中国における新型コロナウイルスの感染者数は3月15日に1万人を切り、3月18日時点では7,263人へと減少した。うち、エピセンター(感染源)である中国湖北省武漢市の感染者数は、全体の93%を占めている。
全国の新規感染者数が1日3,000人を超える時期もあったものの、2019年12月からの3か月間で終息の兆しを示したのは、強力な隔離措置や医療従事者による支援のほかに、AI画像診断や医療ロボット、オンライン医療プラットフォームといった「医療テック」の活用が背景にあった。
2020年3月15日時点での中国新型コロナ感染状況(中国衛生健康委員会のデータを基にUZABASE作成)

CT画像の診断が数秒で完成

中国ではこれまで、新型コロナウイルスの診断は、新型コロナウイルス核酸検出(PCR検査)により判断されてきた。
しかし、偽陰性の確率が高く、試薬不足の問題が重なったため、1月末までに疑似症患者数が高騰し、疑似症患者によるさらなる感染拡大が深刻化していた。
こうした事態に対し、2月4日に公布された「新型コロナウイルス肺炎診療ガイドライン」(試行第5版)では、湖北省の診断基準に胸部画像で肺炎の特徴が観察できることが入れられた。それに対応するため、AI画像診断技術の開発・取り入れが加速した。
たとえば1月28日、AI画像認識のスタートアップ、YITU(依図)は「新型コロナウイルス用胸部CTインテリジェント評価システム」をローンチした。
同システムは、上海公衆衛生臨床センターの指導の下で開発され、画像アルゴリズムを通してCT画像のインテリジェント診断や、肺炎重症度の定量分析を提供できる。肉眼分析の所用時間は通常の約5~15分と比べ、同システムではわずか2〜3秒で済むという。
YITUのほかに、同じくAIスタートアップのSenseTime(商湯科技)、iFlytek(科大訊飛)、そしてEC大手のAlibabaも、新型コロナウイルス用AI診断システムを開発し、全国各地域の病院に導入された。
公表資料を基にUZABASE作成

ロボットで防護用品の欠如に対応

1月までの中国では、新型コロナウイルスへの認識不足や医療用マスク・防護服といった感染防護用品の欠如により、医療従事者への感染が続出し、特に湖北省では3,000人を超える感染者が発生する深刻な状態に陥った。
このような院内感染を低減させるため、湖北省、浙江省、広東省などの病院では、AIスタートアップ企業が寄付したロボットの整備が行われた。
SAITEの消毒ロボットが湖北省人民病院に導入される様子(提供:SAITE)
これらのロボットは、医療従事者の代わりに診査案内、体温計測、消毒、医薬品・食事の配送などの作業を行い、患者と医療従事者間のコンタミネーションの防止と感染防護用品の節約に、効果を発揮した。
例えば、深セン市第三人民病院では、体温計測ロボットの協力により、看護師は1分で200人の体温計測を完成できるという。
SAITEの無人配送ロボットが広東省人民病院に導入される様子(提供:SAITE)

データの可視化で、住民の不安が解消

また、新型コロナウイルスの流行は、住民の外出制限をもたらした。
中国の一般住民は旧正月以来、政府の指示に従い、生活に必要な用事以外は出かけないようにしてきた。どうしても出かける必要のある時には、事前に所在地域や周辺エリアの感染状況を確認する必要が生じる。
ただ、ニュースからの情報は限られ、数字だけでは直観的に理解できない部分も多い。
そんな中、住民全体に対し最新情報を届け、不安な気持ちを解消させるため、医療系スタートアップのDXY.cn(丁香園)は1月21日、自発的に新型コロナウイルスの流行マップや感染者数の推移図を作り、中国・世界範囲の地域別感染・死亡・回復データを可視化した。3月6日時点で、当該ページのビュー数は28億回を超えた。
DXY.cnに続き、Alibaba傘下の決済アプリAlipay、Tencent傘下のニュースアプリ、Q&AサイトのZhihu(知乎)など、多大なユーザー数を擁するオンラインプラットフォームも、次々と自社サイト・アプリ内で新型コロナウイルスのデータ可視化サービスを提供している。
2020年3月16日時点で中国の感染者数分布図(中国衛生健康委員会のデータを基にZhihu作成)
また、Alibaba傘下のクラウドサービスAlibaba Cloud(阿里雲)と地図アプリGaode Map(高德地図)が提携し、過去に新型コロナウイルス感染者が発見された場所とユーザー自身の距離を示す地図サイトを開発、住民の身の回りの状況を分かりやすく示している。
Alibaba CloudとGaode Mapが提供した新型コロナウイルス流行マップ。住民(青い点)の周りに感染者の発見された場所(赤い点)を示す(Shirley Wangより寄稿)

遠隔医療への需要が急増

ウイルスが流行して以来、政府は各病院に対し、感染者の治療を優先的に行うとともに、そのほかの疾患に関する診療・コンサルティングは、ネット上で遠隔医療を活用するように強く推奨した。
それに促され、Ping An Good Doctor(平安好醫生)をはじめとするオンライン医療プラットフォームへの需要が急増し、オンライン医療に関する保険制度も改善された。
2019年12月末から3月16日まで、Ping An Good Doctorアプリへのアクセス数は11億回を超え、新規ユーザー登録数が10倍以上増加した。
また、これらの医療プラットフォームは、新型コロナウイルスの流行期間中に、マスクの配布や、治療薬の提供、無償で診療をしてくれる医師の確保など、さまざまな無料医療サービスを提供した。
例えば、Alibaba傘下の総合ヘルスケア情報プラットフォームAlibaba Health(阿里健康)は、1月24日に湖北省の住民向けに無料の「オンライン診療所」をアプリ内で開設し、ローンチされた後の24時間内の累計アクセス数が40万人に及んだ。
公表資料を基にUZABASE作成
今回の動きを振り返ると、新型コロナウイルスはある意味、医療分野におけるAI技術の応用にとって「貴重な実験場」となった。特に画像診断と遠隔医療については、関連業界でのイノベーションが加速されると期待できる。
(執筆:Shirley Wang、編集:野村高文)