【独占】世界が希望を託す、「最速ワクチン企業」のすべて

2020/4/20

わずか42日で臨床試験

もはや、ワクチン開発までは収束はない──。
WHOの声明を待つまでもなく、新型コロナウイルスが収まるのは、ワクチンにかかっていることは、今や共通認識となってきた。ワクチンが完成する12〜18カ月までは何らかの隔離が必要との指摘は相次いでいる。
だが一体、誰がそのワクチンを作るのか。
目下のところ、世界でトップを走るのは、米ボストンに拠点を置くModerna(モデルナ)だ。
2010年に創業したこのバイオテックのスタートアップは、新型コロナの発生を受け、独自のワクチンの開発を開始し、設計からわずか42日で臨床試験に入った
モデルナの武器は、企業名の由来にもなった「mRNA(メッセンジャーRNA)」だ。
CEOが「生命のソフトウェアだ」と喧伝するmRNAを用いたワクチンは、従来のワクチンを圧倒的に上回るスピードで開発できることが一番の特徴だ。今は、数百万人分のワクチンを製造できるよう24時間365日体制を整えつつある。
そのポテンシャルは以前から注目されており、2018年はバイオテック企業として、史上最高額で上場を果たし、ビル・ゲイツもワクチンの最有力候補として財団を通じて出資している。
NewsPicksはこのたび、秘密多き企業として知られるModerna創業者のデリック・ロッシ氏に独占インタビューを敢行。その誕生から、新型コロナとの戦いのすべてを、他の関係者たちへの取材とともにお届けする。

実は「日本」が発端だった

──まず、モデルナ創業の経緯から教えてください。
あなたがモデルナの歴史について詳しいか分からないですが、実は、これは「日本」から始まったんです。
山中伸弥教授によるiPS細胞の素晴らしい発見がアイデアの発端になっています。2006年に、iPS細胞の論文が発表されたときにすぐに目を通して、ほかのすべての科学者と同様に、感銘を受けました。
山中氏は当初、「山中4因子」をレトロウイルスで運ぶことでiPS細胞を作製していました。ただ、これが実際の治療などに用いられるには、このウイルスを取り除かなければならなかった。
ここでも、今と同じように「ウイルス」がキーワードだったのです。
ちょうどその時期、私はハーバードのメディカルスクールで、自分のラボを持ち始めたところでした。そこで、レトロウイルスで運ぶ過程を、メッセンジャーRNA(mRNA)でショートカットしようとしたのです。とてもシンプルなコンセプトでした。
生物学で、実は、あなたが知っておくべき根源的なことは一つだけです。つまりDNAがRNAを作り、RNAがタンパク質を作り、タンパク質が生命を作るということです。
つまり、遺伝子がmRNAを作り、コードがmRNAに伝わる、そしてmRNAがそのコードを基にタンパク質、つまり生命のほとんどの部分を作るということです。
だから、DNAの部分を飛ばして、mRNAで、山中4因子を作ってしまえばいいと考えました。山中氏自身も、その4因子は、一度細胞を初期化してしまえば、その後は必要でないと指摘していましたから。
これは素晴らしいアイデアだと確信していたのですが、実は、最初の実験では、完全な失敗でした。
その理由は、またもや「ウイルス」でした。

mRNAをステルス化

mRNAを細胞に入れたときに、細胞がmRNAを見つけて、「感染ウイルスが来た」と判断し、強い抗ウイルス反応を示していたのです。タンパク質は作られず、最初の実験では、シャーレ上の細胞は全部死んでしまいました。
通常なら、そこで「ジ・エンド」ですが、我々は本気でした。
色々探っていくうちに、細胞がmRNAに対して示す抗ウイルス反応についてのいくつかの研究を見つけたのです。ペンシルバニア大学のカタリン・カリコらによる、修飾ヌクレオシドの研究がまさにそれでした。
これを用いれば、mRNAに修正を加えることで、細胞内に入れることができ、ウイルスとは認識されなくなるのです。mRNAをある種のステルスモードにできるのです。
そうなると、タンパク質も作れるかもしれない。とても興奮しました。そして、実際にこのテクノロジーで、iPS細胞を樹立できたのです。
しかし、実は、この過程を通じて確信したのは、mRNAというのは、DNAからのコードなので、異なるコードのmRNAを作れば、全然別のタンパク質も作れてしまうということでした。
とてつもなく簡単に素早く、何百ものタンパク質を作れるのです。

