【注目】リモートで変わるカラダ、注意すべき3つの兆候

2020/4/21
リモートワークが推奨されている。「自由な働き方を手に入れる一方で運動不足になりがちだ」と言うのはDeNA CHO(Chief Health Officer)室室長代理平井孝幸氏。
本特集では、運動不足を解消し仕事を効率化する家でできるトレーニング(リモトレ)を、アスリートたちがSNSなどであげたものから紹介していく。#1の今回は「リモートワークで陥りやすい健康の留意ポイント」を聞いた。

変わる働き方、変わる健康状態

ここ数年、ライフスタイルに合わせた働き方の一つとして注目されていたテレワーク、リモートワークが、新型コロナウイルスの感染拡大という未曾有の危機によって一気に浸透した。
場所に囚われないこのワークスタイルは、より普及していくだろう。
ただ、今回の「自粛」を機にリモートワークを始めたビジネスマンには健康上の注意も必要だ。
健康経営を推進するDeNA CHO(Chief Health Officer)室室長代理平井孝幸氏は言う。
「これまで長い間、多くのビジネスマンが定時に出社し、定時に帰るという生活を繰り返していました。自由度は低かったかもしれないですが、健康状態を良好に維持する上で重要な“規則正しい生活”が手に入れられていたという利点もありました。
リモートワークにすると例えば、朝起きる時間がいつもより遅くなったという声も聞かれます。こうしたことに代表される生活リズムの変化は注意すべきです。
特に運動不足は顕著になると考えられますから、それに対応した運動は意識的に取り入れるべきでしょう」

運動不足からくる3つの兆候

一般的には9時出社、17時ごろに退勤という会社が多いという。
総務省統計局の調査によると、都内在住のビジネスマンの平均通勤時間は43.8分。
9時に出社するとすれば、起きるのは7時前後で8時ごろに家を出るのが平均的な日常だ。出社後、仕事をして、12時ごろに昼食。午後また働き、残業をして19時に帰り、食事、睡眠と1日を終える。
「今までの働き方とリモートワークでもっとも変化するのは運動量です。単純に運動不足になる。あまり意識していないと思いますが、出勤をしていたビジネスマンは、通勤や社内でのちょっとした移動などで、ある種、強制的に体を動かしていました。在宅だと、それがなくなり、ほとんどゼロになる人もいます」
実際、郊外に住むあるビジネスマンは、リモートワークになってから自室に閉じこもるようになった、と話す。それまで通勤に約1時間をかけていたが、リモートワークを初めた3日目には「体がなまった感覚がある」とこぼした。
こうした「運動不足」を起点に、健康状態に影響しかねない要素が以下の3つだ。
・食生活の変化 ・睡眠サイクルの変化 ・メンタル上の変化
「まず、(運動量が減るので)普段より食欲が湧きづらくなります。すると、朝昼晩3食の時間が変わり、間食が増える、変なタイミングでおやつを食べたり、夜食でカップラーメンを食べたりする人までも出てくる。家は間食しやすい環境ですしね(笑)」(平井氏)
リモートをはじめて「体重が増えた」とは、多くの人が実感しているところだろう。Twitter上で「コロナ太り」などのワードも増えている。
「次に、睡眠時間です。(体をあまり使っていないので)疲れづらくなりなかなか寝付けなくなる。ベッドには入っているんだけど寝られないという状態が続く人もいます。さらに睡眠が浅くなる傾向がある。
これに加えて、リモートワークでは通勤の時間がなくなりますから出社時間が厳密に守りづらくなり、結果として、朝起きる時間がどんどん遅くなっていくという悪循環が生まれます」(平井氏)
睡眠不足はそのままメンタルへ影響を及ぼす可能性がある。
「睡眠とメンタルは密接に関わっていることは科学的に証明されています。寝不足に陥り、知らないうちにストレスが溜まっていくのも一つの特徴となるでしょう。
もちろん朝ちゃんと起きて、適度に運動ができて、とそれまでと同じ生活ができる人は心配いりません。ただ、これまでたくさんのビジネスマンと健康について対話していて感じるのは、それができる人は全体の5%もいないだろうということです」
運動不足だけでなく、リモートワークによって変わることは意外と多い。
「なかなか気づかないと思いますが、オフィスと家ではさまざまな環境が違います。例えば椅子です。普段はオフィスチェアに座っているけれど、家の場合はそれがない人も多い。リビングチェアだったり、床に直接座ったりを長時間続ければ、姿勢が悪くなるなど確実に体の状態は変わります」(平井氏)
他にも、空調や、テレビなど仕事に集中しづらい環境であることも多い。
「意外と見逃せないのは、チームの一体感といった精神的な部分でのつながりです。雑談の中からいいアイデアが生まれる、とはよく言われることですが、同じ場所にいないとそれはなかなか表現できない」
リモートワークをしながら「現状でできる対策」には、どんなものがあるのだろうか。
「少なくとも起きる時間は統一する。寝る時間を決めようとするとコントロールできないことも多く、逆にストレスになる可能性があります。あとは、“これまで通りの時間に、お腹が減る”ようにしたい。そのために適度な運動を取り入れることがもっとも大事です」

