編集者とデザイナーが共創する、コンテンツ制作の裏側

2020/4/30
 大量生産・大量消費されていくさまざまなコンテンツ。しかし、情報過多な社会では、本当に有用で優良なコンテンツと出会える確率は低い。世の記者や編集者も、どうしたら読まれるコンテンツを作れるのか、模索する日々ではないだろうか。

 そんななか、NewsPicksでは記者とデザイナーがタッグを組んでコンテンツをアップデートし続けている。どのような思考で新しいコンテンツを生み出しているのか。

 NewsPicks 副編集長の泉秀一氏とグラフィックストーリー作家のすなだゆか氏にコンテンツ制作の裏側を聞いた。
専門的な話題こそ、簡単に表現する
──NewsPicksでは記者とデザイナーがタッグを組んでコンテンツを作るという特徴がありますが、お二人の代表作となるコンテンツを教えてください。
 3年前に入社してから、何度もデザイナーと新しいコンテンツの形を模索してきた中で、強く手応えを感じたのは、2年前に「電池ウォーズ トヨタは勝てるのか」という特集で作ったインフォグラフィック、「【超図解】世界40兆円が動く、「電池」のしくみ・技術・企業」(有料記事)です。
 この特集のテーマは、電気をエネルギー源とした電気自動車(EV)の最新動向をリポートすることでした。オーソドックスに考えれば、トヨタの幹部や新興EVメーカーに話を聞く、その最前線を取材するだけでも特集として成立します。
 でも、本当にEVを理解して未来を見通そうと思えば、派手な完成車メーカーだけではなく、中核部品である「電池」の世界に触れる必要があります。
 ところが、電池の世界はあまりに地味で、それまで大きく取り上げられることはありませんでした。
 パソコンやスマホなど身の回りで使われている電池と、自動車に搭載される車載用がどう違うのか。電池について基礎からわかりやすく解説するコンテンツがあれば喜ばれるのではないかと考えました。
 ただ、電池についてテキストで説明しても難しくて誰にも読まれません。私自身、電池について学ぶためにリサーチしても、専門用語の多い書籍ばかりで、難解さに心が折れそうになりました。
 だからこそ、図解で視覚的に読んでもらえるインフォグラフィックが最適なアウトプットの形だと思い、難しい書籍を読み込み、取材を重ねて構成を練りました。
NewsPicks 副編集長 泉秀一
1990年生まれ、福岡県出身。2013年関西大学社会学部卒業後、ダイヤモンド社入社。週刊ダイヤモンド編集部を経てNewsPicksへ。 NewsPicksでの主な担当特集に、「百貨店の終わり」「サントリー 最強の家族経営」「ZOZOの野望」「プライベートブランド革命」「電池ウォーズ」「メルカリ経済圏」「CCC解体新書」「本当のデザインの話をしよう」「コンビニは変われるか」「未来を喰らう」「企業研究 吉本興業」など。
すなだ 電池の話はすごく難しくて、最初に泉さんから構成をもらったときは理解できなくて困りました(笑)。
 電池の性能の違いが材料の比率によることなどが書かれていたのですが、それを図解して簡単に伝えるイメージが湧かなくて。
NewsPicks グラフィックストーリー作家 すなだゆか
2017年NewsPicks入社。主に編集部で、さまざまなテーマの入門記事をビジュアライズして、わかりやすい記事づくりを目指す。
 私が理解できるまで、泉さんに何度も質問をして、わからないところを噛み砕いてもらった結果、記者に言葉で解説してもらえれば分かるのに、文字になると理解のハードルが急に高くなることがわかりました。
 そこで、これまでやったことがなかった“解説キャラクター”を登場させるスタイルでデザインに落とし込むのはどうだろうと思いつきました。
難しい話題をキャラクターを使ったインフォグラフィックで解説。
 キャラクターを登場させると、難しい話もセリフを用いて簡単に表現できますし、ひとつのお話のように、するする読めるようになります。この手法は今回のコンテンツにピッタリはまりました。