TIMEでトップ10に選ばれる

実際に、研究室で、いくつもの異なるタンパク質を作りました。本当に興奮の連続でしたね。
論文が出た瞬間から、驚くほどの反応がありました。
TIME誌で、その年のトップ10の発見に選ばれたほどです。たくさんの記事も出て、「山中教授のテクノロジーを大きく前に進める発見」として取り上げられました。
しかし、私自身は、この発見の核心は、iPS細胞を超え、この修飾RNA(前述の修正を施したRNA)にあると思っていました。発見のコアは、このRNAがいかなるタンパク質も作れることだったのです。
TIME誌に2年連続で重要な人物として取り上げられる。
人間の病気は、ほとんどがタンパク質の欠損など、タンパク質に関係しています。すべての遺伝子の病気は、基本的には、ここにたどり着くのです。
そこで私は、このmRNAを用いた会社を始めようと考えました。このmRNAを進めていくことで、患者を治療していく。この世に全く存在しなかったものです。
タンパク質の薬はたくさん存在しています。DNA治療も始まっています。いわゆる遺伝子治療ですね。遺伝子治療は、DNAの断片を患者に投入して、RNAを作らせて、それをもってタンパク質を作るわけです。
しかし、mRNA治療はなかった。

iPSの会社という考えはなかった

だから、すぐに資金調達に取り掛かりました。
最初に出資してくれたのは、ハーバードの同じ学部にいた、バイオテックの起業経験がある同僚でした。さらに、この分野における伝説の連続起業家であるMIT(マサチューセッツ工科大学)のロバート・ランガーを口説き落とし、参画してもらいました。
最後に、もうひとり医学博士号を持つケン・チエンも入ってもらい、さらにベンチャーキャピタルからの出資もこぎつけました。
そうして2010年に会社が立ち上がりました。
だけど、我々はiPS細胞の企業になろうと考えたことはありませんでした。細胞ベースの治療は、複雑なビジネスであり、科学的な課題も多かったのです。だから、モデルナでiPSの実験をしたことは一度もありません。
私が作りたかった会社は、治療に使えるタンパク質を生むmRNAを作る会社でした。治療用のタンパク質はおそらく5万種類ぐらいで、研究室ですでに5、60を作りました。
つまり、基本的には何でも作れたのです。
ただ、当時私が研究室で一度もやらなかったのが、ワクチンです。今や、ワクチンはモデルナが何年も取り組んでいるモダリティの一つです。
そもそも、我々が今こうやって会話しているのもワクチンがきっかけですよね。

すでに7つのワクチン候補

ワクチンをモデルナが始めたのは、6年前のことです。
モデルナの新型コロナウイルスのワクチン開発が素晴らしいのは、急きょ今回のワクチンに名乗りを上げたからではありません。モデルナは、すでに(感染症では)7つのワクチン候補を持っていて、1400人に臨床試験をしているのです。
ワクチンの仕組みは、簡単にいえば、患者にタンパク質の小さな断片を投入して、抗体反応を起こすものです。
ですが、mRNAワクチンの場合は、そのタンパク質を生み出すmRNAを投入します。これは我々のテクノロジーだからこそできることです。
これまでの7つの臨床試験では、mRNAを健康なボランティアに投入すると、ジカ熱やCMV(サイトメガロウイルス)のタンパク質に対して、免疫反応を誘発することができたのです。
これは7つの試験のうち7つともでできています。mRNAワクチンを導入すると、良い免疫反応を得られたということです。
だから、COVID-19(新型コロナウイルス)が拡大してきたとき、モデルナがそれに取り組むのは、ごく当然のことでした。従来のワクチンでは、免疫反応を誘発するために、タンパク質を投入しなければいけなかった。
このタンパク質を作るためには、とても長い時間がかかります。
しかし、mRNAを作るのに時間はかかりません。凄まじく早いテクノロジーなのです。
Covid-19のウイルス(SARS-COV-2)のゲノム配列を知ると、数週間で、モデルナは、mRNAワクチンの候補を開発しました。しかも、患者に投入できる臨床グレードのワクチンです。
それが、すぐに人間への臨床試験にこぎつけられた理由です。このテクノロジーは驚くほどに多能なのです。
一度、mRNAの配列を作ってしまえば、ほかのmRNAの配列を作るプロセスも基本的には同じです。(mRNAを構成する)ヌクレオチドの配列が異なるだけです。同じ製造の手順でできてしまうのです。
それが、モデルナが、これだけ早く臨床試験向けのワクチン候補を作れた秘訣です。

