【解説】日本で気をつけるべき6つの感染症

2020/5/23
はじめて感染者が確認された1月末から5月20日まで約4カ月間の新型コロナウイルスによる死者は日本国内で784人(クルーズ船のぞく)。ざっくりですが1日平均6.5人。多くは高齢の方です。
では、毎日平均8人の女性が死亡している感染症はこわくないですか。
毎日平均2人の子どもを不治の難聴にしている感染症はこわくないですか。
毎年約30人の子どもを死亡させている感染症はこわくないですか。
これらは全て、実在の感染症、日本の現状です。これらの感染症も新型コロナに劣らないほど我々にとって脅威なのです。
新型コロナウイルスは日本では収束傾向にあるとはいえ、ワクチンが開発されるまでは、まだ『新しい生活様式』を続けなければなりません。世界中が新型コロナウイルスに対するワクチンを待ち望んでいます。
新型コロナをきっかけに、感染症の恐ろしさと特徴を理解したという人も少なくないでしょう。
実は、さきほど紹介した新型コロナ以外の感染症には、予防できるワクチンがすでにあります。ほかにも、子どもの頃にほとんどの人が受けている予防接種によって、結核やポリオ、日本脳炎など多くの病気から守られています。
ところが、新型コロナウイルスの感染を恐れるあまりの受診控えのせいか、予防接種の接種率が低下してきており、ワクチンで予防できる病気(VPD: vaccine preventable diseases)にかかる子が増えてしまわないかと危惧されています。
こわいのは、新型コロナだけではありません。世界中には、たくさんの感染症が今も猛威を振るい、日本でも注意喚起がなされているものがあります。
今だからこそ知ってもらいたい、ワクチンで予防できる感染症についてまとめました。
・かかると重篤な合併症をきたしうる
・でもワクチンで予防できる
という観点から、6つの感染症を取り上げます。
1.風疹
今、世界的に新型コロナの話題で持ちきりですが、実は日本で注意喚起がなされている感染症はそれだけではありません。
実は、アメリカ疾病管理予防センター(CDC)は、2018年10月から、風疹流行国として日本への渡航注意喚起を出しています。
「風疹」とは、風疹ウイルス(Rubella virus)が原因の感染症で、飛沫感染(くしゃみ・咳など)や接触感染によって感染し、感染力はインフルエンザの2-3倍と言われます。
風疹には治療薬はなく対症療法のみで、合併症がなければ1週間程度で自然治癒します。
特徴的な症状は、発熱や発疹、リンパ節腫脹です。発疹は、色素沈着を起こさず痕を残すことはほとんどありません。
成人の方が、症状が強かったり長引くなど、子どもよりも重症化する傾向があります。
風疹による合併症としてこわいのが、血小板減少性紫斑病(1/3,000~5,000)、急性脳炎(1/4,000~6,000)です。
ただし、この2つを引き起こさなかったからといって、安心できるわけではありません。
妊娠初期に感染すると、胎児が先天性風疹症候群(CRS:先天性の難聴、白内障、心疾患、精神運動発達遅滞など)を発症するリスクがあるからです。
Photo:iStock/damircudic
できる対策は、予防接種による予防です。現在は、MRワクチン(麻疹・風疹ワクチン)を1歳と小学校入学前の2回接種することが定期予防接種として決められています。
この予防をきちんとしておかずに、妊娠初期~20週頃までの女性が風疹に感染すると、胎児がCRSとなってしまう可能性があります。
妊娠中に風疹に感染した場合にCRSとなる確率は、調査によって25-90%と差がありますが、特に妊娠12週までの初期でそのリスクが高いといわれています。
2012~2013年にかけての風疹の流行によって、CRSの子は全国で45人、うち11人(24%)が心疾患などのために生後1年余りで死亡しています。
妊娠を希望している女性自身がワクチン接種で免疫をつけておくことも大事ですが、思いがけず妊娠することも多々あるので、社会全体で風疹を予防し流行させないことが大切です。
自治体によっては、妊娠を希望している女性やその同居人に対して、風疹抗体の検査やワクチン接種の助成を行っているところもあります。
ただし、風疹ワクチン、MRワクチンは生ワクチンのため、接種後3カ月は妊活を控える必要があります。
また、妊娠中は風疹の予防接種を受けることはできないため、周囲の方がかからないように気をつけましょう。
患者の9割が30〜50代男性
WHOは2020年までの風疹の排除達成を目標に掲げ、世界の風疹発生率は年々減少しています。
しかし、2018年にはアジア・アフリカを中心に世界で1万3000人の感染例の報告があり、成人男性が海外で感染して帰国後日本で発症する「輸入例」もみられます。
日本では、世界の他の先進国ほど、発生率が減少していないのが現状です。なぜでしょうか。
それは男性の風疹の予防接種が開始された時期によるものです。
定期予防接種として男性が風疹の予防接種を受けるようになったのは、1979年度以降生まれの方から。
