【新】コロナ時代を生き延びるための「セルフマネジメント」

2020/4/3
まるで預言者のように、新しい時代のムーブメントをいち早く紹介する連載「The Prophet」。今回は、ドラッカーの理論をベースにしたセルフマネジメント研究の第一人者であるジェレミー・ハンター氏と、初の著書『他者と働く──「わかりあえなさ」から始める組織論』(NewsPicksパブリッシング)が話題の経営学者・宇田川元一氏の特別対談を、全3回で掲載する。
ジェレミー氏の新刊『ドラッカー・スクールのセルフマネジメント教室 ── Transform Your Results』(プレジデント社)の内容を軸に、新型コロナウイルスで混乱する世界の中でわれわれがいかに考え、行動すべきかを、両氏が縦横無尽に語り合った90分。
ジェレミー氏が「あと50時間は話せる!」と言うほど白熱したビデオ対談の様子を、余すところなくお届けしたい。
ジェレミー・ハンター/クレアモント大学院大学ピーター・F・ドラッカー・スクール准教授。東京を拠点とするTransform LLC.の共同創設者・パートナー。「自分をマネジメントできなければ人をマネジメントすることなどできない」というドラッカーの思想をベースに、リーダーたちが人間性を保ちながら自分自身を発展させるプログラム「エグゼクティブ・マインド」「プラクティス・オブ・セルフマネジメント」を開発。自ら指導にあたる。著書に『ドラッカー・スクールのセルフマネジメント教室 ―― Transform Your Results』(プレジデント社)

感情のバランスを保つことが大切

宇田川 この対談は東京工業大学で実施する予定でしたが、新型コロナウイルスの拡大によってビデオ対談の形になりました(注:対談は3月16日に実施された)。ジェレミーさんはこのところ、カリフォルニアでどのように過ごされていましたか?
ジェレミー 元気に過ごしていますし、普段以上に活力がみなぎっています。
私はこのような危機を、自分のマインドを鍛える貴重な機会だと捉えています。日本でも様々な仕事がキャンセルになるなど、日常に影響が出ていると思いますが、こんな時期こそ心を落ち着かせ、現状をしっかり理解し、正しい選択をとろうと意識しなくてはなりません。私自身も「この状況をポジティブに変えていくには何をすべきか」と、常に自分に問いかけています。
宇田川 日本では感染拡大の初期段階から、マスクやトイレットペーパーなどの買い占めが始まりました。このような時期、自分の心を落ち着けるには何が必要だと考えますか?
宇田川元一/1977年東京生まれ。経営学者。埼玉大学大学院人文社会科学研究科(通称:経済経営系大学院)准教授。2006年早稲田大学アジア太平洋研究センター助手、2007年長崎大学経済学部講師・准教授、2010年西南学院大学商学部准教授を経て、2016年より現職。ナラティヴ・アプローチを基盤とした対話に基づく組織変革や経営改革に関する研究を行う。スタートアップ企業や大手製造業などのアドバイザーを務め、実践に基づいた提言や執筆を数多く行っている。専門は経営戦略論、組織論。著書に『他者と働く──「わかりあえなさ」から始める組織論』(NewsPicksパブリッシング)
ジェレミー まず、「自分は今の状況に不安や恐怖を感じている」と理解し、その事実を認めることだと思います。
人間とは、そもそも合理的な存在ではありません。先ほどスーパーに買い物に行ってきたところなのですが、なぜかジャンクフードばかりが売り切れていて、フルーツは売れ残っていました。このような時期こそ健康であろうと心がけるべきなのに、人はポテトチップスを買ってしまうわけです。
人がジャンクフードに走るのは、ホッとして気分を紛らわせてくれる食品を買いつづけることで、心を落ち着かせようとしているからでしょう。
恐怖の存在を認めないままに行動していると、かえって恐怖に行動をコントロールされることになってしまうのです。
(Peter Dazeley/Getty Images)
逆に「ディナイアル(否定)」という問題もあります。これは、実際に置かれている状態を正しく見極めず、自分は安全であると過信することです。
ですから、パニックにならず、リラックスもしすぎない、その微妙な境界線を見極めることが大事です。「自分が今何をするか」の選択に注意深くなくてはいけません。この判断は、その重要性にも関わらず簡単に忘れ去られてしまいます。
このような状況では、ユーモアのセンスを忘れないことも大切です。「ユーモア」というのは「ふざける」ということではありません。危機にあってもイライラしないこと、そして、イライラを家族にぶつけないこと。そのためにユーモアが必要なわけです。
自分でコントロールできないことを心配しても、ポジティブな結果はなにひとつ生まれません。同時に、難しい問題を無視しつづけることにも意味がありません。私と妻も「今の自分たちにできることに集中して取り組もう」と、常に確認し合っています。

「安心」をゴールにしない