なぜワクチンだったのか

──なぜワクチンに参入したのですか。
私は、モデルナ起業後に、4つの企業を立ち上げたので、2014年にモデルナの科学諮問委員会からも抜けました。だから、その決断に関わったわけではありません。
モデルナの初期の発見は私の研究によるものですし、ビジョンも私が掲げたもので、今もその理念の下で運営されていますが、今は大株主の立場でしかありません。
ただ、起業時の私は、ワクチンというアプローチはあまり考えていませんでした。
そして、モデルナは2年前に、バイオテック企業として史上最大のIPO(株式公開)を果たし、メディアをにぎわせましたが、「なんでワクチンなんかやってるのか」という論調もありました。
おそらくその答えは、実際に達成できるゴールを設定するためです。つまり、高すぎないハードルを設定することでちゃんと乗り越えたいということですね。
もしハードルを高く設定しすぎると、最初の挑戦で失敗してしまうかもしれない。
低いハードルというのは、ワクチンだと、投与が1、2回で済んで、2週間後には血清陽性を確かめれば、安全性や効能のデータが得られるということです。逆に、実際に効能を得られるまで、1年間にわたって、毎週1回の投与を続けないといけないしたら、それはとてつもなく高いハードルです。
低めのハードルだったら、進捗が分かります。途中で学ぶこともできます。その後、ちょっとずつハードルを上げていくこともできます。
モデルナは多くの異なる治療薬を手掛けていますが、ワクチンはそういう意味では、比較的簡単です。臨床という意味では、低めのハードルなのです。
もうひとつは、ワクチンは大きな市場があるということです。ビジネス面から見ても大きなチャンスが待っていた。
つまり科学面でも経営面でも大変合理的な判断だったんじゃないでしょうか。

mRNAワクチンの弱点とは

──mRNAの難点は。細胞外では非常に不安定だと聞きます。
mRNAは高分子であり、確かに壊れやすい。
とはいえ、今はmRNAを安定化させるための修飾がなされています。そこは手をつけられているという認識です。もちろん課題の一つではありますが。
一番大きな課題は、やはりデリバリーです。
これは起業時から、問題になると分かっていたので、その専門家のボブ・ランガーに入ってもらったという経緯もあります。
大きなタンパク質を作るのであれば、大きなmRNAが必要になります。小さいタンパク質の場合は小さくていいですが、mRNA自体がとても、大きな高分子です。しかも、人間の体に入れるだけではなく、細胞の中に入れて、リボソームでタンパク質に変えていかなければならない。
一方、タンパク質の治療薬は、マーケットは大きいですが、基本的には、すべて細胞の外側で機能します。(免疫に必要な)抗体もタンパク質ですが、これも細胞の外側で機能するわけです。
細胞の中には入らない。それはタンパク質薬の一つの限界でもあるわけです。
しかし、mRNAは違います。
一度、細胞に入れてしまえば、細胞から出てくるタンパク質をエンコードできます。抗体も作れるわけですね。いずれにせよ、細胞に入れるのは挑戦の一つです。
ただ、細胞外のモノを細胞内に入れるような多くの発明が生まれています。電気穿孔法を使って、細胞に小さな穴をあけて、mRNAを入れることもできます。RNAi(RNA干渉)という技術も20年近く前に開発されています。
ワクチン開発が進むモデルナのラボ(写真:David L. Ryan/The Boston Globe via Getty Images)
モデルナは、そうした過去の蓄積のテクノロジーを使える状態にあったのです。
今主要なデリバリーシステムは、脂質ナノ粒子(LNP)と呼ばれるもので、RNAを包む小さなカプセルみたいなものです。患者に導入すると、細胞膜とコンタクトして、中身を細胞の中に移してくれるのです。
これは、mRNAを細胞に入れる手法としては、とても効果的と証明されています。
モデルナは、自社製のLNPを開発していて、mRNAなどに特化した独占的なフォーミュレーションを編み出しています。
いずれにせよ、多くの進歩がこの領域でなされていて、以前よりは困難度が大幅に減っています。

