【厚切りジェイソン】転機は人生を豊かにする。一歩踏み出すためのマインドチェンジ

2020/5/6
働き方改革とテクノロジーの急伸、そしてコロナウイルスの感染拡大によって、ビジネスパーソンの働き方は大きく変わろうとしている。
IT企業で管理職を務めながらお笑い芸人養成所に通い、人気タレントの仲間入りを果たした厚切りジェイソン氏は、「パラレルワーク」という言葉が一般化する前から複業を成功させていた“元祖パラレルワーカー”のひとり。
ビジネスマンとタレントを両立させる働き方は今も継続しており、2019年にはベンチャーキャピタルの設立メンバーとして新たな可能性に挑んでいる。自分自身の価値を高め、人生を充実させる複業の魅力と、両立の秘訣について聞いた。
1986年、米ミシガン州生まれ。ミシガン州立大学在学中に、旭化成のインターンシッププログラムで来日。帰国後、GE Healthcareに勤務する傍ら、イリノイ大学大学院を修了。 2011年に米BigMachines日本法人トップとして再来日。2012年にテラスカイ入社。お笑い番組に興味を持ち、ワタナベコメディスクールで働きながら芸を学び、2014年にデビュー。「Why Japanese people?」と外国人から見た日本文化の不思議を笑いに落とし込む芸風が受けて、一躍人気者に。2019年からはテラスカイベンチャーズ取締役も兼任。ビジネスやIT分野で最新の知見を有するタレントとしても活躍中。

パラレルワーク歴6年、修士号もオンラインで取得

パラレルワークやリモートワークという言葉が一般的になったのはここ数年のことですが、僕は会社員の立場のまま芸人デビューしてから6年間、こうした働き方を前から実践してきました。 
「二足のわらじは大変では?」とよく言われますが、実をいうと両立が難しいと感じたことはあまりないんです。
会社員としての仕事は、テラスカイというクラウドサービス企業の海外展開を統括する役割で、主に米国法人から届く日々の報告内容を検討して日本の開発チームにフィードバックし、日米の拠点を橋渡しする役割です。
米国とのやり取りはすべてオンラインなのに、日本のチームに対してだけそれができないはずがありません。毎日出社しなくても、パソコンと通信環境があればたいていの仕事はカバーできたんです。
一方で芸能界の仕事は、待ち時間や移動時間がとても多い。ロケバスや楽屋で1~2時間も待つことは珍しくないし、地方のロケやイベントも頻繁にあります。こうした時間を活用すれば、仕事をするチャンスなんていくらでもある。
米国時間に合わせた深夜のオンライン会議で睡眠時間を削られることはありましたが、それ以外で時間のやりくりに困った記憶はあまりないですね。
ちなみに、来日前に別の企業に勤めていたころ、働きながらコンピューターサイエンスの修士号を取得しました。講義も研究もすべてオンラインで、一度も大学院に足を運んだことがありません。
勉強にしろ仕事にしろ、物理的にその場にいるかどうかは成果とあまり関係しないことは、経験からもわかっていました。

「芸能活動は会社にもメリットがある」と社長を説得

ただ、こういう働き方を勤務先に認めてもらうには、少し工夫が必要でした。デビューする前は週5日、普通に出勤していたのを、いきなり「月曜だけの出社にしてほしい」と交渉するわけですから。
当時としては特別な働き方を認めてもらうため、会社側にもメリットがあることを強調することにしました。
僕が芸能界で活躍して有名になったら、会社の知名度が上がる。それによって営業活動がスムーズになったり、優秀な人材を採用しやすくなったりする可能性は十分ある。僕の知名度アップに協力するのは、会社の成長にもつながると説得したんです。
こうして週1回出社という形を認めてもらったのはいいけれど、はじめの数カ月はなかなか期待したような効果が上がらなくて、「やっぱりどうなの」という雰囲気になったこともありました。
それでも、少しずつ僕の知名度が上がっていったことで、徐々に効果も見えてきたんです。
「厚切りジェイソンが来るなら会ってみようか」という人も現れて、上場前のベンチャー企業にとっては雲の上のような存在である大企業のトップと商談が実現したり、初めてテレビ番組で社名を明かした日に会社のウェブサイトにアクセスが殺到し、サーバーがダウンしたりしたこともありました。
明らかな効果が見えてくると、会社もさらに柔軟な働き方を認めてくれるようになり、出社は月に1回程度まで減らすことができました。もともと副業規定もありませんでしたが、新たに「ジェイソン規定」が作られて、他の従業員も申請すればパラレルワークができるようになったんです。
芸能界か、IT企業か、どちらかの仕事に集中しなければいけないなんて、考えたこともありません。ビジネスマンであることがタレントとしての仕事の幅も広げているし、テラスカイにも知名度アップというメリットがある。
何より僕自身、ひとつの仕事をしているだけでは経験できない世界を見ることができて、人生の充実度が格段に上昇したと感じます。

