5大リーグ、コロナ禍で迫られる「クラブ存続」の選択肢

2020/5/14
試合ができない今、クラブを存続させるためにコスト削減は喫緊の課題だ。ヨーロッパでは各リーグ・クラブが減俸を提示、選手も受け入れている。それはなぜ可能になるのか。スポーツジャーナリストのザビエ・バレが取材を行った。

収益ゼロも、停止した経済システム

新型コロナウイルスによる災禍は、様々な分野で深刻な経済危機を引き起こした。
製造業や商業、旅行業、ショービジネス業……。今日における興行形態のひとつであるプロスポーツにおいてもそれは例外ではなかった。世界サッカーの中心であるヨーロッパでは、経済システムとしてのサッカーが深刻な打撃を受けたのだった。
ヨーロッパのクラブサッカーを支えているのは、主に次の3つが収入源である。
・テレビ放映権
・選手の移籍
・富豪のメセナ(※活動支援)
近年、クラブは収入の多様化を目指し、あらゆる可能性を模索し実践した。
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スタジアム建設(アーセナルやバイエルン、トッテナム、ユベントス)や新たなマーケティングの開拓、異なる業種の大企業とのパートナーシップも強化した。
胸スポンサー(2014年にシボレーがマンチェスター・ユナイテッドとシーズン7000万ユーロで契約し※2、エミレーツは6500万ユーロでレアルと、楽天は5500万ユーロでバルセロナと契約した)や、エクイップメント(アーセナルはシーズン7000万ユーロでアディダスと、マンチェスター・シティは7800万ユーロでプーマと契約し、ニューバランスとの契約が終了するリバプールは、新たに8000万ユーロでナイキと契約しようとしている)、スタジアムのネーミングライツ(トッテナムの新スタジアムは、アマゾンが3000万ユーロで交渉中である)などで大型契約を結ぶことで、収入源の分散を図ったのだった。
(※2 今シーズン終了後に契約が打ち切られるとも言われている)
その結果、自らの名声を金銭的価値に換えてさまざまな契約を結びうるビッグクラブの、テレビ放映権に依存する割合は相対的に減少した。
だが、それが簡単ではない他の平均的なクラブは、逆にテレビ放映権への依存を高め、ヨーロッパ5大リーグにおいては収入のほぼ50%に達した。
そして、経済活動が完全に停滞した今日、どのような収入も確保が難しくなってしまった。
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緊急事態宣言が発令され、人々の外出が禁止されて無観客試合すら行われない。チケット収入は期待できず、収益はゼロである。それどころか払い戻し請求も、年間シートの一部返却請求さえあり得るのである。
スポンサー契約、エクイップメント契約には、結果に関する条項も含まれている。
マンチェスター・ユナイテッド時代にジョゼ・モウリーニョは、シーズン8000万ユーロのエクイップメント料が、翌シーズンのチャンピオンズリーグ進出を逃した場合には半分に減額されてしまうと語っている。
シーズンがまだ終了していない今季に関しては、減額が適用されるか否かは微妙ではあるが、問題を孕んでいることだけは間違いない。

選手を売ることも買うこともできない仏

中断による損失を埋めるために、大半のクラブは選手の売却による補填を考慮しているが、移籍については5大リーグの実態を一口に括ることはできない。それぞれの国によって、またビッグクラブとそうでないクラブによって状況は異なるからである。
クラブはふたつの種類に分けられる。
ひとつは移籍市場に巨額な投資ができる資金力を持つごく少数のビッグクラブと、選手を移籍市場で売ることによって財政を維持している大多数の平均的なクラブ。
さらに細かく分ければ、両者の間には財源こそ限られているものの、育成や移籍による利益などで競争力を維持しながら、トップクラスに続くセカンドクラスとして力を保ち続けるグループがある。
アヤックスやPSVアイントホーフェン、アンデルレヒト、FCブルージュ、FCバーゼル、ザルツブルクなどがここに属する。
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フランスを例にとれば多くのクラブが債務超過であり、DNCG(ディレクション・ナシオナル・ド・コントロール・ド・ジェスチョン=フランスクラブ経営監査理事会)が決めた決算期限前に選手をひとりふたり売却して赤字を補填し、収支を均衡させるというのが例年の傾向であった。
ところが今年の場合は、シーズンが終わらなければメルカート(移籍市場)が始まらない。つまり負債を抱えたクラブは、選手を売ることができず、もちろん買うこともできない。
ヌーシャテル(スイス)に本拠を置くサッカー関連調査機関のCIES(サントル・アンテルナショナル・デチュード・デュ・スポール)によれば、この夏は移籍市場の価値が全体で28%下落するという。
5大リーグの選手の市場価値も、327億ユーロから234億ユーロに落ち込むことになる。
パリ・サンジェルマンの場合、選手の総資産価値は3億200万ユーロ(-31.4%)に下がり、レアル・マドリードは3億5000万ユーロ(-31.8%)、バルセロナは3億6600万ユーロ(-31.3%)に下落する。