 何より、私が理解しづらい部分は、読者ももしかしたらつまずくポイントかもしれません。それを記者と一緒につぶしていく作業は、とても意味があることだと感じています。
 何度も質問されて全く進まないと、本当に完成するのかと不安になることもありますが、読者に近い目線で「ここがわからない」と言ってもらえると、わかりやすい表現の追求につながります。
 結果的に、専門的な内容にもかかわらず、多くの人に読んでもらえました。
 このインフォグラフィックに手応えを感じたのは、本や論文だけでなく、記者が独自に何件も取材しないとわからなかったことも混ざっている点です。
 何冊かの専門書の翻訳だけではなく独自情報も盛り込んで、それをキャラクターというデザインでわかりやすく解説できたこと。これは、間違いなく記者とデザイナーが共創しなければ生まれなかった事例だと思います。
──制作期間はどれくらいだったのでしょうか。
 複数の記事を同時進行で走らせているのでなんとも言えませんが、リサーチと取材を含めて1カ月くらいだと思います。
すなだ デザインの実作業は4日くらいだったんじゃないかな。
 前日は完全に徹夜したよね(笑)。
すなだ むしろ、徹夜しなかったら時間が足りなくて作れていないです(笑)。
 ただ、これは記者とデザイナーが何度もやり取りをして、お互いに納得したものを世に出せたすごくいい例で、本当に時間がない場合は渡された構成をそのままデザインに落とし込むことも少なくない。
 そこでいうと、「企業研究 吉本興業」の特集で作ったコンテンツは、泉さんからもらった構成をそのまま作ったので悔いは残っています。
型にはまらない記事をデザイナーと模索
──吉本興業の特集コンテンツはどういった企画から生まれたのでしょうか。
 吉本興業の“裏面史”というテーマで、面と裏が視覚的にわかるコンテンツを作りたいと思って、最初からデザインありきで構成を考えました。
 テキストだけで面と裏を表現するのは限界があるので、表現手法の選択肢にデザインがなければ生まれていないコンテンツです。
面の歴史から裏の歴史への切り替わりをデザインで表現した
すなだ 面と裏はデザインで表現できたのですが、本当は、1コマがぶつ切りになるスライド形式ではなくて縦型の漫画にしたかったんです。
 緊急特集で時間がなかったから、泣く泣くスライドにしたけれど。
スライド形式で作られたコンテンツ
 記者は構成をKeynoteで書くから、その段階でスライド形式にまとまっています。
 それをインフォグラフィックなどに作り込む場合は、デザイナーが全体を理解した上でデザインを組み直す必要があって、ときには構成から変えることもある。
 でもスライドならある程度構成のままで作れるからデザイン時間は短くできるんですよね。
すなだ そうなんです。ただ、スライドはグラフや数字が多かったり、何かの分析をしたりする定量的な記事の場合には向いているけれど、物語はインフォグラフィックや漫画の方が相性はいい。
 今回は、もらった構成を淡々とデザインに落とし込むことが多くて、もっとできることがあったのにと反省が残ります。
 吉本興業の時のように、大きなニュースがあると翌週の月曜から緊急特集を組む場合が多いので、どうしてもそういう場合の制約はあります。
 とはいえ、デザイナーと一緒に作る前提でコンテンツを企画できるのはアウトプットの幅が広がるからすごく嬉しい。
 1人で記事を書くだけでは想像できないような質問をもらえるからね。たまにイラっとすることもあるけれど(笑)。
すなだ たしかに、質問をするときにイラっとされていると感じることはありますね(笑)。
 たとえば「緊急特集 イラン危機」の“ゼロからわかる中東入門”のインフォグラフィックを作っていたときのこと。
 スンナ派はアリー家以外でも指導者になれるけれど、シーア派はアリーの子孫しか指導者になれないという話に、「なんでアリーの子孫しか認めないのか」という質問をされたときは「えっ!?」と思いました(笑)。
 でも、記者が「そういう事実だ」と疑問に思わないことに対して「わからない」とぶつけてくれるのはありがたいことです。