一日を3回に分けて「体の時間」を

では、適度な運動とはどのように、どういったタイミングで行うべきか。
不要不急の外出の自粛を求める地域においては、ジムに行くことはもちろん、ランニングなども困難だ。
平井氏に1日のおおよそのイメージを作ってもらったのが以下の図である。
朝、午後の仕事の合間そして夜。短くても三回程度の「運動タイム」を作ることが理想だ。
それぞれポイントは以下になる。
朝は、出勤するタイミングと同じ時間を目安に活動をはじめる。通勤の運動量を目安に体を動かし、規則正しい生活サイクルのスタートにしたい。
今回(リモトレ特集#2)は、Jリーグ・東京ヴェルディの紹介するストレッチ、ミネソタ・ツインズに所属する前田健太投手の肩甲骨トレーニングそしてリーガ2部ウエスカでプレーする岡崎慎司選手のサーキットトレーニングを紹介しているが、いずれも短い時間でしっかりと体を起こすことができるものだ。
午後の時間はメインの運動タイムにしたい。30分程度じっくり取り組めるのが理想だ。食後ではなく、14時から15時あたりをスタート時間として、下半身を中心に負荷をかける。
本特集(#3)ではその点に留意し、日本人で初めて10秒の壁を破った桐生祥秀選手と、女子ホッケー日本代表の及川栞選手が行うトレーニングを紹介。室内で大きな動きができなくても、しっかりと汗をかける。
夜はストレッチと呼吸法が中心。年齢とともに体はかたくなっていく。このリモート期間で柔軟性を手に入れ、体のメンテナスの時間にもしたい。注意点は、睡眠時間の2時間前には済ませておくことだ。
千葉ロッテマリーンズの佐々木朗希投手や元プロ野球選手の森本稀哲氏、そして競泳の萩原智子氏が実践するストレッチとトレーニングを紹介する(リモトレ特集#4)。

運動を特別なものと捉え過ぎず隙間時間で

今回の企画では、三回の運動タイムを作っているが、なかなか時間は取れない人もいるだろう。
そんな人は、例えば、昼の運動タイムに集中して取り組むだけでも、運動不足解消の一助になる。
「運動といっても、何も特別な器具を使ったり、腕立てをしたりと汗をかくようなガッツリとしたものである必要はありません。
散歩を早歩きにするとか、歩き方を骨盤を中心に動かしていくなど小さな工夫で十分です。また、アイソメトリックスもおすすめです」
アイソメトリックスとは、関節を動かさず、呼吸をしながら10秒程度、鍛えたい部分に力をいれるトレーニングだ。例えば、両手を胸の前で合わせて、押し合うものなどがある。
「時間がなければ、例えばトイレに行ったときだけ、両手を広げて壁を押す。これだけでもいい運動になります。
無理をして何かトレーニングをしようとすると、どうしても長続きしなかったり嫌気がさしたりします。歩き方もそうですが、楽しく日常生活の中で筋力に負荷をかけるといったことができるといいと思います」
次回以降、1日の3度の運動タイムに適切な、アスリートが実践するオススメのトレーニングを紹介していく。
(執筆・編集:黒田俊、石名遥、デザイン:堤香菜、写真:GettyImages)