mRNAワクチン三国志

──新型コロナをめぐっては、ほかのmRNA企業もワクチンを開発しています。モデルナは何が異なるのでしょうか。
一番は、ワクチンにおいて、モデルナが持つ経験でしょう。
Covid-19のワクチンは、モデルナが初めて扱うワクチンではありません。8個目なので、すでにワクチンの製造において巨大な専門知識があるのです。
もう一つは、マサチューセッツの製造拠点に巨額の投資をつぎ込んでいることです。1万8500平方メートルの巨大施設ですので、臨床用のmRNAを長期間にわたって作れるキャパがあります。
実際、CureVacは、モデルナより先に創業していましたし、そもそもVacという名前がついているようにワクチンの企業なのですが、お金を調達するのはうまくなかった。
その点、Modernaはロケットのようです。これは私が起業したときからです。すでに何百人もの従業員を抱えて、何千億円も調達しています。
これは、正直役に立ちます。事業を前に進めるのに大変役に立つのです。製造施設を建設するためには、何百億もの金が必要ですよね。その代わりに、1カ月半で、臨床グレードのワクチンが用意できるのです。
だから、他社との違いは、投資とインフラ、そして今は専門知識だと言えます。
CureVacはこれをもっと前にできる位置にいたはずなんです。だけど、モデルナのようなロケットを持っていなかった。モデルナは僕が起業した瞬間から、文字通り背中にロケットを装着して、宇宙へと発射し続けていたわけです。

資金調達の天才の存在

──なぜ「ロケット」を抱えることができたのでしょうか。
まずは前提として、コンセプトが良かったし、ポテンシャルもありました。
ですが、集まった人々が何より重要でした。ビジョンを実現できる人物だったのです。
私が起業したボストンは、地球上で、一番のバイオテックの中心地です。どこよりも多くのバイオテック企業がある。山ほどの専門知識があるのです。IPの弁護士も、ベンチャーキャピタルもあれば、MITもハーバードもある。
あとは経営陣が、会社を強力に牽引しました。2010年に起業した後、2011年にステファン・バンセルをCEOに迎えました。彼は、フランスの臨床企業でbioMerieuxでCEOを務めていた実力者です。
モデルナCEOのステファン・バンセル(Photo by David L. Ryan/The Boston Globe via Getty Images)
彼は強力かつ素早く事業を進めていきました。
あと、彼は資金調達が天才的にうまいのです。我々が調達した資金は凄まじかったですし、より良い薬を早く進めるには、実際に巨額のお金が必要なのです。
20個以上もの臨床パイプラインを抱えるのは、普通の企業ではあり得ない数です。これを可能にするためには投資がやはり必要なのです。
モデルナが成功したことで、道を切り開いてきました。ライバルのBioNTechもCureVacも、それによって改めて注目が集まったという側面があります。

