【3分解説】コロナで高まる「EU不要論」の誤解と正解
日本ではあまり報道されていない欧州のコロナ対策とEUのリーダーシップについて、EU研究を専門とする北海道大学法学部・公共政策大学院の遠藤乾教授に解説してもらった。
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専門家として申し上げたいことはたくさんありますが、1つ。何かあるとEUは崩壊の危機であるとか、失敗だったという声がすぐ出てきますが、だったらEU以外の何が代替策としてあったのか?を考えなければなりません。
元々EUとは強過ぎるドイツを封じ込め、その上で共産圏に抗する勢力作りという意味合いがあり出来たものです(それを綺麗に表現すると「非戦の誓い」になるわけです)。危機の時にしかEUを見ない人々がEUの機構を理解せずに歴史に無頓着な発言をする事が多すぎと感じます。
現在の危機対応にしても内輪揉めは危うさは確かにありますが、ECBは鉄板のキャピタルキーを曲げてもイタリアを支えています(但し、今は買いすぎゆえ出口戦略でかなり工夫が求められましょう)。
崩壊の危機自体は認めつつ、ユーロプロジェクトは20年、なんだかんだ上手くやってきたという事実も真摯に評価したいところです。現況については先週、日経新聞に寄稿させて頂きました。宜しければ御参照くださいませ。
EUが直面している第3の危機 唐鎌大輔氏:日本経済新聞 https://www.nikkei.com/article/DGXMZO59093320U0A510C2SHE000/
EUには、非常事態に対応するための権限はほとんど与えられていません。いい方を変えれば、EUというのはこういう状況のためにできている機関ではないので、何もできなくても仕方ない、ともいえます。
しかし、今問題になっているのは、EUという存在が、主権国家各国が非常事態に対応する能力を縛ってしまっているのではないか、ということでしょう。財政規律や国境管理において、EUが握っている権限が大きいためです。不要論、というよりも「EUは邪魔である」という論が出てきているといえるでしょう。
「EUの権能は法的に決まっており、その範囲内でしか動けないという点が、主権的な存在である国家と根本的に異なる。」といわれた後に、カール・シュミットを持ち出されているのは、EUの本質と弱点を的確に示された指摘です。
EUにできることは法(欧州共同体設立条約と欧州連合条約)で決まっている、それでは国家にできることは法では決まっていないのか?というと、これはイエスでありノーです。
国家とは(教会が絶対的権威を失った近代では)、地上に並ぶもののない力を持った巨大な怪物、リヴァイアサンです(ホッブス)。この並ぶもののない力のことを「主権」と呼びます。国家も法(憲法)によって制約されるのではないかと思われるかもしれませんが、憲法が制約しうるのは君主、もしくは政府であって、国家ではありません。
国家という法人は、何でもできるのです。実際、20世紀だけでも、戦争や内戦、その他の非常事態において、超法規的な措置をとった例は、無数に挙げることができます。
ただし、「主権国家」というのはあくまで法人であり、フィクションです。「主権国家」という人間はおらず、何かを決断するわけではありません。「例外状態において決断する者が主権者である」というのがカール・シュミットですが、実際に例外状態において決断するのは、主権を委託されたということになった国家元首や内閣です。
EUには主権は無く、決断する者がおらず、決断できるだけの根拠もありません。人命を犠牲にすることになる宣戦布告もできなければ、非常事態宣言も出せません。そもそも、通常の主権国家にある司法権もありません。人権を制限するような行政権力もほとんどありません。そういうものが、通常時にはともかく、例外状態においてどういう役に立つのか、が問われています。
日本におけるEU懐疑論者ないしは崩壊論者は、科学的とは言えず良く言えば規範的であり、悪く言えば感情的です。一種のルサンチマンをぶつけているだけようなコメントが、懐疑論者や崩壊論者には数多い。
システムとガバナンスは切り分けて考える必要がありますが、いずれにせよEUは一種の「均衡状態」にあります。当然、部分的に見れば良い点も悪い点もありますが、それはどの均衡にも言えますし、であるからこそ比較するなりして問題点を抽出し、後世につなげていく必要があると感じます。
具体的には、イタリアがEUに属せずにこの荒波に晒されていたら、自力での資金調達も厳しかったはずですし、それこそEUからの資金支援などもなかった。これは良い点です。
他方で、セルビアなど加盟目前の近隣諸国への対応は、国際政治的に見てやはり頂けない。移民・難民問題をめぐる、いわゆる「バルカンルート」への対応をややこしくした感が否めません。
繰り返しとなりますが、問題点を直ぐEU崩壊につなげる報道、論者のあり方は、やはり稚拙と言わざるを得ない(そうしないと感心をもたないという読み手の問題もありますが)。
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