【WEEKLY OCHIAI】メンタル・クライシスにどう向き合うか

2020/5/12
「WEEKLY OCHIAI」では、新型コロナウイルスについての最新情報の解説とコロナショックがもたらす新しい未来の可能性をめぐって、落合陽一と各界のプロフェッショナルによる“ハードトーク”をお届けしています。

この記事は5月6日に配信された「コロナ自粛とメンタル・クライシス」のダイジェストです。
前回の配信はこちらからご覧いただけます(有料視聴)

脳はストレスで思考停止する

緊急事態宣言が5月31日まで延長されることが決定。在宅勤務・巣篭もりの長期化から「コロナ疲れ」といった言葉もネット上でよく見かけるようになった。また、経済や生活面においても「心の危機」を感じる人が今後増えていく可能性が高い。
DAncing Einstein CEOの青砥瑞人氏は脳神経学の観点から、このようなメンタルヘルスを無視せずに向き合うべき理由をこう語る。
青砥 ストレスの度合いによって、脳の使われ方はまるで変わります。ストレスが過剰になると、前頭前野のレギュレーションが失われ、意識的な注意や思考ができなくなってしまう。
日常でも緊張で頭が真っ白になり思考停止することがありますが、あれがいい例です。また同時に、不適切な行為を抑制するための脳機能も働かなくなります。その最たる例が自殺です。
メンタルヘルスはその人を普通じゃありえないような行動に導いてしまう可能性がある。だからこそ、心理的な安全状態を一人一人、もしくは組織、社会の中で作っていくことが必要ですし、いま真剣に考えていくべき時期だと思います。

長期戦に備えて睡眠をとることが重要

心理カウンセラーで、陸上自衛隊初の心理教官として隊員の精神ケアやストレスコントロールの指導・教育を行ってきた、メンタルレスキュー協会理事長の下園壮太氏は、新型コロナ流行が長期戦になることを見据えて、「睡眠」の重要性を語る。
下園 不安というのは、自分に自信があるときはあまり気にならないものです。逆に自分に自信がないと、不安が大きくなる。
そこに最も影響を及ぼすのが、自分の健康に対する自信です。「眠れないな」とか「集中できないな」と思えば思うほど不安は大きくなってしまう。そこで鍵となるのが睡眠です。
戦場でも、20年前の話にはなりますが、二泊三日一睡もしない自衛隊よりも、12時間おきに休みをとる米軍の方がずっと強かったという例もあります。

ソーシャルディスタンスが生む孤独感

慶應義塾大学医学部教授の宮田裕章氏は、ソーシャルディスタンスが人に与える影響と可能性についてこう分析する。
宮田 ソーシャルディスタンスは、ウイルスにとっては最も有効な方法です。しかしメンタル面にとっては孤独感につながっている。
今まで世界中でこれだけソーシャルディスタンスをとった例がないですし、ソーシャルディスタンス自体が与える個人や社会への影響についての議論はまだ始まったばかりで未知数なところがあります。
宮田 ただ、たとえばオンラインカウンセリングサービスなど、遠隔でできるサポートがあれば社会的な距離を埋める余地はあるかもしれない。
それも単なる既存のカウンセリングの置き換えではなく、オンラインだからこそ今まで手が差し伸べられなかったところまで届く可能性もある。そういう点で医学コミュニティでも期待が高まっているところです。

オンライン・カウンセリングの可能性

cotree代表取締役で産業カウンセラーの櫻本真理氏は、オンラインによるコミュニケーションの利点と難点についてこう語る。
櫻本 以前はカウンセリングは対面じゃないとできないと言われていましたが、例えばアメリカのオンラインカウンセリングのデータを見てみると、オンラインの方が満足度が高く治療成績も良かった、という結果が出ています。
ただしセラピスト側からは、オンラインだと情報が限られているので想像力やエネルギーが通常よりも必要になり、介入の指針も決めにくいという点でやりたくないという意見も出ている。
実際、いま企業などでも問題視されているのがオンラインで交流する際の個人差です。言語情報と視覚情報をメインに特性でもっていた人は特に問題がないですが、いままで空気を読んだりなど、非言語情報でコミュニケーションをしていた人たちにとっては、オンライン化は情報量が少なくものすごくストレスになっている。

オンライン診療で内科医ができること

五反田KARADA内科クリニック院長の佐藤昭裕氏は、オンライン診療によって内科医ができることについてこう語る。
佐藤 精神病の治療は大きく二つに分かれていて、薬物治療とカウンセリングです。医療も新型コロナによってオンライン診療ができるなど大きく変化していますが、今現在、向精神薬などの投薬はできません。
そこで内科医がオンライン上でできるのは、コロナの疑いがある患者さんの様子を聞いて、その可能性の判定とその先の道筋を考えることです。それが患者さんのメンタルヘルスに貢献できるひとつの方法だと思っています。

今の社会に合わせた解決策は全部外れる

落合氏は、一連の議論がニューノーマルになっていないと指摘。問題提起とともに今回の議論を締めくくった。
落合 いまの社会にアクセプタブルな解決策を考えても、おそらく全部外れているんです。社会の中に自然が入ってきた以上すべてが予測不可能だし、長期化することを考えると社会の受け入れ方や構造自体を変えないといけない。
新型コロナによって95%の人のメンタルがおかしくなるのなら、その95%がノーマルだと考え直して、彼らが適応するような社会を考えていくべきだと思うんです。

次回 は「パラダイムシフトの新世界史」

5月14日(水)22時配信の次回は「パラダイムシフトの新世界史」がテーマです。
社会システムが大きく変容するとき、これまでの常識が覆されるとき、人間・国家・世界はどう動いたのかを過去の歴史から学び、今後起こりうるパラダイムシフトについて考えます。
歴史研究のスペシャリストを複数、ゲストにお招きし徹底的に学び、考えます。
番組の視聴はこちらから(ライブ配信は無料でご覧いただけます)
<執筆:富田七、編集:安岡大輔>