プレミアム会員限定の記事です
今すぐ無料トライアルで続きを読もう。
オリジナル記事 7,500本以上が読み放題
オリジナル動画 350本以上が見放題
The Wall Street Journal 日本版が読み放題
JobPicks すべての職業経験談が読み放題
コメント
注目のコメント
科学者同士で使用する"極限まで確からしい表現"は、ビジネス視点では成功の弊害になりうるのかも知れません。状況に合わせて正しさとわかりやすさのバランスを変える事が必要となりますし、それが本当に難しい。
私たちの体に病原体が侵入すると、まず自然免疫細胞が迅速に炎症を誘導します。その際に死んだ細胞や病原体から、mRNAが放出される場面があります。自然免疫細胞には、このmRNAを危険信号として察知するセンサーが備わっているのです。
本来細胞内にあるはずのRNAが細胞外にあるぞ!→緊急事態のようだ!→もっと炎症を強めよう! といった具合です。
しかしmRNAワクチンの場合これは不都合です、なぜならばなるべく安定したmRNAを細胞内に届けたいからです。カリコが開発に成功したのは、自然免疫細胞のセンサーに気づかれにくくする技術で、まさにmRNAワクチンの開発の肝なのです。もし将来、mRNA医薬品が人類に恩恵をもたらし、その功労者がノーベル医学生理学賞の対象になるとしたら、カタリン・カリコさんは間違いなくその一人に選ばれるでしょう。
mRNAは、細胞の中でDNAに書き込まれた遺伝情報からタンパク質が作られる際、必要な情報を運ぶメッセンジャーの機能を果たしています。そこで、病気の予防や治療に必要なタンパク質を作るための情報を運ぶmRNAを投与すれば、細胞内でそのタンパク質を作り出すことができるはず。それがmRNA医薬品の発想です。
ところが、mRNAを体外から投与すると、異物として認識され、攻撃されてしまいます。カリコさんは、mRNAを医薬品として使うアイデアだけではなく、その最大の欠点を克服する基本的な技術を生み出しました。
技術を最初に生み出した人と、その技術を育て、成熟させる人は必ずしも同じである必要はありません。また、カリコさん自身が認めるように、研究者としての才能とビジネスの才覚を誰もが併せ持つわけでもないでしょう。また、mRNAを医薬品として使うには、他にもたくさんのハードルがあります。
しかし、モデルナが今後、mRNA医薬品の製品化に成功した時、 彼女の功績が故意に忘れ去られてしまうことはあってはならないと思います。
取材に同席し、研究の歴史を生き生きと語るカリコさんの明晰さに魅了されました。株価急騰中のバイオベンチャー、モデルナ。2010年に生まれたこの会社のビジョンはとても革新的ですが、その裏には、様々な研究者たちによる素晴らしい発見があります。
新しい技術の裏にある、歴史の点と線をお届けします。驚くような発見をした人と、ビジネスを成功させる人は、必ずしも一致しない。それはどの時代においても、サイエンスとビジネスの宿命なのかもしれません。