世界各地の公共交通機関が機能停止状態に陥り、医療従事者やエッセンシャルワーカーへの物資だけでなく職場への「足」さえも満足に利用できない危機的な状況が生じている。
特に2020年のはじめには無償化の社会実験も行われていた欧州の公共交通機関は、まるで状況が変わってしまったようだ。
ユーザー数7億5000万人を誇る公共交通機関の乗換案内アプリ「Moovit(ムービット)」のデータによれば、1月15日以降、ヨーロッパとアメリカの各都市では主要な公共交通システムの利用者が80%以上も減少。この数字は、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的な大流行)が、いかに都市部の生活をストップさせているかを如実に示している。
同アプリが追跡したユーザーの移動履歴データ(バス、鉄道、地下鉄、路面電車、配車サービス、およびバイクやスクーターなどの共有モビリティの利用を含む)を見ると、3月23日の時点で、新型コロナウイルスの感染拡大の影響を大きく受けているミラノとロンバルディア地方では、1月15日以降、公共交通システムの利用者が86%減少している。
たとえばマドリードでは84%、ニューヨーク都市圏では54%減っている具合だ。Moovitのユーザーデータは世界の全ての国や都市で収集・保存されている訳ではなく、アジアの多くの国や都市は対象外となっている。
今や多くの都市がロックダウン(封鎖)状態にあり、交通システムは人々の生活に必要な仕事をしている人々(キーワーカー、エッセンシャルワーカー)や、「どうしても必要な」外出をする人々のみ利用が可能となっている。
(Pixfly / iStock)
ロンドンの公共交通機関を管理しているロンドン交通局(TfL)は3月24日、ボリス・ジョンソン首相がイギリス全土をロックダウンすると発表したことを受けて、利用者らにメールで「自宅にとどまる」よう呼びかけた。
TfLは既にサービスを大幅に縮小しており、キーワーカーたちにはできる限り早朝の時間帯の通勤を避けるよう要請している。TfLのスタッフの20%以上が体調を崩しているか、自宅隔離状態にあると報じられている。

欧州ではほとんどの国で利用者が8割減

Covid-19(新型コロナウイルス感染症)による死者が世界で最も多い国の一つであるイタリアでは、Moovitが本誌(Quartz)にデータ提供を行った全ての主要都市で、公共交通機関の利用者が80%~90%減少した。
イタリアは、ウイルスの感染拡大を抑制するために世界で最も厳しい部類に入る封鎖措置を取っており、ローマでは3月14日以降、バス、路面電車と地下鉄の運行は午後9時までとなっている。
スペインでも複数の都市で公共交通機関の利用者が激減しており、中でも感染者の多いマドリードでは84%の減少を記録している。
今や世界でもっとも感染者の多いアメリカでは、複数の主要都市で公共交通機関による移動が40~65%程度落ち込んでいる。
同国内の感染拡大の中心地であるニューヨーク市は、地下鉄と鉄道のサービスを縮小し、各種施設で対面での顧客サービスを減らし、バスは運転手と乗客の間の距離を確保するために後ろのドアから乗り降りするようにしている。3月23日には複数の交通機関からなるグループが連邦議会に対して、景気対策法案に公共交通機関への最低250億ドルの支援金を盛り込むよう要請した。

「外出せざるを得ない人」のために、絶やしてはいけない

アメリカでは今でも、ウイルスの感染拡大を最小限にとどめるために、大多数の人が自宅にとどまり、公共交通機関の利用を避けることが求められている。
しかし忘れてはいけないのは、医療従事者や非常時の初期対応に当たる人々、薬局や食料品店のスタッフのように、日々の生活に不可欠な仕事をしている人々が公共交通機関のサービスを利用し続けられるようにしておくことが、きわめて重要だということだ。
原文はこちら(英語)。
(執筆:Alison Griswold、翻訳:森美歩、写真:Adrian Seliga/iStock)
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This article was translated and edited by NewsPicks in conjunction with KINTO.