GAFAが生まれたアメリカ、変われない日本。その明暗を分けたもの

2020/4/23
ビジネスにおけるプロフェッショナルをシェアする人材のシェアリングエコノミー、いわゆる「プロシェアリング」が急成長している。
「人材3.0」とも呼ぶべきこのスタイルは、経営のトランスフォーメーション(変革)を前進させるとともに、働くことに対する個人の価値観・ライフスタイルの変化にも寄り添う。
企業はどうすれば、新たな経験・知見をもたらす外部のプロ人材を活用できるのか。プロシェアリング事業を展開するサーキュレーション代表の久保田雅俊氏と、今の時代を予見するようにプロフェッショナルを世に送り出してきたデジタルハリウッド大学の杉山知之学長が対談。「人材3.0」の可能性を信じる二人が、人材活用の未来について意見を交わす。
能力が高い人ほど「雇用」ではなく「シェア」で働く時代
杉山 僕がデジタルハリウッドを設立したのは1994年です。その当時から「人材の流動性が高まり、能力のある人はフリーランスで働くのが当たり前になる」と確信していましたが、なかなか世の中がついてこない(笑)。
 アメリカではこの30年弱でGAFAが生まれた。日本だって、デジタルの力ですべてが変革されてよかったはずです。ところが、大企業から中小企業まで、多くの企業が昭和の時代と何も変わらないじゃないですか。
久保田 人材の流動性や雇用形態の変化スピードは、本当に遅れていると感じています。未だに、製造業が中心だった時代の「一日8時間労働」「終身雇用」を前提に人事戦略が設計されている。
 しかし近年、グローバルでは雇用形態が大きく変化し、日本でも働き方改革等をきっかけに、一気に加速する予感があります。残念ながら、働く個人側の強い意思に企業側が「対応する」というケースが多く、個人の志向の変化に企業側から新しい制度を「提示する」ケースはまだ一部ですが。
 杉山さんが以前から提唱されていたような、職能の高いハイレベルな人材=「プロ人材」が 新しい働き方を実践する流れが起きています。彼らを「企業に知をめぐらす存在」としてシェアすることで各社の課題解決につなげたいと思い、「プロシェアリング」をはじめました。
杉山 その考えに至ったのには、何かきっかけがあるんですか。
久保田 学生時代に地元で進学塾を経営していた父が突然倒れたんです。その後、障害が残った父の介護をしながら、父が人生を賭した会社の清算を経験しました。とても苦しい時期でした。
 そのとき、私たち家族に一番必要だったのは、変化に対応できるだけの知見だったのですが、父一人で保たれていた個人経営の塾にそんなものはありません。
 日本企業の99%が中小企業であり、その多くが同じような経験・知見不足という課題を抱えていることを知り、これは一企業の問題ではない、社会問題だと痛感しましたね。
杉山 中小企業、さらには日本経済が抱える課題を、若いうちに目の当たりにしたんですね。
久保田 経営に変革を起こせるプロ人材の不足は、日本企業の今後の課題とされていますが、中小企業や地方企業の状況は特に深刻です。
 多くの中小企業には大なり小なり「変化しなければならない」という自覚がありますが、最初の一歩が踏み出せない。新事業のアイデアはあっても、その領域の知見がないために進まない、というケースも多くあります。
杉山 そんなときに正社員で人材を探しても、新領域に対する深い知見を持つ人や、事業をスケールさせる戦略を描ける人は、簡単には応募してきてくれませんよね。
出典:中小企業庁
久保田 そうなんです。しかし、「雇用」でなく「シェア」であれば話は別です。「週4時間」などの条件で、プロ人材を活用することができる。
 経営者が「デジタルトランスフォーメーション(DX)」の必要性を感じても、今いる人材では「デジタルシフト」さえできていない。そんなギャップにも、プロシェアリングで対応するケースが増えています。人事、広報、財務等の強化に関連するプロジェクトも多いですね。
杉山 「雇用」だけでは解決できない課題を「シェア」で解決しようという考えには、僕も賛成です。「プロ人材」の知見が日本中に行き渡れば、規模の大小に関係なく多くの企業が助かるはずです。
久保田 地方創生が叫ばれていますが、Iターン、Uターンでいきなり「地方に完全に移住して生活しろ」と言われても、みんな行かないんですよ。
