【倫理学】ビジネスの本質は「贈与」である

2020/3/14
NewsPicksパブリッシングから初の著書『世界は贈与でできている――資本主義の「すきま」を埋める倫理学』を上梓した、哲学者・教育者の近内悠太氏と、哲学や臨床心理学の知見を経営組織論に応用する、経営学者の宇田川元一氏の対談。

後編では、「『交換』と『贈与』は地続きではないか」という宇田川氏の問いを出発点として、双方の原理を巧みに取り入れたビジネスの実例について話が及んだ。

Appleとクルミドコーヒー

宇田川元一(以下:宇田川) 前編では、贈与の存在に気づくことで生じるポジティヴな影響がテーマになっていました。ただ一方で、交換と贈与の関係性を考えると、「交換とは贈与が制度化されたものじゃないか」とも思うわけです。
両者は対極にあるわけではなく、贈与が汎用性や形式性を帯びていくことで、交換に変化していくんじゃないかと。言いかえれば、「ビジネスの本質は贈与である」ということです。
つまり、ビジネスは交換の原理で動いていると思われているけれど、実は贈与の原理で捉え直すことができるのではないかと。近内さんはどう思われますか?
宇田川元一(うだがわ・もとかず)/埼玉大学経済経営系大学院准教授。1977年東京都生まれ。『他者と働くーー「わかりあえなさ」から始める組織論』著者。 2006年早稲田大学アジア太平洋研究センター助手、2007年長崎大学経済学部講師・准教授、2010年西南学院大学商学部准教授を経て、2016年から現職。 専門は、経営戦略論、組織論。 ナラティヴ・アプローチに基づいた経営変革、戦略開発を中心に研究を行っている。また、さまざまな企業のアドバイザー、メンターとして、その実践を支援している。 2007年度経営学史学会賞(論文部門奨励賞)受賞。
近内悠太(以下:近内) ここでいう「交換」とは、「等価交換」に代表されるように、双方の価値が同じとみなされるものを渡し合って、関係が終了するということです。宇田川さんの考え方で言えば、2つの事例が思い浮かびました。
1つはiPhoneです。モデルによっては10万円以上しますが、生みの親であるスティーブ・ジョブズへのリスペクトから購入する人もいるわけですよね。端末の対価を超えた贈り物を、ジョブズやAppleがユーザーに渡していると考えることができる。
コアなAppleファンにとっては、お金でiPhoneを買うという「交換」を超えた余剰価値が付帯していると思います。