コロナ用のワクチンはできるのか

──未だに、mRNAワクチンで実用化されているものはありません。新型コロナのワクチンは、いつできますか。
科学者に聞いて、一番出てこないものの一つが「タイムライン」ですね(苦笑)。
ひとつ確実なのは、伝統的なワクチンのタイムラインで考えると、12〜18カ月で実用化というのは、とてつもなく早いということです。
ただ、モデルナは伝統的なワクチンとは違います。実際に、すでに患者に使えるグレードのものができており、臨床試験で患者に渡っています。
モデルナのワクチンのターゲットになるのは、スパイク(S)プロテインです。このタンパク質の一部を作るためのmRNAを体内に打ち込むというメカニズムを用いています。
モデルナは、今シアトルで第1フェーズの臨床試験をやっていますが、これが成功するかどうかが注目されています。
試験管の中における実験で、血清反応陽性(seropositivity)が出ていて(≒ワクチンによって抗体ができて)、さらにその抗体がウイルスを殺すことが示せていたら、モデルナはすでにより大規模な臨床試験ができるように製造を始めているはずです。
フェーズ1用に最初のバッチを出してからすぐに、すでに次の試験に向けて量産を開始しているはずです。
今のようにウイルスが世界を脅かす状態が続くようなら、秋頃までには、救急救命医や医者、看護師など、医療従事者がまずワクチンを接種できるようにするかもしれません。この目的は、ワクチンを接種することで抗体を作り、かからずに済むようにすることです。
そうしたことは、秋頃までに可能だと思います。
ただ、これは「将来予測に関する記述」に関わりますね(笑)。私はインサイダーではありませんが、ご存知の通りモデルナの株を多く持っているので、あまり将来予測に関することは言ってはいけません。
私は、(ワクチンの完成について)楽観的です。
とはいえ、これは科学の話なので、「絶対」はありません。ただ、これまでの予測というのは、完成までに長時間かかる伝統的ワクチンに基づいて作られています。
モデルナのやり方なら、とても短期間で、医療現場で使えるレベルの製品が作れるということが今回証明されました。
そのため、臨床試験によって、新型コロナを倒せる抗体ができるという証拠が見られれば、より大規模な試験へと進むと思います。商品化はまだだと思いますが、大規模な試験はもうすぐ行われるでしょう。
ただし、こればかりは「将来予測に関する記述」なので、なんともいえません。

創薬開発の怖いところ

──最初のiPSでの発見の時点から、mRNAがここまで注目されると思っていましたか。
このテクノロジーにポテンシャルがあることは分かっていました。
ただ、初期にModernaに集った人たちは、CEOのステファンも投資家も含め、すごく大きな企業になると信じていました。ポテンシャルはDay 1からありましたから。
だけど、卵が生まれる前に、鶏の数は数えてはいけません。
薬が怖いのは、正しい科学配合をわかっていて、マウスや細胞では、腫瘍を減らしたり縮めたりすることも分かっていたとしても、患者に投入したら、心臓に影響を与えるみたいなことが起こり得ることです。
しかし、我々は一発だけの薬を試しているのでは、ありません。
5つを打って、4つが失敗しても、1つが成功すればいい。もし一つがうまくいけば、ほかも成功するはずです。なぜなら同じmRNAテクノロジーをベースにしているから。
いつも考えるのは、患者さんに、良いインパクトを与えられる潜在性です。
会社がうまくいくことも嬉しいですが、きちんと患者さんの命にポジティブな影響を与えられたときだけが幸せです。私には娘が3人いますが、もし病気になったら、親がどんな気持ちになるのか、想像できます。自分の家族や愛する人の行方を、誰かが開発している何かに託さないといけないという気持ちが。
その点でも、いろんな家族の人に、潜在的にインパクトを与えられる何かを開始したと考えるのは、とても嬉しいことなんです。

CRISPRよりパワフル

──あなたは、遺伝子の革命的テクノロジーであるCRISPRの有力企業の創業にも携わり、上場させていますね。
新しい論文が出たら、全部読んで、いかに患者に役に立てられるのか考えるのです。だから2012年にCRISPR-Cas9の論文が出たときは興奮しましたよ。
これは、とてつもなくクールなテクノロジーで、この数年は誰もがCRISPRについて盛り上がってきましたよね。もはや話していない人の方が珍しいぐらい。
だけど、僕はみんなにこう言ってたんです。
「CRISPRはクールだけど、mRNAはもっとパワフルなんだよ」と。
CRISPRは、DNAを編集しないといけません。DNAは、RNAを作り、RNAがタンパク質を作ると言いましたよね。最初のDNAを触らないといけないんです。
今、ようやく人々は、(mRNAについて)覚醒しだしたんじゃないかと思います。
僕がCRISPRの企業を立ち上げたのは事実ですし、そのポテンシャルはすごいと思っていますが、今、mRNAはとてつもなくパワフルなのですよ。
(写真:ハーバード大学)
(取材:岡ゆづは、須田桃子、森川潤、デザイン:黒田早希、松嶋こよみ、写真:Harvard Stem Cell Institute)