 でも、転居しなくてよいということであれば「ぜひ支援したい」と引き受けてくれるんです。プロ人材は社会課題への関心が高く、テレワークにも慣れていますから。
杉山 Web会議システムなどが発達し、問題なくコミュニケーションが取れますしね。
久保田 地方には、代々受け継いできた会社の今後の事業展開や経営体制に不安を抱える経営者も多くいらっしゃいます。プロシェアリングの活用促進を通じて、変革に踏み出そうとしている経営者の方々のお役に立ちたいと思っています。
かつて私自身が経験した悔しさを味わってほしくないですから。
「プロ人材」は大企業のイノベーションのきっかけになる
杉山 大企業ではどんな状況でしょうか。今や、優秀な人材は起業したり、スタートアップ に飛び込んだりする時代です。米国では既にGAFAや次世代ユニコーンに引き抜かれている。大企業とて、優秀な人材の確保に窮しているのではないかと思うのですが。
久保田 ご指摘のとおり、大企業でのプロ人材の活用も増えています。彼らは、ある業界の知見は豊富にあっても、それを種にしてイノベーションを起こすことが苦手です。そこで、経験豊富なプロ人材が加わり、新規事業を立上げる仕組みから設計するんです。
 すでに大手印刷会社や総合商社、グローバルな製造業などで新規事業を立ち上げた実績もあります。
杉山 あとは企業側が活用に踏み切れるかということですね。「チャレンジして失敗したくないから、何事もなくやり過ごそう」という事勿れ主義では難しいでしょうが、これは日本企業の雇用形態や報酬体系にも原因がありますね。
iStock.com/FangXiaNuo
久保田 何もしなくても年数を経れば給料が上がっていくのであれば、イノベーションが起きなくて当然です。
 さらに、ちょっとした決定も経営陣全員が集まって決めるのが日本。一方で、GAFAなど世界のトップカンパニーは、プロジェクトチームに与えられた権限の範疇であれば、即日で決めて走り出す勢いです。
杉山 もちろん既存の日本企業にも素晴らしい部分があるし、体制をガラッと全部変えるのは難しいでしょう。でも、変えるべきところはちゃんと変えて、テクノロジーの進化に置いていかれない体制に組み直す必要はありますね。
久保田 プロ人材が抜本的な改革を成し遂げた例もあります。200年続く飴屋さんのリブランディングを主導したり、大手飲料メーカーでAIを使った世界初の取り組みを試験運用に乗せたり。
杉山 課題解決を自分の喜びとする人に活躍の場が用意される。ある種、職人っぽい世界ですね。本当の職人って、自分のスキルが活きることが嬉しいから、「必要としてくれるなら、どこへでも行く」みたいなところがある。プロジェクトが終わったら去って、また次の現場に。
 ともすれば昔の宮大工のようなスタイルだけど、今後はそういう働き方、人材活用の仕組みが日本企業の成長を支えていくのでしょう。
権威より、無名でも最先端を走っているか
久保田 デジタル社会に対応するスキルを持った人材を輩出するために、ハイレベルな人材を講師に据えてきたという点で、デジタルハリウッドもプロ人材を活用してきた好例ですね。
杉山 ハイレベルな人材、つまりは「今、最先端の人」って、世の中的には無名なんですよ。うちの教員に、「一般人でも知っている看板教授」みたいな人が少ないのも、権威とされる有名人より、無名でも最先端を走っているか、同業者から評価されているかを重視しているからです。
 バンバン本を出して、テレビにも出て、しかも研究もバリバリやっているトップランナーなんて、落合陽一先生くらいですね。
久保田 研究者であり、大学教員、実業家であり、メディアアーティストであり。まだまだありますね。同感です。
杉山 IT産業に携わった世代が親になり、自分の子どもの進路を考えると、やはりデジタルの力を身に着けさせようということになる。そういう親にとっては、フリーランスとして、あるいはプロジェクト単位で働くのは当たり前なんですよ。
 だから、「デジタルハリウッドに入りたい」と子どもが言ったとき、拒否反応を示す保護者が減ってきたのを感じます(笑)
久保田 今は、やりがいや働く時間の自由度を求めてフリーランスを目指す人が増えていますが、少し前の日本では、「フリーランス」という肩書きは信用が得にくく、周りに反対されるキャリアでした。
