和田崇彦

[東京 16日 ロイター] - 日銀は16日、金融政策決定会合で上場投資信託(ETF)の購入増などを柱とする追加緩和を決定する一方、マイナス金利の深掘りを見送った。新型コロナウイルスの感染拡大で実体経済の先行きが見通せない中、マイナス金利の深掘り見送りは早くから「既定路線」となっていたもようだ。日銀内で政策対応の「本丸」とみなす声が多い4月の次回会合でどのような追加緩和の議論が行われるかが次の焦点となる。政府の経済対策が4月にも策定される中、国債買い入れの増額が緩和カードに浮上する可能性もありそうだ。

<声明文ににじむ「苦心」>

新型コロナウイルスの世界的流行を受けた市場の動揺が収まらない中で、前倒しで開かれた日銀の金融政策決定会合。東京株式市場の取引時間中に発表された声明文には、日銀の「苦心」がにじんだ。

黒田総裁は会見で、ETFの購入倍増などによる市場の安定確保、企業金融の支援策、流動性供給の充実の「3本柱」が、現時点で「日本経済に最も重要で効果的と判断した」と説明した。しかし、ETFや不動産投信(J-REIT)の購入目標は「倍増」でも期限付き、米ドル資金供給の拡充は16日朝に発表したものだった。

一方、マイナス金利は据え置かれ、物価安定目標に向けたモメンタムが損なわれる恐れに注意が必要な間、政策金利を現在の長短金利の水準またはそれを下回る水準で推移するとする政策金利のフォワードガイダンスも維持された。

<マイナス金利の深掘り見送りは「既定路線」>

市場が神経質な動きを見せる中でも、日銀内ではマイナス金利の深掘りは見送るべきと見方が目立っていた。

新型ウイルスの拡大がどの程度、実体経済に影響するのか「現時点では定量的な判断が難しい」(幹部)状況。マイナス金利深掘りよりも、現時点で浮上している市場の安定確保や中小企業の資金繰り支援といった課題に先に対応すべきとする考えからだ。

米連邦準備理事会(FRB)の緊急利下げや欧州中央銀行(ECB)の量的緩和の拡大でも市場の動揺が収まらなかったことで、日銀内ではマイナス金利深掘りを急ぐ必要はないとの声も聞かれた。

<経済・物価に高まる下方圧力>

今回の声明文の「別紙」には、日銀が描いてきた「物価目標へのモメンタム」の維持が微妙な段階にあることが示唆された。

景気の先行きは「当面、新型コロナウイルス感染症の拡大などの影響から弱い動きが続く」とみられるとした。

リスク要因として、新型コロナ拡大の帰すうや、内外経済への影響の大きさや期間は「不確実性が大きい」と指摘。さらに原油価格の急落で「経済・物価に及ぼす影響にも注意が必要」だとし、経済・物価の「下振れリスクは高まっている」と指摘した。

日銀内では、「経済・物価情勢の展望」(展望リポート)を議論する4月の金融政策決定会合が重要になるとみられてきた。4月1日には3月調査の日銀短観、9日には支店長会議があり、新型コロナウイルスの実体経済への影響を3月会合よりは腰を据えて議論できるためだ。

追加緩和の有力な選択肢として浮上する可能性があるのは国債買い入れ目標の増額だ。今回、年間80兆円で維持したが、政府が大規模な経済対策を打ち出して国債の発行を増やせば、日銀も買い入れを増やしやすいとの見方が日銀内で出ている。

一方、中小企業の資金繰り支援の担い手である地域金融機関の収益環境を一段と悪化させかねないこともあり、マイナス金利の深掘りには踏み込みにくいとの声が依然、根強い。

もっとも、日銀の「次の一手」をめぐる不透明感はなお強い。新型ウイルスの感染拡大にピークアウト感が出れば世界経済は回復に向かうとの見方はコンセンサスでも、回復時期の予想は定まっていない。欧米で感染拡大が続く中で、4月会合における展望リポートでも経済・物価見通しの実質的な議論ができない可能性もある。

(編集:石田仁志)