メセナか投資家か

移籍市場に依らない赤字補填手段としては、メセナあるいは投資家としてのクラブオーナー(株式会社組織の場合は株主)による救済がある。
メセナとは、パリ・サンジェルマンのカタール・スポーツ・インベスティメント(QSI)、マンチェスター・シティのアブダビファンド、チェルシーのロマン・アブラモビッチ、ユベントスのアニェリ一族、ライプチヒのレッドブル、レバークーゼンのバイエル、ウォルフスブルクのフォルクスワーゲンなどであり、クラブは支援者が提供する資金に頼りながら、経済危機が去るまでじっと身をかがめていることができる。
これがヨーロッパにおける大半のアメリカ人オーナーのようにオーナーが投資家(マンチェスター・ユナイテッドやアーセナル、リバプール、クリスタルパレス、オリンピック・マルセイユなど)であると、投下した資本の回収に努め損失を少しでも減らそうとする。
2016年からマルセイユのオーナーとなったアメリカ人フランク・マッコートは、これまでの損失の大きさを重大視して現在はクラブの売却先を探している。
コロナ禍とそれに付随する経済危機は、この傾向をさらに助長するだろう。
こうした状況を鑑みたとき、クラブはテレビ放映権に頼らざるを得ない。
日常の外出が禁止され、家に閉じ込められてテレビを見る他はない今は、テレビへの需要はさらに高まる。だが、試合を放映するには、まず中断しているリーグ戦やカップ戦を再開しなければならない。
ところが議論は活発になされながらも、再開の目途はまったく立っていない。
他方でいくつかのテレビ局は、クラブへの放映料の支払い(プロリーグ機構を通じて行われている)を停止した。フランスではカナルプリュスとBeINスポーツが、4月分の支払い(それぞれ1億ユーロと4200万ユーロ)を拒否している。
契約下の選手やクラブ職員の給料支払いや借金の返済、施設の維持、スタジアムの使用料などさまざまなランニングコストの支払いを続けねばならないクラブは、深刻な財政危機に陥ったのであった。
フランスでは、リーグアン(1部リーグ)、リーグドゥ(2部リーグ)合わせて40のプロクラブの昨年の負債総額は1億6000万ユーロにのぼる。クラブはその穴を埋めるために選手を市場で売却し、2018年は9億2900万ユーロ、2018年は7億4000万ユーロの売却益を得た。
だが、メルカートが開かれずテレビ放映権も期待できない現状では、支出を削減する以外に赤字を減らす方法はない。クラブ予算の中では、選手のサラリーが占める割合が最も多い。その部分を削減することが、経済危機に対処する最善の方法でもある。

支出を削減するほかない

クラブのオーナーは、法律や規則で保護されている職員の給料をむやみには下げられない。
フランスの場合、1部から2部に降格すると、職員の給料は自動的に20%の減額となる。
また給与所得者には短期失業の制度が適応され、月6927ユーロを上限とした給与の84%が、国によって保障されている。
ただし、これを選手に当てはめたときには、リーグアン所属選手の平均月給9万4000ユーロはもとより、リーグドゥの3万5000ユーロにも遠く及ばない。
加えて、フランスの労働規約によれば、サッカー選手は給与の減額を認める義務を負ってはいない。つまりクラブがそれを実現するためには、選手たちと交渉し、彼らの合意を取り付けねばならないのである。
そうした状況下で、選手組合(UNFP)とクラブは話し合いの末に以下の基準を定めたのだった。
月額1万ユーロ以下の給料の選手:現状維持
月額1万~2万ユーロの給料の選手:20%の減額
月額2万~5万ユーロの給料の選手:30%の減額
月額5万~10万ユーロの給料の選手:40%の減額
月額10万ユーロ以上の給料の選手:50%の減額
つまりパリ・サンジェルマンがUNFPの提案を受け入れた場合、ネイマールの月収は306万ユーロ(税込み)から153万ユーロに、キリヤン・エムバペは191万ユーロ(税込み)から95万ユーロに、またGKケイロル・ナバスの場合は61万4254ユーロ(税抜き)から30万7130ユーロに下がることになる。
現状ではほとんどのクラブが、選手との合意に達している。
しかし他の国々は、それぞれフランスとは事情が異なっているのだった。

