【落合知也】メジャーにするには、東京でのメダルが絶対条件

2020/5/3
東京五輪から正式種目となった3人制バスケットボール「3x3(スリー・エックス・スリー)」。ストリートカルチャーから生まれたこの新たなスポーツを牽引するのが、Bリーグプレーヤーと3x3プレーヤーという二足の草鞋を履く落合知也だ。1年後に延期した東京五輪。2020年にピークを合わせてきたトップアスリートの本音に迫る。
※この取材は3月に行われたものです。

夢だった五輪が目標に変わった

──コロナウイルスの影響で東京五輪が1年後に延期されましたが、延期が決まるまではどんなお気持ちでしたか。
落合和也(以下、落合) やっぱり「どうなるんだろう」と不安やモヤモヤがありました。
 この夏に合わせて準備をしてきましたけど、コロナウイルスで世界中が大変なことになっていて、みなさんが健康第一でいなくちゃいけない中でスポーツをするのはどうしても難しいだろうと思っていました。
──コロナウイルスの影響が世界的に拡大していくなか、世界中のアスリートの方々が、自らの声を発信していました。当初はなかなか日本の選手の声が聞こえてきませんでした。
落合 そうですね。日本人って発言に気を遣いますよね。余計なことを言っちゃいけない空気がある。
 一方で海外だと言いたいこと、言うべきことを言える空気があります。メダリストの人たちも「こんな状態で(五輪を開催するのは)おかしい」ってすごく言ってましたし。このままだったら行かないよと発言した選手もいましたよね。
 日本人は思っていても言わないっていうのはあると思います。
──カナダの五輪委員会は今夏に開催された場合、選手団を派遣しないことを表明したりと、決断が早い印象がありました。
落合 だだ、開催国と開催国じゃないのとでは違うと思いますよ。もどかしい部分はありますけど、やっぱりやりたい気持ちもありますから。
──落合さんがプレーする3x3は、東京五輪からの新種目になります。アスリートの心情的には、そんな簡単にボイコットを表明することなんてできない。
落合 そうですね。新種目ですし、気合い十分でした。
 まだ代表に決まっていたわけではなかったんですけど、ここにすべてを捧げてきた気持ちだったので。
 延期に関しては、中止にならなくてよかったなと素直に思いますね。
──先日、為末大さんが、「第3機関を作ってそこでアスリートが自由に発言できるような場を作れたらいいな」とおっしゃっていました。
落合 ほとんどの選手がやりたいんじゃないですか。
 ファンのみなさんに自分がどう思っているかとか、元気にしている姿とか、1年後どうしたいかとか。伝えたいですけど、言葉を探しているというか。言葉を選んで発言しないといけないんですが、このような状況は世界的に初めてのことなので、正直とまどっています。
 これは僕だけじゃなくて、他の選手もそうだと思うんですけど。
──個人的にSNSでの発信はしていますか。
落合 インスタグラムとツイッターのふたつをメインでやっててファンとの交流を楽しむために使っています。
 自分が思ったことを伝えるツールとして使っていますが、今回に関してはなかなか難しい。
 基本的にポジティブな気持ちでいるんですけど、毎日状況が変わっていくじゃないですか。どれについて発言したらいいかわからないところもあって…。
──落合さんの場合、情報をシャットアウトして集中したいタイプですか、それとも情報は入れながらやりたいタイプですか。
落合 情報は入れながらやります。身の回りの方々や、自分さえも感染する可能性があるので。
 本当に危機的というか、重大な状況になってきたなと思います。
──コロナウイルスの影響が拡大しているなかでも、普段と変わりなくずっとトレーニングはできていますか。
落合 僕の場合、ウエイトトレーニングとかはできていますが、試合を全くできていません。
 3x3の「TOKYO DIME」と 5人制バスケットボールの越谷アルファーズの2チームで所属しているんですが、コロナの影響でBリーグの試合も3x3の大会も中止になりました。
──東京五輪までこれから1年、不安な時間が続くことが予想されます。
落合 1年後に収束しているかもわからないので難しいところですが、やることは変わらないと思っています。
 3x3という競技が誕生してからずっとやってきた身としては、五輪で正式な種目になったと発表されたその日から、明確な目標としてやってきました。この競技がまさか五輪の正式種目になるとは思わなかったですし、夢が目標に変わった喜びは今でも覚えています。
 その目標が1年先に伸ばされただけでなくなったわけではないので、今まで通り準備するだけだと思っています。

