中川泉

[東京 7日 ロイター] - 安倍晋三首相が7日に発令した緊急事態宣言は、すでに悪化している経済をさらに5兆円程度下押ししそうだ。同じ日に閣議決定された緊急経済対策は首相の決断で財政支出40兆円程度と過去に例を見ない大型対策となったが、昨年秋以降の景気悪化に続き、4─6月期のGDPは2桁のマイナスも予想され、経済の落ち込みをどこまで下支えできるか不透明だ。

<GDP喪失分を取り戻せるか>

緊急事態宣言の対象は東京都など7都府県。その経済規模は国内総生産(GDP)のおよそ半分を占める。

欧州でのロックダウン(都市封鎖)のように経済活動を強制的に停止するわけではないため、強烈な経済萎縮には至らないものの、レジャーやサービスを中心に個人消費が一段と落ち込むのは避けられない。企業も設備投資の先送りか、停止を余儀なくされることは必至だ。

ニッセイ基礎研究所矢島康次チーフエコノミストは「1カ月間の実施を想定すれば、GDPは約5.7兆円、年間1.04%程度減少する計算となる」とみている。

大和証券チーフマーケットエコノミストの岩下真理氏も、同様に約5兆円程度のGDP押し下げを見込み、4-6月期の個人消費は前期比2─3%程度の落ち込みとなると予想している。

すでに昨年の消費増税により10─12月期に8兆円の需要不足が発生しており、今年1─3月以降はコロナウイルスによる世界経済の減速や国内自粛による需要の蒸発で、需要不足はそれ以上に拡大するとみられている。

JPモルガン証券チーフエコノミストの鵜飼博史氏は4─6月に年率17%のGDP減少を予測している。

こうした状況で経済を元の軌道に戻すには、それに匹敵する対策で穴埋めする必要がある。今回の経済対策規模はかつてない規模で、数字上は穴埋めも可能なように見える。

農林中央金庫の南武志・主席研究員「規模を見れば、諸外国に引けを取らない規模となった」とするが、「感染拡大はまだ序の口だとすれば楽観視すべきでない」と指摘する。

<下期回復シナリオ不透明に>

感染終息時期が見えないどころか、これから爆発的感染が始まる可能性もある中、日本経済は年後半の持ち直しすら危うくなっている

リーマンショック時を振り返れば、回復が容易ではないことが思い出される。当時の対策は国費15.4兆円程度、事業費56.8兆円程度。内閣府が当時試算した結果は09年度のGDPを2%程度押し上げ、雇用を40─50万人分創出するというものだった。

しかしGDPは08年4─6月期から4四半期連続でマイナス成長、経済対策の効果もあり、ようやく09年4-6月期からプラスに転じた。

今回の景気悪化の深さは、すでに発表されているマインド面からみればリーマンショック時を上回る面もある。3月ロイター短観の非製造業の落ち込み幅は過去最大となっている。

このため、今回はリーマンショック時の2倍程度にのぼる財政支出規模でも、それで十分という声は聞こえてこない。

JPモルガンの鵜飼氏は、当面企業や家計の所得が下押しされ、業種や企業によっては、資金繰りがさらに厳しくなるとみる。新たな経済対策も、経済の大きなピクチャーを変えるまでのインパクトは持たず、「下期の回復も緩やかなものに止まり、新型ウィルスが下期には封じ込められていると想定しても、元々想定していた生産水準には戻れない」と指摘する。

(編集:石田仁志)