【リモートワークの盲点】やってみて気づく「寂しさの本質」と「組織の力」

2020/3/30
新型コロナウイルスの蔓延によって一気に動き始めたリモートワーク。しかし、慣れていない企業、ビジネスパーソンにとってはいろいろな不都合を感じる場合も多いはず。

今回は4年前からオフィスを撤廃し、全従業員にリモートワーク体制を敷いているソニックガーデン、そしてウイルス蔓延を早期に察知し雇用形態を問わず全従業員フルリモートにチャレンジしているfreeeに、リモートワークを実践して見えたことを聞いた。

オフィス完全撤廃の裏側

──ソニックガーデンは2016年に東京・渋谷にあったオフィスを完全撤廃し、全従業員が完全フルリモート。今は約50人の従業員が全国18都道府県に点在し、中には世界を旅しながら仕事している社員もいるようですね。かなり、先進的です。
倉貫 フルリモートにしてから約4年たちますから、私たちにとってはもう普通ですけれど、確かにそうかもしれませんね。今では採用面接も入社式もリモート。新卒で入社した社員には、社会人経験の中でオフィスに出社した経験がない人もいます(笑)。
 もともとは海外にいながら働きたいという社員のニーズがあって、リモートワークへのチャレンジが始まりました。
 地方に住みながら働きたいというリクエストも複数出てきて、「リモート組」が「出社組」よりも多い状況になり、それなら「物理的なオフィスって不要じゃない?」とみんなで話し合って、オフィスを完全になくしました。
取材はビデオ会議ツールを活用して自宅からリモートで行った
──新型コロナウイルスの蔓延で、世界中がリモートワークにチャレンジしていますが、リモートワーク初期に起こりがちな課題と解決策を教えてもらえますでしょうか。
倉貫 いくつかありますが、ここでは象徴的な一つを伝えさせてください。それは、リモートワークを始めて1〜2週間たった頃に発生する「寂しさ」です(笑)。
 最初は「通勤の負担がないし、家族との時間も増えるしいいね」など、ポジティブな発言が多いんですよ。ただ、少したつとみなさん、メンバーとのコミュニケーションが少なくなって寂しいと言い出す。
 私も経験ありますが、確かに寂しいんですよね。オンラインミーティングをしている時はいいんだけど、終わると一人でシーンとした感じで……。
 また、「寂しい」という個人の感情的な問題だけでなく、チーム全体のパフォーマンスが落ちているんじゃないかという組織としての問題も感じ始めて、これはまずいと原因を真剣に突き詰め始めたんです。
──「孤独感」「チーム力低下」の原因は何だったのでしょうか。
倉貫 すごくシンプルな話で、「雑談がない」ことでした。
 リモートワークでも、ウェブ会議やチャットツールを活用してコミュニケーションを図っていますが、目的があってのコミュニケーションですよね。
 物理的に人が集まっている場合は、何げない雑談・息抜き話や、ミーティングするほどではない相談が生まれやすい。
 一見するとムダに思えるようなこうした「目的なきコミュニケーション」が生産性を高めたり、新たなアイデアを生んだりする。他愛もない会話で相手を知り、自分を理解してもらいチームの結束力が高まることもある。格好いい言葉で言えば、「心理的安全性」が高まる。このことに、気づいたんです。
 だから、どうやったらリモート環境でも社員の雑談を促すことができるかを、リモートワーク初期に結構考えました。
──リアル環境での雑談をオンライン上に再現する?
倉貫 いろんなツールを探したんですけど、チームワークを強化する雑談ツールなんて当然なくて(笑)。だから、自分たちで「仮想オフィスツール」を作ったんです。
 このツールでは、まずログインしているメンバーの顔が一覧になって表示され、今席にいるのか、どんな表情かが一目でわかります。シンプルな機能ですが、これでみんなと一緒に仕事しているという心理的安全性が驚くほど高まるんです。
 それに加えて、画面の右側には、仕事やプライベート問わず、あらゆる雑談がタイムラインで流れるようにしています。オフィスでは聴覚で雑談を認識しますが、この仮想オフィスでは視覚で雑談を認識するイメージです。
 これによって、相談がしやすくなったり、メンバー間の雑談に少し息が抜けたりしてオフィスでの「会話」が再現できているんです。
仮想オフィスツール「Remotty」のメイン画面
 この仮想オフィスツールでは、チャット機能やビデオ会議機能などリモートワークするために必要なオフィス機能を一通りそろえていて、目指す理想はオフィスで兼ね備えているビジネスツールを網羅すること。今後も自社開発での機能追加とAPIによる他社ツール連携を図っていきます。

リモートワークではなく「リモートチームワーク」を

──離れていてもチームワークを維持するための仕掛け、ということですね。
倉貫 どんな業種・業界、仕事の内容でも、ビジネスはチームで行うものですよね。それはメンバーが離れていても近くにいても変わりはない。それなのに、リモートワークを「ソロワーク」だと勘違いしている人も少なからずいるように思います。
 リモートワークは、いつもメンバーがそばにいる時に比べてチームワークを強化しにくい部分はあると思います。だからこそ、リモートワークをソロワークにしない、「リモートチームワーク」づくりにもっと力を費やすべきだと思います。
 そして、リモートワークうんぬんを言う前に強いチームをつくるために、リーダーはもっと心を砕くべきだと思います。辛辣(しんらつ)な言葉で言えば、チームワークが弱い組織がリモートワークを行うと、チームがさらに崩れ、悲惨な状況が待っているように思います。