衝撃を受けた“違う”バスケ

──落合さんは高校、大学とバスケの強豪でプレーし、複数のプロチームからもオファーがあった。いわゆるエリートコースを歩んできたにもかかわらず、なぜ大学卒業と同時にバスケを辞めてしまったのでしょうか。
落合 なぜだか“バスケ熱”が冷めてしまったんです。
 どこかやらされている感覚があって、そもそも俺ってバスケが好きなのかって疑い始めて。そんな状態で、プロに行っても活躍できないだろうし、バスケの世界から離れて、違う世界も見ようという気持ちになった。
 その頃、姉の砂央里がモデルをやっていた影響もあって、モデルの仕事に挑戦してみたいと思いました。
──プロのオファーを蹴ってアルバイト生活とは大きな決断でしたね。
落合 鳴かず飛ばずの生活でした。モデルだけでは生計が立てられないので、いろんなバイトを掛け持ちして生活していました。
 そんなとき、知り合いの方に「お前、バスケを辞めるんだったら、ストリートでやってみないか?」って言われて、「UNDER DOG」というストリートのチームに入ったんです。これが3x3との出会いです。
──3x3を始めたときの印象は?
落合 ずっと大学まで第一線でやってきた自分にとって、ストリートバスケはチャラチャラした印象でした。正直遊び半分、草バスケの感覚で行ってみたら、全然イメージと違ったんです。
 今まで見たことないような世界で、そこにいる選手も無名なんですけど、スキルが高くてうまい。なにより意識がすごく高くて、みんなバスケがめちゃくちゃ好きなんです。
 それに、今まで僕が触れてきたバスケとは“違う角度”でバスケに向き合っている。
──違う角度?
落合 当たり前ですけど、ボールだって自分で用意しないといけないし、練習メニューも組まれていない。もちろんマネジャーが水を出してくれるわけでもない。仕事の合間を縫って、夜中や早朝にワークアウトや練習の時間を見つけてやっている。
 そんな姿を見てすごく感激したんです。与えられたものじゃなくて、自分で考えて行動している。バスケが好きだった自分を思い出したのもありますが、またバスケの面白さを違う角度から教えてもらったんです。
 「なんだこのバスケは!」って。衝撃でした。

世界と戦うために、ここまできた

──その後、モデルへの挑戦を辞めて、ストリートバスケに挑戦しながら、同時に5人制のバスケットボールの世界に戻りました。その背景を教えてください。
落合 しばらく2年くらいモデルを挑戦していたんですけど、やっぱりバスケで飯を食っていきたい、バスケにすべてを捧げられる環境に行きたいと思いました。
 25歳のときです。それからプロのストリート選手になることが目標になりました。でもなかなか難しくて、まずは5人制バスケのBリーグのトライアウトを受けたんです。
──トライアウトの結果は?
落合 いくつかオファーをもらえました。そして現在の所属チームの前身である「大塚商会アルファーズ(現・越谷アルファーズ)」に入団することになったんですが、そのとき、契約の条件として、3x3の活動も同時にやらせてほしいとお願いしたんです。
 練習を途中で抜けたりすることって許されないじゃないですか。怪我されたら元も子もないですし。
 そういったリスクがありながらも、当時、今と同じGM(ゼネラルマネジャー)が理解してくれました。彼の理解がなければ、僕のプロキャリアはスタートできなかった。もう感謝しかありません。
──なるほど。3x3プレーヤーとBリーグプレーヤーという二足の草鞋を履く生活を始めるにあたって、活動の軸足はどちらに置いていましたか。
落合 3x3です。最初から国内ランキング1位になれたのも、スタートダッシュを切ることに成功したから。その流れで国内の大会で優勝できたし、世界大会にも出ることができました。
 チームの理解とサポートを受けながらBリーグと両立させることができているから、スキルアップできている。その活動形態は今も変わりません。
──バスケ熱が冷めた人間も魅了された3x3の面白さはどこにあるのでしょうか。
落合 3x3の魅力は、いろんなエンターテインメントが詰まっているところ。
 ゲームは基本的に外でやるんですが、DJが音楽を流して、MCがトークであおって、お客さんが一緒になって盛り上げる。公式大会でも同じようなシチュエーションで行います。
 試合は攻守の切り替えがスピーディーで、とにかく止まらないのが特徴ですね。
 3x3はハーフコートでひとつのリングに向かってシュートを打ち合う競技ですが、3ポイントラインを超えたら攻守交代で、その攻防がスピーディー。
 なおかつ、シュートを打つまでの時間は12秒しかない(5人制の場合は24秒)。試合時間は10分の1ピリオドと短いので、波乱も起こりやすい競技なんです。
──そのほかに5人制との違いはありますか。
落合 5人制でいう3ポイントシュートが2点で、それ以外は1点。
 しかもノックアウト方式という3x3特有のルールがあって、21点以上取ると残り時間にかかわらずその時点で勝利が確定する。試合が7分で終わることもあるんです。
 あとはボールが5人制バスケのものより小さく溝が深いのも特徴ですね。グリップ力が高くて扱いやすいので、トリッキーなパスなどを出しやすい。
──なるほど。では3x3で求められる能力は?
落合 オールラウンドな能力ですね。1対1になる局面が多いので、攻守両面で高い能力が求められる。
 試合が始まったら、3人制の場合、5人制と違って監督とコーチがベンチにいて指示を出せない。テニスと同じで、監督とコーチは観客席にいるんです。そこで試合中に指示を出すと反則になる。
 だから、すべて自己判断なんです。タイムアウトを取るタイミングも選手たちの判断。10分間すべて自分たちで考えて行動する。戦術眼、判断力といった能力も大事になります。
──落合さんの武器とするものは何でしょうか。
落合 外角のシュート。そこは自信を持っていつも打っています。
──世界を戦ううえで、落合さんの高さ、195センチのアドバンテージはどう生かそうと思っていますか。
落合 195センチなんて世界ではザラにいるんです。日本でやるときと海外でやるときと、動きを変えたり、スタイルを変えて戦っています。
 海外を見ると、僕のサイズでも多彩な選手が多いので、強豪国に勝つためには、自分ももっといろんなことができるようにならないといけない。
 当たり負けしないパワーを身につけるためにも、2年ほど前からトレーナーをつけてプログラムを組んでいます。国内で勝つためではなく、すべてはオリンピックで勝つことを目標にしてやってきました。
 すべては東京でメダルを獲るためにやっています。