 わかりやすいコンテンツを広く届けるためには、記者とデザイナーが何度もやり取りした方が絶対にいい。
 どうしたら読まれるかを一緒に模索して、型にはまらない、いろんなパターンを試せるのは信頼できるデザイナーがいるからこそだと思っています。
構成にまで踏み込むデザイナー
──すなださんがコンテンツを作る時に大切にしていることは何でしょうか。
すなだ 私はとにかく文字を読むことが苦手なんです。世の中のことはちゃんと知りたいけれど、文章びっしりはつらい。でも、読者の方にも私と同じような人は結構いるんじゃないかと思っていて。
 そういう人たちも、グラフィックの記事なら読めると思える記事をつくることを大切にしています。
 デザインとしては、読みやすさを重視するために文字を大きめで構成しますし、最後まで飽きずに読めるよう、テンポ感や文字を少なくしてイラストで表現するなどの工夫をしています。
 ただ、そもそものストーリーがおかしかったり、難しい文章が出てきたりするとスラスラと読めないから、私が疑問に思うことは全部解消して、わかりづらい言葉で語らないことを大事にしています。
 だから、デザイン実作業の時間よりも、特集に関わる書籍を読みあさったり、構成を作った記者に何度も質問をしたりして、ちゃんと理解するまでに割く時間の方が長い。
 ときには、構成を作り変えることもありますよ。
表現手法の選択肢が多いから、思考が広がる
──これからどんな人に仲間になってもらいたいでしょうか。
 縦割の組織ではないから、誰かに言われた仕事だけをやりたい人は向いていないと思います。
 組織に対してもコンテンツに対しても、これは本当に正しいのか、面白いのかと疑問を持って発言できる人はぜひ仲間になってほしいです。
すなだ 難しいことを難しいまま説明するのではなく、ちゃんと噛み砕いて説明しようとする意思のある人がいいですね。
 ニュースは背景知識がないと置いてきぼりになります。それを解消したくてNewsPicksに入社したので、わからないことがあればすぐ記者に噛み付きます(笑)。
 それを面倒がらずに付き合ってくれる人だと嬉しいです。
 僕はこの会社に入社していなかったら、インフォグラフィックや動画のコンテンツを作ることはなかったと思います。
 そもそもテキストしか表現手段がないと、記者はその範疇でしか取材をしませんが、デザインや動画を表現手法として使えるから思考が広がりました。
 しかも、社歴や年齢に関係なくトライできるから、すごく成長させてもらったと思います。ただその分しんどいですけどね。
すなだ たしかに、1日中コンテンツのことを考えずに休む日は無くなったかもしれないです(笑)。
 ただ、誰かに言われてやっているのではなく、自分たち発信で工夫しながらコンテンツを作っているから、そこに対してストレスはありません。
 最近、月曜から土曜までのニュースをまとめて翌月曜に配信する「ニュースサマリー」を新しく始めたのですが、このコンテンツを編集する時間は、僕もすなださんも実質日曜しかない(笑)。
 でも、誰かにやってくれと言われたのではなく、自分たちが必要だと思って始めたことだから、大変だけど楽しいし学びがあります。
 コメント欄で直接意見をもらえますし、読まれたかどうかは数字になって返ってくるので、記事に対する評価が鮮明で、環境としては厳しい部分もあるかもしれません。
 自由なアウトプットが許されている分、前例をなぞる記事ばかりではダメで、結果を受けて新しい表現にトライし続けることが重要で、それがNewsPicksの面白さだと思います。
 だから、自分に火を付けたい、常に新しいことにトライし続けたいと思う人なら、きっと楽しめる環境だと思いますよ。
 インフォグラフィックもスライドも、今はある程度の型ができてしまっていて、少しマンネリ化しています。
 それを打ち破るのが僕たちの課題の1つなので、ぜひいろんなバックグラウンドから経験や知識を持ち寄って、一緒に新しいコンテンツを作りましょう。
(取材・文:田村朋美、写真:小池大介、デザイン:國弘朋佳)