【WEEKLY OCHIAI】コロナで広がる〝教育・雇用の格差〟を考える

2020/5/5
「WEEKLY OCHIAI」では、新型コロナウイルスについての最新情報の解説とコロナショックがもたらす新しい未来の可能性をめぐって、落合陽一と各界のプロフェッショナルによる“ハードトーク”をお届けしています。

この記事は4月29日に配信された「コロナ格差と教育を考える」のダイジェストです。
前回(4月29日)の番組の視聴はこちらから。

リモートで生まれるパフォーマンス格差

コロナショック以降、世界で進むデジタルトランスフォーメーション。日本でも例外なく、あらゆる分野でデジタル化が求められているが、当然便利なことばかりではない。
今回は社会の急速なオンライン化によって拡大する「格差」について、雇用と教育の側面から考えた。
『ニュータイプの時代』の著書で独立研究家の山口周氏はリモート化が浸透することで、仕事のパフォーマンスを向上できる人とそうでない人の二極化がより一層進むと指摘した。
山口 ホワイトカラーは情報の製造業。情報を工場(人)にインプットし、新たに情報をアウトプットしていることから考えると、従来のように人を積極的に動かしても生産性が上がる訳ではない。
社会的必然として仮想空間へのシフトが起こっている中では、人は動かず情報だけが活発に動いている状態。昨今の状況は仕事の生産性を大きく向上させるチャンスと考えられる。
一方、短時間で良いアウトプットが出せる人により仕事が集中するようになるため、働き方やマネジメントクオリティの違いによって、ホワイトカラーのパフォーマンスに凄まじい二極化が生じるようにもなる。
労働に対する対価設定や人材教育の見直しを企業、そして国家規模で考えていかなくてはならない。

デジタルに接続できぬ子供をどう救うか

9月入学制度の話題も上がる中、今も休校状態にある学校現場ではオンライン教育への対応が進められているが、整備が整わない中でその導入を急ぐことは、深刻な格差が生み出されかねないとする意見も多い。番組後半は教育と格差の視点から議論が展開された。
落合 デジタルに接続されていない家庭や自分の部屋を持っていない環境にある子どもに対して、オンライン教育はすごく問題があると思う。1人につき1つのスクリーン、カメラ、マイクがないと授業中の発言権が平等に与えられない。この辺は本当に問題。
回線速度が速くて、高解像度・高音質に整備された環境にいる子ども達はぐんぐん伸びる。オンラインゲームでハイスペック機器を持つユーザーが強いというのと同じことが、フィジカルな教育の現場で起こって良いはずがない。

オンライン教育をめぐる“3つの格差”

Crimson Global Academy日本代表の松田悠介氏はオンライン化によって生じる教育格差を3つの観点から分析する。
松田 オンライン教育は知識の詰め込みにおいて効率的に学ぶことができるという仮説があり、公教育への導入も4〜5年かけて進められていく予定だった。
しかし、その体制が整っていない今回のタイミングでオンライン教育へ急遽移行しようとしているため、様々な弊害が生じている。各家庭の環境の格差に加えて、ICTの整備が自治体・学校単位で差があったり、教員のデジタルリテラシーに応じて学級間の格差が生じてしまっている状況だ。
これまでは教育格差が進学・就労格差へ紐付いていたが、オンライン化によりダイレクトに学力格差をも助長しかねない。格差を生み出す連鎖の構図が加速度的に上がっている。

ベーシックインカムとリワードデザイン

社会全体が二極化していく中で、どのような制度が求められるのか。経済学者の竹中平蔵氏はベーシックインカムの導入が今こそ必要であると話す。
竹中 このままいくとものすごい二極化が進む。まずはベーシックインカムの導入を行い、社会全体の安定を守るべきだ。またそれと同時に、頑張った人が相応に報われるために、パフォーマンスの高い人への報酬のつけ方、リワードデザインもセットで設計されていく必要がある。
さらに、テールリスク(想定外の危機)への備えについても議論を行っていかなくてはならない。日本には戦争などの危機的状況を想定した制度がないため、有事の際に求められるスムーズな意思決定を下すことが難しい。
今回のコロナショックを機に平常時と非常事態下で2つのルールの切替えができる仕組みを作らないと、私たちの社会は前進しない。

教育としての体験価値を定義する

また、慶應義塾大学医学部教授の宮田裕章氏は、急変する社会の中で設けられた制度や仕組みに対して、体験という視点から新しい価値を見出すことの重要性を指摘した。
宮田 変容していく価値観の中でどういう社会を作るべきなのか、教育としての〝体験価値〟を新たに定義・構想していく必要がある。例えば地方に住むことで、東京では得られない豊かな暮らしを享受しながら、オンライン上で最高質の教育を実現するなど。
今までの教育の中で「素敵じゃなかったもの」もたくさんあったはずだ。単にカリキュラムをこなす教育から、子どもたちが新しい可能性を見つけて幸せを掴んでいくための教育へと変化していくために、これから必要とされる価値を考えなくてはならない。
世界全体が止まっている今、手段として用いられた様々な制度から「新たな価値」を見出した組織・国が次のリーダーになる。

次回は「コロナ自粛とメンタル・クライシス」

5月6日(水)22時からのテーマは「メンタル・クライシス」
緊急事態宣言が5月31日まで延長されることが決まり、在宅勤務・巣篭もりの長期化、自粛疲れなどによって、メンタルの不調を抱える人が少なくなくありません。
そこで次回5月6日の「WEEKLY OCHIAI」は、カウンセラーや脳科学の専門家らをゲストに招き「メンタル・クライシス」について考えます。
5月6日(水)22時よりライブ配信(配信後のオンデマンド視聴はプレミアム会員限定となります。)
<執筆:具嶋友紀、編集:安岡大輔、デザイン:斉藤我空>