「五輪の玉突き」で世界大会が決まらない。運営側の苦悩

2020/5/24

決まらない世界大会の日程

新型コロナウイルスによって東京五輪が1年延期されたことで、スポーツ界ではメジャーイベントの玉突き現象が起きている。
1年ずれ込んだ五輪と日程が重なってしまった主な大会には、次のふたつがある。
世界水泳選手権(福岡)と世界陸上選手権(米国オレゴン)だ。
前者は国際水泳連盟が日本水泳連盟や福岡市、スポンサーやテレビ局との協議を経て、大会の1年延期を決定。2022年5月13日から29日にかけ、従来通り福岡で開催することを発表した。
また世界陸上も日程の再調整を行ない、1年の延期を決定。
22年7月15日から24日にかけ、こちらもオレゴンで開催されることが決まった。
サッカー界でも、カレンダーに大きな動きがあった。
今夏開催される予定だったヨーロッパ選手権(ユーロ)と南米選手権(コパ・アメリカ)が1年延期となり、どちらも21年6月11日から7月11日まで開催される運びとなった。
これによって弾き飛ばされたのが、2021年6月17日から7月4日にかけて中国で開催予定となっていたFIFAクラブ・ワールドカップだ。
このクラブ・ワールドカップの開催には、次のような経緯がある。
21年といえば22年カタール・ワールドカップの前年に当たるが、従来ワールドカップ前年の6、7月は、代表チームの各大陸王者が一堂に会するコンフェデレーションズ・カップが開催されていた。
だがFIFA(国際サッカー連盟)はコンフェデを廃止。
2019年はリバプールが優勝。日本でも8度開催され、馴染み深い人も多いだろう。
代わって毎年12月に行なわれてきたクラブ・ワールドカップを、24チーム規模に拡大して、ワールドカップ・イヤーの前年に行なう決定を下した。これがユーロとコパ・アメリカの延期によって、開催困難となったのだ。
FIFAは日程を調整して、21、22年、もしくは23年後半のクラブ・ワールドカップ開催を示唆しているが、先行きは不透明だ。
というのも拡大版クラブ・ワールドカップには、かねてからヨーロッパ56連盟の232クラブが加盟する「ECA(ヨーロッパクラブ協会)」が反対。ボイコットをにおわせていたからだ。
ただでさえ密になっている世界のサッカーカレンダーは、新型コロナの影響によって、さらに調整が難しいものになった。
32試合制で行なわれる拡大版クラブ・ワールドカップ、その第1回大会は宙に浮いた格好だ。

これからは「具体的なこと言えない」

コロナ禍において、各競技団体は難しいかじ取りを迫られている。
安倍首相が39県での緊急事態宣言の解除を発表した5月14日、日本陸上競技連盟の風間明事務局長に陸上界の今後のスケジュールについてたずねたところ、開口一番、次のような答えが返ってきた。
「申し訳ないですが、正直なところ具体的なことは言えないんですよ」
無理もない。
緊急事態が一部で解除されたとはいえ、いまは「新しい生活様式」の確立が始まったばかりだからだ。日々の暮らしの見通しが経たない中で、競技団体がカレンダーを埋めていくことは容易ではない。
まったくの白紙状態の中で、日本陸連が力を入れているのが今秋の日本選手権の開催だ。
100年以上の歴史を誇る日本選手権は、日本陸上界最高峰の大会であり、五輪前年は多くの種目で代表選考が行なわれる。今年は大阪・長居で6月25日から28日にかけて開催される予定だったが、新型コロナによって延期が決まった。
風間氏によると、延期された第104回大会を今秋開催するというのが日本陸連の大きな目標になっているようだ。
「日本陸連としては9月、もしくは10月に第104回大会を開催し、五輪イヤーとなる来年6月あたりに第105回大会を開催したいと考えています。この場合、来年の第105回大会が代表選考にあたる重要な舞台となります」

課題は会場の確保、標準記録

ここで大きな課題となるのが、会場の確保だ。
「社会が動き出すと、スポーツに限らず多くのイベントが再開に向けて動き出すため、会場を確保することが難しくなります。現状、どこで開催できるかは、雲をつかむようなぼんやりとした話にしかなりません」
また会場さえ抑えれば、開催にゴーサインが出せるというわけではない。新型コロナウイルスの今後の推移が、まったく読めないからだ。
「私たちが開催を希望する秋に、コロナが収束している保証はありません。ですから仮に日にちと会場を決めても、“中止・延期もありうる”という但し書きをつけなければなりません。開催か中止かの決定、または開催方法についても、政府の勧告、自治体の指導にしたがう必要があります」
開催にあたっては、3密防止策や中長距離種目における飛沫対策など、クリアすべき課題が山積しているという。
自粛生活が長引き、従来のトレーニングができない日々が今後も続くことになれば、アスリートの記録が伸び悩むことも十分に考えられる。
日本陸連は日本選手権に参加標準記録を設けているが、この記録を維持するか、コロナ禍を考慮して変更するかについても「深い議論が必要になるかもしれない」と風間氏は語る。
新型コロナは未知のウイルス。
人類が新しい生活様式の確立を迫られているように、陸上界、そしてすべてのスポーツ団体もまた、新たな大会の構築を求められている。
最後に、風間氏はいまできることとして次のように語った。
「緊急事態宣言の一部解除が決まったいま、私たちにできることは、各都道府県や自治体の協会から詳細な情報を収集して現状を分析して、日本陸連としての方針を固めていくこと。現状、具体的なことを言えないのが心苦しいですが、全国のアスリートたちとの一体感を維持しながら、この難局を乗り越えたいと考えています」
(執筆:熊崎敬、編集:小須田泰二、デザイン:黒田早希)