【実践】NewsPicksを「オンライン授業」で活用する方法

2020/5/17
新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、大学などの教育機関では授業のオンライン化の動きが進んでいます。
著作権法も改正され、教育機関のオンライン授業におけるコンテンツ利用もしやすくなるなど、環境は整えられつつあります。
しかし、日本の教育事情は諸外国に比べてオンライン化の実績が乏しく、ノウハウやナレッジがたまっていないのが現実。教員も、生徒も試行錯誤されているのではないでしょうか。
そこで、実際に教壇に立たれているピッカーの方々に、想定するオンライン授業でNewsPicksコンテンツを利用した具体的なユースケースをお寄せいただきました。
今後、教室での授業が解禁されても、3密対策や、感染第二波への懸念などから、教育のオンライン化は進化していくと思われます。本記事で紹介する、教員ピッカーの実践例を参考に、NewsPicksを有効に活用ください。
ディスカッション活性化を狙う
コンテンツを事前共有することで、授業での学びを単に知識の習得だけではなく、より深いものにしようと考えるのが、拓殖大学大学院の武貞秀士客員教授です。
武貞 拓殖大学大学院安全保障協力研究科では、コロナウイルスの影響で講義開始が大幅に遅れています。
これまでは「東アジア研究」をテーマに講義を教室で実施して、パワーポイントを使用してスライドと記録映画の動画を映写しながら説明と討論を実施する形式をとっていました。
しかし、今年は学生と対面することができないまま、8月末までに15週間の講義を実施し、学期末に試験をして、大学院生の理解度を確認する必要が生じています。
そのため5月以降の遠隔授業では、Blackboardを使用して、あらかじめパワーポイントの資料と記録映画などの動画を送信して予習をしてもらいます。その教材を利用して、講義はMicrosoft Teamsで遠隔授業の形式として、双方向で指導することを考えています。
そのときにNewsPicksのコンテンツをいろいろと活用する考えです。
例えばコロナウイルス収束後の国際社会、市民生活、ビジネスのあり方について、NewsPicksのオピニオンリーダーの討論動画番組を事前に配布して、討論の準備をすることを求めるつもりです。
最近の記事では『【真相理解】スウェーデン、ロックダウンしない理由』を読むように指示したいです。
これまでの講義でも専門家の見解を出典明記の上で参照するように指示してきましたが、遠隔授業ですと、発言の時間が限られます。聞き取ることができない場合も生じるでしょう。
教員と対面をしないのですから映像を活用することも必須です。これからは学生は事前に資料を読み込んでポイントを定めて準備をしておく必要があります。
そのとき、NewsPicksの場合は、ひとつのテーマでいろいろな専門的な背景を持った専門家、学生、専門ではないが意見を述べたいという方々が、記事や動画に参加をしているわけです。「討論の広場」のようになっているので、短時間で論点を整理したい学生にとっては便利な媒体です。
Facebook、Twitter、個人のホームページにアクセスするときは、それぞれのページに自分でアクセスする必要があり、その過程で極端な見解が散りばめられている中に迷い込んでしまう可能性があります。
NewsPicksの場合、短時間でひとつのテーマに関する論点に到達することができます。その意味で大学院生に向いていると推薦をしています。
ただ、今後の問題としては学生たちがTeamsを使用できるネット環境にあるのかどうかという問題があります。また使用している間に制限をオーバーしてしまい、学生に負担がかかる心配もあります。
既に報道されているように、大学では受講する学生からのアクセスが集中してしまい、ネットがつながらなくなるという現象が起きました。特に動画を閲覧して討論を続けるような場合は、いろいろと問題が発生するでしょう。
まだまだ、この分野は日本は発展途上であると感じています。
イノベーションコミュニティを構築
オンライン授業ではソーシャルディスタンスが保てる一方で、生徒同士のコミュニケーション機会が失われることが懸念されます。
青山学院大学教授の松永 エリック・匡史氏は、コンテンツを教材として活用することに加え、NewsPicks他のオンラインサービスを多角的に組みわせることで、ゼミコミュニティを進化させています。