注目されるには、結果がすべて

──現在、3x3の世界ランキング1位のセルビアをはじめ、ヨーロッパでは球技スポーツが盛んです。サッカー元日本代表監督のイビチャ・オシムさん曰く、サッカー、ハンドボール、バスケットボールなど、指導者同士の“横の交流”が激しく、競技の垣根を超えたスカウト活動が頻繁に行われているそうですが、それについて、落合さんはどう思われますか。
落合 そこが、日本のカルチャーと違って海外の選手が伸びやすい理由だと思いますね。固定概念に捉われることなく、いろんなスポーツをやらせて、その選手に合った競技を見つけるのが、能力を伸ばすことにつながる。
 日本って、これって決めた一つしかできないし、他の競技って基本的に体育の授業でしかやらない。その体育文化を変えていかないと、日本の競技レベルも上がっていかないと思います。
 自分自身もいろいろなことをやっておけば、今に生きてたかなっていうのはあります。これはバスケットボールと3x3だけの問題じゃないと考えています。
 取り組むスポーツを制限しないことが、子どもたちの未来につながると個人的には思います。
──子どもたちの可能性が広がりますよね。ひとつの競技で一度辞めてしまったらダメなレッテルを貼られてしまうのは、あまりにも悲しい。
落合 それで“根性なし”みたいなイメージを持たれても、そういうことじゃないというのはありますよね。
 実際、NBA選手でも、アメフトかバスケの両方で奨学金を取れるような選手もたくさんいますし。
──そういった点で、向こうでは選手ファーストの文化が根づいている。自由にスポーツを選べる、誰でもスポーツを楽しめる環境があるのでしょう。
落合 シンプルにスポーツを楽しんでますよ、海外の選手は。
 1年間ずっとバスケをやっているんじゃなくて、冬はバスケ、夏はサッカーや野球をやるとか、そういう文化がある。そういった環境で、他にない器用な選手が生まれてくるんです。
──競技の垣根を越えるという点では、落合さんもバスケから3x3へと転向して成功したアスリートのひとりです。3x3に出会わなければ、アスリートとしてのキャリアは途絶えていたのでしょうか。
落合 そうですね。日本で3x3をここまでやってたから、同時にBリーグという日本のトップレベルのリーグでもプレーできている。高いレベルでふたつの競技をやれている選手はほかにはいなかった。僕のような選手がたくさん生まれてほしいと思いますね。
 3x3という競技がさらに注目されるためには、東京オリンピックで高いパフォーマンスを発揮することが求められると思っています。
 日本代表に選ばれることはマストですし、なおかつメダルを獲らないと、僕たちマイナー競技は注目されないと思うので、やっぱり結果がほしい。
──チャンスはありますか。
落合 本大会には8チームしか出られないのでベスト4に入る確率は高い。絶対にチャンスはあります。
 オリンピックでキャリアが終わるわけではないですが、まずは東京で結果を残してパリにつなげて、3x3というマイナー競技をメジャー競技にしたい。
 そうすれば、この競技で飯が食える選手がたくさんできると思うし、3x3のプロボーラーになりたいっていう子どもたちもたくさん増えると思います。
3x3をメジャーにする。使命感はすごく強いです。
Twitter:@UD_WORM91 Instagram:@ud_worm91
(執筆=聞き手:小須田泰二 編集:石名遥、日野空斗 撮影:鈴木大喜 デザイン:岩城ユリエ 写真:GettyImages)