【秘伝】プロ経営者・藤森義明が見たジャック・ウェルチ経営の神髄

2020/4/11
伝説の経営者、ジャック・ウェルチが先月、この世を去った。
アメリカの電機メーカーの雄、ゼネラル・エレクトリック(GE)の経営トップとして、約20年にわたる在任期間中、売上高を約5倍、営業利益を約10倍に引き上げた。CEO在任中、株価が約30倍になった話はつとに有名だ。
もっとも、ウェルチは冷徹なリストラを敢行し、株価至上主義経営という後遺症も残し、評価には毀誉褒貶(きよほうへん)がある。
GE自身も今、経営不振にあえいでいる。
とはいえ、彼は「危機を通じて企業は強くなる」と喝破し、実際に企業変革を通じてそれを実現してきた。コロナ経済危機を迎えた今、その姿勢に学べる点は、今も多いのではないか。
そこで、GE本体の上級副社長という経営の中枢を担い、ウェルチの薫陶を直接受けた藤森義明氏をインタビュー。危機を乗り越えるリーダーシップのあり方について聞いた。

バンカー精神では生き残れない

──藤森さんは、これまでどんな危機を乗り越えてきましたか。
僕がGEで最初にオフィサー(執行役員)になった1998年、アジア通貨危機が起きました。当時の僕は、医療機器事業のアジア地域トップ。GEの幹部になって最初の大きな危機でした。
当初、アジア通貨危機によって経済環境がどのくらい悪くなるかなんて、分かりません。最悪のシナリオを想定し、それをベースにしてコスト削減と人員整理をやらざるを得ませんでした。
結果として、僕が医療機器事業のアジア地域トップだった3年間で、利益は4倍になりました。危機が起きたときには、「一番悪いシナリオ」を想定して手を打てるか。それが重要です。
──今回のコロナ危機でも、すぐにビジネスが正常化すると期待してその場しのぎで済ませた企業と、影響が長引くと覚悟して初期に手を打ってきた企業とで、明暗が分かれそうです。
アメリカには「バンカーメンタリティ(bunker mentality)」という言葉があります。
バンカーというのは、戦争時の塹壕という意味です。戦闘中、兵士はよく弾が飛んでくるのが怖くて、塹壕に隠れてじっとしていたがります。このような「しばらく穴の中で待っていれば、いずれ弾は飛んでこなくなるだろう」という発想が、バンカーメンタリティです。
でも、そういう人は絶対に生き延びられません。実は、勇気を出して外に出て、動き続けるほうが、被弾するリスクを少なくすることができるのです。
危機もこれと同じです。常に動き続ける、最悪の事態を考えて、すぐに思い切った手を打つなどしない限り、乗り越えられません。

ウェルチは「再現性」を評価した

──ウェルチのどのような姿勢に影響を受けましたか?