シリコンバレーを目指したが、グーグルで不採用に

僕がお笑いの世界に入ったのは、日本語の勉強がてらお笑い番組を観ていて、「楽しそうだから、自分でもやってみたいな」と思ったのがきっかけです。週末に通える養成所があることを知り、ワタナベエンターテイメントの芸人養成スクールの門をたたきました。
芸能人として成功したいとか、職業にしたいとか、そんなことは一切考えていません。ただ「面白そう」というだけの理由です。
実は今でも、タレントの仕事が自分に向いているとはあまり思わないんですが、僕の発言で誰かが笑ってくれて、場の雰囲気が明るくなるのはシンプルに楽しいこと。出演のオファーを受けるのはうれしいし、機会がある限り期待に応えようとしてきました。
今、こうして自由な働き方を実現できているのは、20代のころに自分自身の成長と、活躍できる場を探すことを最優先してきたことが効いているのかなと思います。
学生時代、就職先として最初に狙ったのは、グーグルです。本採用を目指してまずはインターンを志望し、最終面接まで残りましたが、不採用に終わりました。当時からグーグルを目指して世界中の頭脳が集まってくるわけですから、そう簡単に採用はされません。
ひとつの専門分野だけを武器に、激しい競争下に入っていっても勝ち目は乏しいことを痛感しました。
だったら、コンピューターサイエンスの知見と、大学で学んでいた日本語を組み合わせれば、もっと有利に勝負できるのではないか、と考えたんです。そこで当時、旭化成が研究生を募集していたのを見つけて応募しました。
エントリーを終えてからも3日に1度のペースで新しいプロジェクトの企画を送ってアピールしたのが効いたのか、インターンとして1年間、日本でソフトウェア開発の仕事を経験させてもらいました。
大学卒業後は、日米の企業が提示する報酬額に差があり過ぎたこともあって米国企業に就職しましたが、日本語を生かすチャンスがありませんでした。そこで、日本法人の立ち上げを計画していた企業に転職し、再来日したんです。

シリコンバレーと東京、チャンスがあるのは?

おかげさまで今は、タレント兼ビジネスマンというユニークな立場で、刺激的な毎日を楽しみ、満足できる収入も得ています。でも、米国に帰れば珍しくもなんともない普通の人で、誰も僕のことなんて知りません。
仮にあのとき、グーグルに採用されていたとしても、きっとヒラのエンジニアで終わっていたでしょう。僕にとっては、日本でのチャレンジを選択したことが大きな価値につながっていて、グーグルに門前払いされたことは失敗ではなく、人生を豊かにする転機だったと思えます。
今は担当しているテラスカイの米国法人も軌道に乗ってきたので、ある程度現場に裁量を譲り、ベンチャーキャピタルの仕事に力を入れています。
様々な分野で最先端にいる若い起業家と接するのはとてもエキサイティングな経験で、未来を創る人たちの仲間に加えてもらっているようなワクワク感がありますね。
投資の対象としては、当社の本業であるクラウドコンピューティングソリューションを軸に考えていますが、それ以外の領域でも面白そうなところはどんどん探していきたいと思っています。投資先がいつか上場して、楽天のような大きな会社に成長してくれたらうれしいですね。
起業家やエンジニアの中にはシリコンバレーに憧れる人も多いでしょうが、別にそれだけがチャンスではありません。確かに、有望なスタートアップが集められる資金額をみれば、東京はシリコンバレーに1ケタは負けているという現実はあります。
ただ、数億円から10億円程度でスモールスタートするなら、むしろ東京のほうが投資を集めやすい環境にある。たとえシリコンバレーの1割しか資金を集められなくても、それが10回できれば結果は同じです。
それに、上場という観点でも、ナスダック市場より東証マザーズのほうがずっとハードルが低いので、早い段階で上場企業を名乗ることもできる。僕に言わせれば、日本はビジネスチャンスにあふれている国ですよ。

リスクは最小限にして、まずは行動してみよう

僕の働き方にモバイルツールは欠かせません。一番愛用しているのはASUSのタブレットで、ちょっとしたコミュニケーションはこれで済ませるのですが、書類を作る際や複雑な作業が必要なときにはノートPCが必要です。軽くて薄い「ASUS ExpertBook」なら、気軽に持ち歩けそうですね。
ASUS ExpertBook B9
講演会の予定が詰まっているときは、東京から沖縄に飛んで、その足で北海道に行くようなこともあり、1日の移動時間が8時間ぐらいになる日はザラにあります。
こうした移動時間をうまく使えば1日分の仕事ができちゃうんですが、それには長時間持つバッテリーが必須条件です。なるべく身軽でいたいので、電源アダプターを持ち歩かなくていいのはうれしいポイントです。
今、コロナウイルスの感染拡大で、ワークスタイルが世界的に見直されようとしています。
これまでも働き方改革の追い風を受けて、社内業務の効率化やテレワークを可能にする当社のクラウドソリューションの需要が高まっていましたが、この危機をきっかけに、より効率的で負担の少ない働き方を定着させたいですね。
そうすれば、新しいチャレンジを始める人や、パラレルワークで人生を豊かにできる人も増えるのではないでしょうか。
僕がアドバイスできるとしたら、まずは行動すること。ただし、最初からうまくいくとは思わないことです。おもしろそうと感じることにトライしていけば、そのうち向いている何かに出会えるかも、ぐらいの気持ちがちょうどいいんです。
そのためには過度なリスクを取らず、仕事を続けながら生活や収入を圧迫しない形で始めるのが重要です。もっと深くコミットしたいと思えたら、その時に改めてリソース配分を考え直したり、交渉をして少しずつ変えたりしていけばいい。
難しく考えずに、気軽にトライしましょう。失敗を恐れるあまり成功の条件が揃うのを待っていたら、そのまま寿命が来ちゃいますからね。
(構成:森田悦子 編集:奈良岡崇子 写真:大畑陽子 デザイン:堤香菜)