給料の遅配が始まったイタリア

ユベントスはすでに3月29日の段階で、選手全員と監督(マウリツィオ・サッリ)の30%のサラリー減額を発表した。これは彼らの4か月分の収入に当たる。
選手のサラリー総額は3億2780万ユーロで、クラブ予算(4億3660万ユーロ)の71%に相当する。減額の結果、クラブは9000万ユーロの節約に成功した。
同様にローマとパルマも、クラブと選手の間で減額の合意に達した。
さらにレガ・カルチョ(イタリアリーグ)も、シーズンが途中で打ち切られた場合には3分の1(33%)の減俸を、再開した場合でも6分の1(約16%)の減俸を選手たちが承諾したと発表した。彼らはクラブを通じて同意書にサインしたのだった。
とはいえセリエA(1部リーグ)のすべての選手が、ユーベの選手たちのような高給取りであるわけではない。
かつてローマとイタリア代表(2002年ワールドカップ出場)でプレーし、今もイタリア選手組合(AIC)の代表を務めるダミアーノ・トンマージは次のように語っている。
「それぞれが異なったベースに依拠している。クラブと選手が個人的にもコレクティブにもこの合意に至るのであれば何の問題もない。だが多くのクラブは、われわれのサポートと援助を必要としている」
とりわけ成績下位のクラブの状況が深刻であり、すでに給料の遅配が始まっている。
セリエB(2部リーグ)やC(3部リーグ)のクラブの会長たちは、年収5万ユーロ以下の選手に対する短期失業の適用(給料の80%を保証するが、イタリアではサッカー選手は適応外)を政府に対して求めている。
セリエAでこの制度をクラブ職員に適用しているのはナポリ、カリアリ、サンプドリアの3つのクラブのみである。

メッシが一変させた空気も…

スペイン選手組合(AFE)とハビエル・タバスに率いられたリーグ機構の最初の話し合いは緊迫したものだった。
AFEが提唱した選手のサラリー減額が8~10%であったのに対し、リーガが求めたのは20%であったからであった。
最終的に大半のクラブは、ふたつの異なるケース──リーグが再開した場合としなかった場合の減額に合意した。
だが、それは、バルセロナの状況により意味をなさなくなってしまった。
バルセロナのサラリー総額は5億8000万ユーロで、シーズン予算(8億4000万ユーロ)の69%にあたる。
リーガが中断して以来、スペインのメディア──とりわけバルセロナの新聞では、コロナ禍の深刻さに衝撃を受けたスペインの世論がサラリー減額を求めているのに対し、バルサの選手たちが応じようとしないと何度も報じられた。
そんなときにリオネル・メッシが自身のインスタグラム(3月30日)で、マーティン・ブライトワイトを除くすべての選手の意を受けて、緊急事態宣言期間中の70%の給料カットと、短期失業に追い込まれた職員の給与を100%保証するための支援を宣言したのだった(参考資料2)。
彼のコメントは世界的な賛同を得て、すべての批判を鎮静化させた。
ちなみに短期失業(給与の70%を最高額2000ユーロまで補償)は、ハビエル・タバスの強い要請にもかかわらず、制度の適用を決めたのはバルセロナやセビージャ、アトレチコ・マドリードなど少数にとどまっている。
一方、レアル・マドリードは、クラブ執行部と選手(サッカーとバスケットボール)の間で10%の賃金カット(選手と管理職に適用)と、リーグが再開しなかった場合の選手・役員を問わず一律20%の賃金カットをするというコミュニケを発表した。
第一段階として5000万ユーロを節約し、450人いる職員の解雇を避けるための手段であった。
これに対しトニー・クロースは、SWRスポーツの取材に応えて、自分としてはサラリーの一部を自らの意志で提供する対象を選びたいが、スペインではそれはあまりいいこととは見なされていないと述べた。
クロースのこのコメント以降、状況は膠着したままになっている。