一方で女性は、CRSの予防のために、1962~1978年度生まれの方は1回接種(中学校で集団接種)を受けていました。
その後、風疹の流行抑制のために男女ともに接種することになったのですが、1979年度~1987年9月生まれまでの方は、学校での集団接種ではなく、中学生の時に個別接種1回(親と病院を受診して接種)でした。そのため、接種率は激減しました。
2000年度以降の方から、定期接種としてMRワクチン(麻疹・風疹混合)を幼児期に2回接種するようになり、接種率も高く保たれています。
こういった経緯があり、大人の風疹患者の約9割が30-50代の男性です。
日本では2015年以降、風疹報告数が減少傾向でしたが、2018年後半から増加し、CDCが同年10月に渡航注意喚起を出しています。
日本へ行く前に予防接種を受けましょう、風疹の免疫のない妊娠女性は日本へ行かないように、という内容です。
クーポン送付されるも低い利用率
もちろん、日本も対策をしています。
2020年までの風疹制圧を目指し、厚労省は「風疹の追加的対策」として、2019年度に、1972年4月2日〜79年4月1日生まれの男性に対して、無料でクーポンを送付しました。
内容は以下の通りです。
・風疹の抗体検査を受けられる
・抗体がなければ予防接種を受けられる
さらに、シティーハンターやラグビー日本代表を起用したポスターなどを作成して、啓発に取り組んでいます。
しかし、クーポンが夏までに利用されたのはたったの9%。
7月までのデータですが、受診券が配布されたのは約605万人(93.6%)で、そのうち、実際に検査を受けたのは約54万人(9.0%)。予防接種を受けたのは約10万人(1.6%)でした。
自治体独自の助成や、企業の補助で受けている人もいるため、実際はこの数字よりも多くの人が予防接種を受けているとは思われますが、それでも風疹の話をすると、とても認知度が低いことに毎度、驚かされます。
1972年4月2日〜79年4月1日生まれの男性は、昨年度すでにクーポンが届いているはずなので、ご確認下さい。
クーポンが見当たらない場合は、自治体に問い合わせてみましょう。クーポンは今年度も利用できますので、お時間ある時にぜひ検査へ行ってみてください。
また、1962年4月2日〜72年4月1日生まれの男性は、2020年4月以降順次クーポンが届くはずなので、ぜひご利用下さい。クーポンが届く前でも、自治体に連絡をすれば対応可能とのことです。
1999年度生まれまでの方は、接種していても1回だけの可能性もあり、自分やパートナーが妊娠を考えている場合は抗体価を検査することをおすすめします。
妊娠を希望している女性とそのパートナーも、自治体が独自に助成をしているところもあるので、ぜひ調べてみて下さい。
自治体によって、妊娠希望の女性だけが対象だったり、その同居の方も対象だったり、対応は異なります。
最後に、妊娠中に、風疹の抗体価が低いと指摘された方。妊娠中に風疹の予防接種を受けることはできませんが、産後はいつでも、授乳中でも接種可能です。産後、忘れないうちに予防接種を受けておきましょう。
2.はしか(麻疹)
麻疹ウイルスによる感染症で、空気感染し、感染力がとても強く、インフルエンザの10倍以上とされています。
1990年度以降、子どもの時にワクチンを2回、定期接種で受けるようになってからは、大人が流行の中心となりました。2019年は、例年になく流行しています。(※2)
1989年度生まれまでの人は、ワクチンを打っていないか、打っていても1回だけという人もいるため、麻疹に感染するリスクがあります。
麻疹は1週間以上続く高熱の症状もツラいものですが、合併症も恐れる必要があります。
約30%の確率で肺炎や気管支炎、脳炎などをきたし、中には亡くなってしまうこともあります。
また、はしかにかかってから数年後に、けいれんと知能障害がおこる「亜急性硬化性全脳炎(SSPE)」を発症することもあります。数万人に1人の頻度ではありますが、難病指定されており治療法はありません。
妊婦さんも要注意で、妊娠中は重症化しやすく、約30%で流早産となってしまいます。
はしかは昔、「命定め」と言われていました。かかると、生きるか死ぬかわからない、という意味です。
医学が進歩した今でも、かかってしまうと根本的な治療法はなく、今でも「命定め」であることに変わりはありません。だからこそ、予防が大切です。
まずはワクチンでの予防を徹底しましょう。「自分だけは重症化しない」という保証は全くありません。
30歳以上の方、若い方でもワクチン接種していない方は、前述の風疹ワクチンとの混合であるMRワクチンの接種がおすすめです。
妊娠中には接種できないので、妊娠を考えている方は、風疹とあわせて前もってワクチンを受けておきましょう。周りの方も同様です。
また、麻疹ウイルスは非常に感染力が強いので、もし自分がかかってしまったら、たとえ症状が軽くても、外出を控えることも心がけましょう。