 デジタルハリウッドは多くの優秀なフリーランスを輩出することで、少しずつその壁を壊してこられた。すばらしい社会貢献です。
出典:厚生労働省 2018年
杉山 そういえば「副業・兼業OK」という企業もここ数年でだいぶ増えた印象です。実はデジタルハリウッドでも、「副業を解禁していいんじゃない?」という話が出て、経営陣全員が賛成。すぐに制度ができました。
久保田 全員一致で賛成というのがやはりデジタルハリウッドさんですね。
 従来型の「雇用」だけでは、経営にインパクトのある業務に対応できない企業が多くあるので、「副業・兼業」や「シェア」は必須だと思っています。実際、サーキュレーションのサービス開始から6年で需要も増えました。
 今、「プロシェアリング」には約1万4000人の「プロ人材」に登録いただいていますが、プロをシンプルに定義すると、「今、世の中で起きている課題を解決できる人」です。
 自分の職能を活かして企業のプロジェクトに入り、課題を解決する。もちろん報酬は受け取りますが、重視するのはやりがいです。
杉山 うちの場合も、「今までと違うことに挑戦してみたい」とか「面白いことをやってみたい」というのが第一で、「収入を増やしたい」が第一にくる人はあまりいないようです。
久保田 プロフェッショナルほどそうなんですよね。
 残念ながら、外部人材を活用しようという企業は日本ではまだ多くありませんが、これまで、約2000社、6000件のプロジェクトを進めてきて、マーケットにはのびしろと手応えを感じています。
 やりがいをもって働いてくれるプロ人材と彼らの知見を必要とする企業の出会いを増やしていきたいですね。
「プロジェクトベースが当たり前」の日本を創る
杉山 ひとつ言えるのは、外部人材を「下請け」のように扱う企業は、プロジェクトベースで仕事をするのに向いていない。外部人材との付き合い方は「慣れ」の問題もあるので、これからだとは思いますが。
久保田 「教えていただく」と遜る必要はないけれど、ひとつのプロジェクトを「共創する」というフラットな関係を構築できるかがカギですよね。
杉山 「人材活用の決め手は掛け算」と言われますが、フラットな関係ができて、初めて掛け算が成り立ちます。プロフェッショナルは、たとえどんな輝かしい経歴であっても、その関係性を築くのが上手い。
久保田 そう思います。上か下かではなく、ミッションや役割に集中する。フラットな関係性の中で、成果の定義を明確化し、契約も発生する。これが、外部人材とのプロジェクトを成功させる、重要なポイントだと思います。
杉山 もうひとつ、既存の組織や制度を優先し、頑なに旧来のやり方を変えようとしないのも、うまく外部人材を活用できない企業に共通する課題です。
久保田 社員との相性や社風とのフィットはもちろん大切ですが、一番重要なのは課題を解決するというゴールを見失わないこと。その過程での変化を許容できないようでは、プロ人材と働くことでもたらされる「変革のチャンス」も逃してしまいます。
杉山 プロジェクトベースでプロが働くのが当たり前の日本を創るというのが、学校をはじめたときからの僕の想いです。僕はこれからも人材を育成していきます。久保田さんには「プロシェアリング」で、企業側の意識を変えていってもらいたい。
久保田 とても身が引き締まります。ありがとうございます。
 70年代に求人情報誌が生まれ、2000年代に職業紹介が大きく飛躍して、人材業界はこの50年で9兆円に成長しました。これは広告業界よりも大きい数字です。
iStock.com/kokouu
 そして2010年代後半、「人材2.0」、つまりSNSなどインターネット技術を活用した新しい採用手法やビジネスが生まれたものの、「雇用」という概念自体を変えるようなサービスはありませんでした。
 しかし今の日本は、もはやこれまでの延長線では対応できない、大きな変化に対して自分たちをどう変革させていくのかを考える段階にあります。その解決策の一つがプロシェアリングであり、「雇用」という概念に変革を起こす「人材3.0」の時代だと考えています。
 新しい人材活用のあり方を広めることで、個人の可能性を最大化し、日本企業の進化に貢献していきたいですね。
(執筆:唐仁原俊博 編集:大高志帆 撮影:小池彩子 デザイン:堤香菜)