえば、私が担当しているポカリスエットも、以前は、春夏にテレビCMを大きく打つというスタイルでした。
当時、若年層を対象にした調査で、ポカリスエットは「熱中症や風邪のときなどに、お母さんが買ってきてくれる飲み物」というパーセプションが強いことがわかりました。
つまり、機能訴求が強かったので、熱中症や風邪のときにだけ飲むものというふうになっていました。
そこで、機能訴求だけではなく、「好きだからポカリスエットを飲む」というパーセプションに変えるための挑戦が始まりました。
春夏のテレビCMを続けながらも、デジタルで若年層に対してコミュニケーションしていきたい、ということで私が呼ばれたのが4年前のことです。
新たな広告クリエイティブで、核にしたのはダンスです。
ダンスを題材に春にCMを打ったところ、「ダンスを踊りたい」という声がSNSで多数寄せられて、「フル尺のダンスを見たい」というリスクエストが多かったので、ダンスをコンテンツにしました。
学生たちのバックストーリーをメイキングムービーに
そこで振り付け動画を公開したら、多くの人が実際に踊ってくれたのです。
その流れを受けて今度は、「ガチダンス選手権」という新しい競技を企画したら、700以上の応募が集まりました。
MVのオーディションをTikTokの応募投稿動画で実施
それをオンライン上だけに置くのではなく、応募動画81本を60秒のテレビCMとして編集して、ミュージックステーションの特番で1回だけオンエアしました。
その反響は大きく、テレビCMの使い方の新しい可能性を感じました。
CMのラストは全員が空を撮影したカットにポカリロゴ
要は、テレビで始まったクリエイティブを、デジタルで受け取って、もう一回テレビに返したんです。
マスのリーチと、デジタルのエンゲージメント。両方の良いとこ取りをできた実感があり、これこそ、今思うとファンになってくれた人たちが1年を通して継続的に楽しめる“ライブコンテンツ化”だったなと。
SNS時代には、コンテンツだけでなく、広告クリエイティブもライブコンテンツ型になっていくはずです。
97名の学生がスマホで撮影した自撮り映像がCMに
もうひとつ大事なのは、長く続けること。ダンス企画も、1年だけでなく、4年間続けました。
そして、今年からは合唱をテーマにした「ポカリNEO合唱」がスタート。これもできるだけ長く継続させていきたい。
ブランドを創っていくのは、中長期的な取り組みですから。
これまでの広告業界は、競合プレゼンが日常的にあり、クリエーティブ・ディレクターがコロコロ代わってしまうことが多々あります。
クライアント側も担当者が交代して、前任者から方針がガラッと変わることもあります。これだとブランドを育てていくのが難しい。
須藤さんが『DX入門』でも記していましたが、「この会社やブランドの存在意義は何か」という定義があいまいでブレていると、いくらDXや広告コミュニケーションで頑張っても、大きな無駄が生まれてしまいます。
だからこそ、クリエイティブディレクターの仕事は、ブランド定義などの上流から手掛けることが重要です。
最近、やっとそういう流れになってきたと思います。
(写真:是枝右恭、デザイン:九喜洋介)
【眞鍋亮平×須藤憲司】「クリエイティブ×DX」の可能性
2020年7月よりプロジェクト型スクール「NewsPicks NewSchool」を開校。その中で、眞鍋亮平氏の「広告クリエイティブ」プロジェクト、須藤氏の「DX人材養成」プロジェクトをスタートします。詳細はこちら