3.おたふくかぜ(流行性耳下腺炎)
ムンプスウイルスによる感染症で、軽症のことが多いですが、重い合併症を引き起こすこともあるため、ワクチンによる予防が重要です。
世界の多くの国では、おたふくかぜのワクチンが定期接種となっているため、世界的な流行はあまりありません。
しかし、日本では「任意接種」です。そのため接種費用が自己負担で、時期のお知らせも来ません。
結果として、日本でのワクチン接種率は低く、3-4年ごとに流行していて、平均すると毎年約60万人がかかっています。
合併症も複数あります。まずは、重度の難聴。毎年約700人(約1000人に1人)の子どもがかかっているといわれています。
おたふくかぜによる難聴は、有効な治療法がなく、一生治りません。
また、脳炎も合併症の一つです。毎年約30人の報告があり、重度の障害が残ったり、死亡することもあります。
そのほか、約50人に1人の比較的高い確率でおこり、頭痛、嘔吐などの症状がでる無菌性髄膜炎や、思春期以降の男性がかかると20~40%の確率で起こる精巣炎などもあります。
自分の子だけは重症にならない、という保証は全くありません。子どもが難聴になってから後悔しても遅いのです。
おたふくかぜのワクチンは、1歳で1回、その後2-6年後に2回目接種がおすすめです。子どもの健康を守ってあげましょう。
Photo:iStock/Jovanmandic
4.インフルエンザ
いわずと知れたインフルエンザも、毎冬、多かれ少なかれ流行し、年間の感染者数は約1000万人にものぼります。
高熱が数日続き、関節痛でツラい、という印象の方が多いでしょう。
しかし中には、肺炎や脳症などの合併症により死亡することもあり、インフルエンザによる死亡者数(直接的・間接的含む)は年間約1万人と推計されています。
その8割以上は65歳以上の高齢者ですが、インフルエンザの予防接種をしていない子どもにも重症化リスクがあります。
インフルエンザ脳症は主に5歳以下の子どもでみられ、毎年60-100例の報告があり、
死亡率は約30%、約25%で後遺症が残ります。
また、実は解熱剤も種類によっては脳症のリスクを高めてしまいます。
インフルエンザの発熱に使える解熱剤は「アセトアミノフェン」ですが、発熱は必ずしも解熱させなければいけないわけではありません。
あまりの高熱でぐったりしているときはもちろん解熱剤を使用してもよいですが、解熱剤の種類に気をつけましょう。
予防接種は、発病防止の効果としては約60%(年によります)で、ワクチンを打ったからといってかからないわけではありません。
そのため、「意味がない」と誤解されがちなのですが、インフルエンザワクチンの最も大事な効果は、『重症化の予防』です。
予防接種は任意接種なので、家族全員が打つとなるとそれなりの負担になります。(自治体によっては子どもに補助がでたり、会社によっては福利厚生で補助がでるところもあります)
ですが、たかがインフルエンザのために元気な子どもが重症化してしまう可能性を考えると、予防接種を打つことをおすすめします。
日本でも年明け頃から新型コロナが話題になり始めて以降、例年と比較して明らかにインフルエンザの患者数が減っています。
日本中が、手洗い手指消毒をしっかりして、人混みを避けるようになったおかげでしょう。一人ひとりの心がけの大切さが証明されたのではないかと思います。
5.その他
「肺炎」は日本人の死因5位で、そのうち1/4~1/3は肺炎球菌が原因です。2014年10月から、65歳以上の高齢者を対象として肺炎球菌ワクチンが定期接種となりました。
肺炎球菌には93種類の型があり、ワクチンで予防できるのはそのうち23種類、重症の肺炎球菌感染症の64%が予防できます。
人生100年時代、元気に年を重ねるためにも、予防接種だけで予防できる病気はぜひ予防しておきましょう。
また、以前に単独記事で紹介したHPVも、ぜひワクチンで予防してもらいたい感染症の一つです。
【稲葉可奈子】私がHPVワクチン接種を勧める理由
赤ちゃんの頃からたくさんの予防接種の案内が送られてきますが、どれも子どもの健康を守るために大事なもので、しかも、無料で受けられるというのは本当にありがたいことです。
ただ、年代によっては今回ご紹介したように予防が完璧ではありません。
新型コロナに翻弄される日々ですが、今だからこそ、予防接種で感染症を予防できることの重要性を再認識したいものです。
新型コロナの感染リスクを考え、病院を受診したくない、という方もいるかと思います。
多くの小児科では、予防接種と、症状がある方の受診とで、外来の時間を分けており、予防接種目的の元気な子と、熱を出している子とが接することのないように対策しています。
予防できるものは予防して、自分も家族も社会も感染症から守りましょう。
Take Home Message
・自治体から届く予防接種の案内は全部受けよう
・おたふく、インフルエンザもお忘れなく
・1962年4月2日〜79年4月1日生まれの男性は、風疹のクーポンが届いているか確認を