(ブルームバーグ): 野村ホールディングス(HD)はアセットマネジメント部門の運用資産残高(AUM)を、今後5年程度で約35%増の75兆円までの積み増しを目指す。特に国内の個人投資家向けの販売拡大余地が大きいとみて、地方銀行などを通じた販路開拓を急ぐ。中核子会社の一つである野村アセットマネジメントの中川順子社長がブルームバーグとのインタビューで語った。

野村HDのアセットマネジメント部門長も兼ねる中川氏(54)は、世界の運用資産会社のトップ水準はAUM100兆円程度が目安だと指摘。野村HDの2019年12月末のAUMは55兆6000億円で、100兆円までの差である45兆円のうち半分ぐらいまでは「自力で頑張りたい」との考えを示した。20年3月末までの3年間でAUMを24%増の55兆円に引き上げる計画を立てており、さらなる拡大を図る。

米コンサルティング会社ウイリス・タワーズワトソンが19年10月に発表した世界の運用会社の資産規模ランキングによると、首位ブラックロックの5兆9758億ドル(約627兆円)から20位のTロウ・プライスの9623億ドル(約101兆円)まで100兆円超の水準だ。

目標達成に向けた戦略について、中川氏は国内の個人資産における「投資信託の保有割合は低く、まだまだ開拓の余地が大きい」と指摘。定年退職などの環境変化を念頭に、受け取る分配金を増減できるターゲットインカムファンドなど家計を補完したり、環境・社会・ガバナンス(ESG)に配慮したりするなど多様化する個人のニーズを意識した品ぞろえを武器に、地銀や3メガなど販売会社への働き掛けを強める。

日銀の調査によると、家計金融資産のうち現預金の占める割合は19年3月末で米国の13%、欧州の34%に比べ、日本は53%と過半を超えている。

機関投資家向けには、ESG投資への取り組みを強化する。中川氏は、この分野への関心が「海外投資家から国内投資家に広がってきた」と説明。1月にT&Dホールディングスから8500万ユーロ(約101億円)の欧州ESGファンドの運用を受託するなど引き合いも増えているという。海外投資家の間で、ガバナンス改革が進む日本株を再評価する動きも出ており、着実に機会を捉えたいとした。

感染が拡大する新型コロナウイルスの影響については、現時点では見通せないとしつつ「マーケットの振れが大きく、広がりが見えきっていない」との懸念を示した。特に投資先の業績への影響などを注視するとも述べた。インタビューは2月27日に行った。  

専業主婦も経験した異色の経歴

中川氏は昨年4月に野村アセットの社長に就任。同社初の女性社長となった。1988年に支店の窓口業務などを担当する一般職として野村証券に入社し、後に総合職に転換。2004年には夫の海外転勤に伴って一度退社し、専業主婦も経験した異色の経歴を持つ。男性社会のイメージが強い証券会社の雄である野村HDで初の女性執行役、財務統括責任者(CFO)と要職に就き、道を切り開いてきた。

そんな中川氏は、若い女性たちにキャリアを自分でデザインすることの大切さを伝えたいという。自身も一般職で入社したが「少しでも可能性があるならやってみようと思った。会社に選ばれなければ仕方ないが、何かを言い訳にして最初から諦めるのはもったいないです」と背中を押す。あとは「家族へのちょっとした気遣いを忘れないこと」が成功の秘訣(ひけつ)だそうだ。

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