松永 私は青山学院大学 地球社会共生学部で教鞭を執っており、経営学、English Essay Writing, 組織論、国際経営論等の授業とゼミを持っています。当校では前期の授業がすべてオンラインとなり、5月頭からオンライン授業を開始しています。
授業でのNewsPicksコンテンツ利用に関しましては、ゼミで本格的に活用しています。
まず、特徴としてゼミ生全員にNewsPicks会員に登録してもらい、1日1ピックを目標に自分の好きな記事を選びコメントを書いてもらっています。これからは情報発信が重要になってきますので。ゼミのレポートはすべてオープンにしておりnoteで外部の人も読めるようにしています。ピックした記事で特に興味の湧いたものに関してnoteに記事としてまとめるようにしています。
記事の共有は、私がプロピッカーなので、私をフォローさせ私のピックした記事は全員が読むようにしています。できれば私のコメントした記事は今後彼らもコメントするようにしていく予定です。
また、私はいろいろNewsPicksに取材等で取り上げていただいていますので、特に『コンサル3.0』のような特集記事はシェアしてディスカッションのトピックにしています。
他にも、最近では私も取材していただいた特集『アフターコロナの働き方』を教材としてアフターコロナについてゼミでディスカッションしました。
また、私のNewsPicksのアカデミアでの生徒と、今の大学のゼミの学生をオンラインでつなぎ、イノベーションの取り組みを共同でする試みも開始しました。このように記事の参照を超えたコンテンツの活用をしている次第です。
オンライン授業に感じる「希望」
NewsPicksではこれまでも郁文館夢学園など教育機関と協業し、新しい学びのあり方を模索してきました。NewsPicks CSOで自身も東京農工大学で教鞭を執る杉野は、オンライン教育には希望もあると話します。
杉野 大学でのオンライン授業をスタートしました。まだまだ試行錯誤ですが、オンライン授業には、希望を感じています。
私は、NewsPicksの経営メンバーでもありますが、NewsPicksに参画する以前より東京農工大学の特任教授もしています。東京農工大学では、新型コロナウイルスの感染拡大を受けて、5月11日の週よりGoogle ClassroomとGoogle Meetを用いて、オンライン授業にて新学期をスタートしました。
私の「マーケティング」の授業では、毎年、学生同士でのグループディスカッションの時間をとっていましたが、今年のオンライン授業ではその時間を短くせざるを得ません。オンライン授業には、まだまだ課題があるのは事実です。しかし、オンライン授業には、希望もあります。第一に、やり方次第では、授業への参画度が上がり、学びの質を上げられる手ごたえを感じています。
私の授業は、エンジニアの卵である理系の学生に、マーケティングの視点や知識を教えるものです。エンジニアだけではよい商品もよい事業も開発できるわけではなく、マーケターなど違う専門性を持った人と協業することによって、よりよい成果が得られる。そのために、違う専門性を持った人と対話できるようになるための視点や知識を学んでもらいます。
そこで、毎年、初回の授業では、自分が商品企画者の立場になったとして、「トレーラー」の新商品を考えてもらってそのアイディアを発表してもらいます。
昨年までは、これを教室でやると、恥ずかしさもあるからか、なかなか意見が出てきませんでした。
しかし今年は、Google Meetのチャット上でアイディアを共有してもらうようにしてもらったところ、175名の学生がオンラインで参加している授業で、15分の間に122名の学生が自分なりの新しいトレーラーのアイディアを出してくれました。
例えば、「360度アラウンドビューモニター付きのトレーラー」のようなアイディアが出たと思ったら、「事故を起こしたくないドライバーのための死角ゼロのトレーラー」のようなアイディアも出てきます。
両者は結局は同じような商品になる可能性があるのですが、前者は、機能や技術からトレーラーの特徴を定義して、エンジニアリング視点。後者は、顧客のニーズからアイディアを定義しており、マーケター視点。同じような商品でも、マーケターとエンジニアでは視点や表現が違う。違うからこそ、互いの異なる視点を理解することで、対話や協業がしやすくなることを初回の授業では学んでもらいます。