リモートワークなのに繁忙期

──freeeは3月2日に雇用形態を問わず、全従業員、原則フルリモートワークを開始しました。当時、「リモート推奨」「部門限定」など最初は様子見で“緩く”リモートワークを開始する企業が多い中、思い切った決断だったように思います。経緯を教えてください。
佐々木 1月下旬から感染状況や政府の方針を注視している中、状況が悪化し、企画していたイベントの開催が延期・中止せざるをえなくなった時から、全社員がリモートワークできる準備が整っているか調査し始め、状況の改善が見られないことから、あのタイミングで決めました。
──他社と比較しても、雇用形態を問わずフルリモートとは大胆でした。
佐々木 当社のお客様にとって3月は個人であれば確定申告、企業であれば決算など多忙を極める時。それを支える当社としては万全のサポート体制を敷く必要があります。
 リモートワークなのか通常のオフィス業務なのかと迷って通常業務に支障が出るようなことは絶対できませんし、リモートワークを始めたことでトラブルが起きるような事態もあってはならない。
 なので、なるべく早く決断するとともに、アルバイトや契約社員なども含めた、業務を支えてくれている全従業員のフルリモートワーク環境を整えることにしたんです。
 BCP(事業継続計画)の観点から、災害発生時などの有事に備えたリモートワークの環境は整えていたので、それほど大がかなりな準備は必要ありませんでした。
 自宅にネット環境がないアルバイト向けにモバイルWi-Fiを調達したり、セキュアなネットワークを築くためのVPN(仮想私設網)設備を増強したり、自宅にもモニターが欲しいという社員向けにモニター購入制度を用意したりすることくらいでした。
佐々木さんの取材もリモート。自宅から画面越しに話を聞かせてくれた
──リモートワークを支える環境、ツールはどのように選定し構築したのですか。
佐々木 チャットやビデオ会議などコミュニケーションツールは普段からFacebookの「Workplace」というツールを活用しています。個人としてFacebookをやっているメンバーが多く、UIがそのFacebookに似ているため、相性がいいというか使いやすいので重宝しています。
 何げない雑談や写真の共有も楽なので、コミュニケーション活性化にも役立っています。全社員に向けてオンラインプレゼンできる機能もあって、トップとしてのメッセージを発信したりするのはすごく楽ですね。
 それと、みなさんリモートワークを支えるツールというとコミュニケーション系ツールを整えますが、意外に大事なのがバックエンド系ツール。
 当社はセールスフォース・ドットコムでCRM(顧客情報管理)からマーケティング、セールス、人事までを管理していて、これがクラウド環境で遠隔からリアルタイムに確認できることことは、とても安心できました。
 離れていても、常に最新の状態の各種経営指標をタイムリーに把握できますし、また、誰がどの情報にアクセスしたかも把握できるのでセキュリティ上でも安心。経営にとって重要なシステムをクラウド環境で整備できていたのは非常に大きかったです。
──リモートワークを始めてみて、佐々木さん、そして会社全体にどのような変化が生まれましたか。
佐々木 まず私個人の感想としては意外に忙しいな、と(笑)。ワンクリックですぐに別のミーティングに入れるので、切れ目がなくて。日によってはトイレに行く時間もないくらい。移動時間がなくて、効率的に多くのテーマで話できるのはメリットですよね。
 それと意外だったのが、リアルな会議ではなんとなく結論が出たり、また結論が出ていないまま終わったりすることがあるんですが、オンライン会議ってなぜかそれがないように思います。その場の空気を読むような感覚が弱くなるのか、ちゃんと結論をつけて終えようという意識が強くなる。これは意外な利点でした。
 また、これはみなさん言うのですが、家族との時間が増えるのは、うれしいですね。妻も働いていますし、子どもが小さい私にとってはありがたいことです。
佐々木さんのまな娘もインタビュー終了後に来てくれた
──チームとしてはいかがでしたか。
佐々木 私は経営において、チームワークをとても大切にしています。そのために日々のコミュニケーションを促す仕組みや制度をつくったり、社員との交流を図れるイベントなどを積極的に開催したりしています。
ミッション・ビジョンの見直しなども経営陣だけで決めるのではなく、必ずみんなで議論する。企業としての成長を下支えするのは一人ひとりの力だけでなく、それが組み合わさったチームの強さだと思っていますから。
2019年に東証マザーズに上場したことを祝った記念パーティー。freeeではこうした社員との交流イベントを数多く開催している(提供:freee)
 なので、今回リモートワークをするにあたって一番気にしていたのがこのコミュニケーションの不足でした。顔を合わせることができないので、メンバー間の会話が減ってしまうのではないかなと心配していました。
 ただ、いざ始めたら、その逆。みんなリアルな場よりも積極的にコミュニケーションをとるようになっていて。普段はやらない朝のショートミーティングを毎日やっているチームも出てくるなど、離れているからこそ会話をしようとする動きがたくさんみられた。
 これには安心しましたね。こうした離ればなれの環境にいるからこそ、チームの力が問われると実感しました。
──佐々木さん自身もリモートにしたから取り組んだことはありますか。
佐々木 みんなが同じ方向を向いて自走できるように、普段からミッションやビジョン、今の私の考えを伝えることにはかなりの力を注いでいるのですが、顔を合わせることができないだけに、ここにはかなり神経を使っています。
 定期的に開催している全社員向けのミーティングは、いつもよりリッチにしたり、回数を増やしたりして結束力が落ちないように多くの時間を使っています。
 私はもともと、対面でみんなとコミュニケーションを取りながら自分の考えを伝えたり、みんなのことを知ったりしてチームワークを作るタイプなのですが、テクノロジーの力によってリアル環境に近いかたちでみんなと仕事ができることに、改めて気づかされました。
 結局、チームの結束を高めるのは、離れているかどうかではなく、メンバーが同じ方向に向かい、互いを気遣っているかどうかだということも、再認識しました。
(取材・編集・構成:木村剛士 デザイン:岩城ユリエ)
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