大臣が減額を求めるイギリス

政治も含めてサッカー選手の存在が広く取り沙汰されることが多いイングランドでは、この問題でも熱い議論が起こっている。
「誰もが自分の果たすべき役割を遂行すべきで、プレミアリーグの選手もそれは同じだ。彼らが最初に貢献できることは、給料の減額に応じることだ」と、マット・ハンコック厚生大臣は語っている。
それに対してトッテナム(ニューカッスルにローン移籍中)のディフェンダーであるダニー・ローズは次のように反論する。
「サッカーの世界と何の関係もない人間に、僕らが稼いだ金の使い道を決めて欲しくない。どう考えてもおかしなことだろう。
ジョーダン・ヘンダーソン(リバプールのキャプテン)とも電話で話したけど、僕は自分のサラリーの一部をコロナ禍の第一線で闘っている人たちや、現状に苦しんでいる人たちの支援に使うことに何の躊躇いもない」
強い影響力を持つ選手組合(PFA)は、リーグの幹部たちが選手のサラリー減俸を画一的に議論することに反対している。幹部のひとりはこう語る。
「12か月にわたる30%の減俸案は、総額で5億ポンド以上のサラリー減額となり、国庫収入も2億ポンドを喪失する。その収入減が、厚生省のコロナ対策にどんな影響を与えるかを真剣に考えるべきだ」
クラブ財政に関する議論は、リバプールやトッテナム、ニューカッスル、ノーリッジ、バーネマスやシェフィールド・ユナイテッドのように、職員の短期失業が問題となったクラブと関連付けて語られている。
イングランドでは短期失業は、最高で(フランスよりずっと少ない)月額2500ポンドを保障されているが、同時に納税の義務も負っている。
現状ではこの制度の適用を求めているのはニューカッスル、ノーリッジ、ボーンマス、シェフィールド・ユナイテッドの4つのみである。
2月末にリバプールは、年間収入が6億2700万ポンドに増加し、収支も4900万ポンド(税抜き)の黒字であることを明らかにした。同様にトッテナムの黒字は8700万ポンドであった。
サポーターの不満を目の当たりにしたクラブは、一部職員の短期失業を断念し、彼らに100%のサラリーを支払い続けているのだった。
サラリー減俸に関する選手との話し合いは今も続いている。
選手の被害をすこしでも少なくしたいPFAの発言力は強く、プレミアリーグを放映するふたつのテレビ局、スカイスポーツとBTスポーツ──総額17億ポンドの放映契約を結んでいるが、残りの12節はいまだに試合が行われていない──は、たとえ巨額の損失を被っても未消化に終わった試合の賠償金(総額でおよそ3億7100万ポンドに達する)を請求することにはならないだろうと言われている。
プレミアでは、海外からの放映権収入も膨大な金額(シーズン当たり15億9000万ユーロ)にのぼる。
この潤沢な資金により、近隣のヨーロッパ諸国に比べコロナ禍とそれに伴う経済危機の影響が比較的小さく抑えられているといえる。

早期減額に応じたドイツも、経営は危機に

ドイツの多くのクラブは、比較的早い段階から選手のサラリー減俸の合意をとりつけた。
最初がボルシア・メーゲングランドバッハ(BMG)で、ベルダー・ブレーメン、バイヤー・レバークーゼン、シャルケ04がこれに続いた。
バイエルン・ミュンヘンは、選手とクラブ首脳がともに20%の減俸で合意した。ボルシア・ドルトムントは、リーグが中断のまま終わった場合は20%、無観客で再開した場合は10%の減額である。
また短期失業制度に頼っているのはBMG、ヘルタ・ベルリン、デュッセルドルフ、ユニオン・ベルリン、マインツの5つのクラブである。
だが、そうした節約にもかかわらず、1部と2部合わせて36のプロクラブのうち13が破産の危機にある(財政がひっ迫したパーダーボルンとアウクスブルクは国家による救済を求めている)。
この状況を回避するために、1部と2部の試合放映権を持つテレビ局は、シーズン終了時に以下の金額を支払うことに合意した。
―スカイスポーツ・ドイツは、シーズン放映権の最後の四半期分(シーズンあたり9億ユーロで2021年6月まで契約)を支払うが、数千万ユーロの減額となる見通しである。
―ブンデスリーガのハイライトの放映権を持つARDとZDFのふたつの公共放送は、最終的に4000万ユーロの支払いで合意に達した。
こうしたテレビ局のサポートは、多くのクラブにとって助けとなった。
というのもヨーロッパでも最大の観客動員(1試合平均4万2000人=ブンデスリーガ1部)を誇るドイツでは、チケット収入のクラブ予算に占める割合が高い(平均30%)。無観客でのリーグ再開の影響は、他の国々よりも大きいからである。
ヨーロッパ5大リーグの現状を見てきたが、どの国もリーグ機構や世論は選手(や監督、クラブ首脳)のサラリー減俸を求めている。
しかしそのやり方が同じでないのは、それぞれの国の制度の違いや、とりわけ直面する経済危機の深刻さの違いによるのだった。
(執筆:ザビエ・バレ、翻訳:田村修一、デザイン:小鈴キリカ、写真:GettyImages)