このような学びのアプローチには、学生の授業への参画と多様な意見を忌憚なく共有できる環境が必要ですが、これは今のネットネイティブの学生たちにとっては、オンラインのチャットのほうが向いていると感じています。
もともと、リアルの授業でも、オンラインのチャットを組み合わせた授業法の有効性は指摘されていましたが、フルオンラインの場合はみなが使うのでさらにチャットの心理的ハードルが低くなる。結果的に、授業への学生の参画度が上がり、学びの質が上がる可能性を感じています。
第二に、やり方次第では、多様なオンラインコンテンツを使うことで教材の幅が広がり、学びの質を上げられる手ごたえを感じています。
エンジニアだけでよい商品も事業も開発できるわけではなく、マーケターなど違う専門性を持った人と協業することで、よりよい成果が得られる。同じように、マーケターにとっても、エンジニアと協業することでよい商品や事業を開発できる。これを講師が話すことは簡単です。
しかし、相手はまだ社会人経験のない学生です。どこまでリアリティを持って理解してもらえるかは、毎年苦労して工夫しているところでした。マーケティングの経験がある私のような実務家教員でもそうなので、実務経験のない教員であればなおさら苦労する部分だと思います。
そこで、今年は、私が語るだけではなく、オンラインコンテンツを利用し、日本で有数のマーケターの実際の声を聞いてもらうことにしました。
具体的には、NewsPicks Exclusiveの森岡毅さんのインタビュー動画を流してみました。NewsPicks Exclusiveは、第一線の経営者やプロフェッショナルへのインタビュー動画のシリーズです。
前座として、「森岡さんはUSJの集客を倍増させたマーケターとして有名だが、どのようなマーケティングをやったか?」などの問いを投げかけ、またMeetのチャットで意見を言ってもらってインタラクティブに授業を進める。
そして、森岡さんへの関心が高まった後に、森岡さんの動画を流します。動画の中で、森岡さんは「マーケティングは一人ではできない。これは、どんなマーケターでも、間違いなくそう」と話し、生産やR&Dなどのエンジニアを含む、他の専門家との協業の重要性を説いています。
USJの話でマーケティングと森岡さんへの関心が高まった後に、森岡さんからマーケターにとってもエンジニアとの協業が大事と言われると、エンジニアの卵の理系学生たちからは、好意的な感嘆が出ました。
もちろん、リアルな教室でオンラインコンテンツを投影することもできます。しかし、オンラインだからこそ、よりパーソナルな空間で臨場感あふれるコンテンツによって、よりリアリティを感じて学べるメリットがあります。こうして、多様なオンラインコンテンツを使うことで教材の幅が広がり、学びの質が上がる手ごたえを感じています。
私は、オンライン授業での学びの質を上げるために、今後も試行錯誤していきます。NewsPicksのコンテンツには、NewsPicks Exclusiveに限らず、実践者へのインタビュー記事やインタビュー動画のコンテンツが数多くあります。学生の学びの質を上げられるシーンがあれば、そのようなコンテンツを使ってみたいと思っています。
ぜひ、今年からのオンライン授業でのコンテンツ利用の解禁、そして、オンライン授業の導入を機に、NewsPicksのオリジナルコンテンツを次世代の学生への授業で使っていただければ、コンテンツを届ける経営者の一人として、とても幸いです。
オンライン授業は一過性に終わらない
緊急事態宣言解除後も、受講生が多い授業については3密を避け、オンライン運営を継続することも考えられます。また第二波の到来に備え、いつでもオンライン授業に切り替えられるようなカリキュラムを想定しなくてはなりません。
「リアル+オンライン」「リアルorオンライン」「オンラインのみ」など授業形態はいくつか考えらえますが、いずれにしても、withコロナの時代における教育では、「オンライン」を前提として学びの質を上げていく必要がありそうです。教育機関での授業がよりスムーズに、そしてより高度なものになるために。
NewsPicksは、今後もどのような支援ができるかを考えていきたいと思います。
NewsPicksでは、授業のオンライン化の支援のため、教育機関のオンライン授業におけるオリジナルコンテンツ利用を、原則として無許諾・無償化することとしました。ぜひ、ご活用ください。
(編集:佐藤裕美、デザイン:堤 香菜)