【亀山×谷家衛】投資はビジネスモデルより「人」を見る

2020/3/15
「亀っちの部屋」Season2。DMM.com会長の亀山敬司氏がゲストを迎え、脱力系ながらビジネスの本質をつく対談企画だ。
4人目のゲストは、投資家であすかホールディングス会長の谷家衛氏。その投資先はベンチャー企業を中心に、マネックス証券、ライフネット生命、マネーフォワード、クラウドファンディングのCAMPFIREなど多岐にわたる。
そして亀山氏もまた、勢いのあるベンチャー企業に投資し、DMMグループとしてさまざまな事業に参入することを得意の経営手法としている。
2人の共通点であるベンチャー投資。投資を決める際の判断基準は何か、リターン以外で感じる投資の意義とは──。「投資家対談」が展開される。
*本記事は、音声番組「亀っちの部屋 Season2」から一部を抜粋、編集したものです。音声はこちらからお聞きください(マナーモードを解除してください)。

大手トレーダーが転身した理由

亀山 「亀っちの部屋」Season2、第7回のゲストは投資家の谷家衛さんです~。
谷家 よろしくお願いします。今日は亀山さんとお話しできるのを楽しみにしてきました。
──谷家さんは1980年代から90年代にかけて、アメリカの投資銀行「ソロモン・ブラザーズ」のアジア最年少マネジングディレクターとして活躍したのち、2000年以降はベンチャー企業を中心にした投資を行っています。
谷家 そんなに大したものではないですよ、失敗もいっぱいしていますし。僕より儲かっている人はたくさんいますが、僕ほど損をした人は、なかなかいないんじゃないでしょうか(笑)。
谷家 衛(たにや・まもる)/あすかアセットマネジメント 取締役会長
1962年、神戸市生まれ。東京大学法学部卒業後、ソロモン・ブラザーズに入社、アジア最年少のマネジングディレクターに就任し、アジア投資部門を統括。退社後、チューダー・インベストメントの東京オフィス立ち上げに従事、その後独立し、あすかアセットマネジメントを創設。ベンチャー投資家としても活躍し、投資先は、マネックス証券、ライフネット生命など多岐にわたる。
亀山 失敗の話のほうが面白いよ。たしかに俺の中の谷家さんのイメージは、他の投資家に比べたら人が良すぎるんじゃないのかな。ベンチャー投資を始めるまでは、どんな感じだったの。
谷家 僕が勤めていたソロモン・ブラザーズは、ノーベル経済学賞を受賞した学者も在籍する、金融工学の走りのような会社でした。
亀山 金融工学ってどんなの?
谷家 数学的手法を使って金融商品の価格を数値化・分析して、リスクを回避し、効率的にリターンを得ようとする学問です。
ソロモン・ブラザーズでの取引は金融工学の理論を基盤としていて、僕はその中でも、割安な債券を買って割高な債券を売り、その利ざやを稼ぐ「アービトラージ」という取引を担当していました。
もともと計算が得意だったこともあり、コンピュータースクリーンにずっと向かい、1ベーシスポイント(0.01%のこと)の上下まで気にしていたほどです。
写真:i-Stock/MicroStockHub
亀山 それは、やってて楽しかったの?
谷家 楽しかったです。ゲームをしているような感覚で、その頃はこれが天職だと思っていました。
しかし1998年、ソロモン・ブラザーズがシティグループに買収されることになった。僕はそのタイミングで退職し、元上司と「チューダー・インベストメント」の日本拠点を開設しました。
また、それと同じ頃にアジアやロシアで経済危機が起こり、金融工学の理論が通用しなくなってしまったのです。この影響で、ソロモン時代の上司、ジョン・メリウェザーさんが設立して一世を風靡したヘッジファンド「LTCM(ロングターム・キャピタル・マネジメント)」もうまくいかなくなりました。
自分にとって神様みたいな人たちがボロボロになるのを見て、これからどうしようと不安になっていたとき、ソロモンの同期でマネックス証券を立ち上げたばかりの松本大(現マネックス証券会長)から、「マネックスに投資しないか」と言われたのです。
これがきっかけで、ベンチャー投資をするようになりました。
マネックス証券会長・松本大氏(撮影:遠藤素子)
亀山 それは個人で投資したの?
谷家 いえ、会社としての投資です。利ざやを稼ぐアービトラージとベンチャー投資はまったく種類が異なるため、初めは会社にいい顔をされませんでしたが、マネックスがうまくいってすぐに上場したので、認められるようになりました。
松本がマネックスを成功させるのを見るうちに、「いい起業家に賭けることは、ダウンサイド(損失を受ける可能性)は限られ、アップサイド(利益が生まれる可能性)は無限だな」と気づいたんです。
亀山 なるほどね。

「儲かる」以外の面白さを見つけた

谷家 これまでやってきたアービトラージ取引は、一日中スクリーンに向かい、外の人とは会わない生活でした。
しかしベンチャー投資を始めると、いろんな人と会うようになるでしょう? それがとても楽しかったんです。ゲームのような取引に比べ、一緒に事業をしている感覚があるのも全然違いました。
亀山 儲かる・儲からない以外の面白さを見つけたんだ。
谷家 一度はトレーディングが天職だと思いましたが、もともと人が好きなこともあり、ここから徐々に、ベンチャー投資に軸足を移していきました。
とはいえ、チューダーは上場企業などに投資するファンドだったので、会社としてはレイトステージ(事業が成長し、ある程度軌道に乗った段階)のベンチャー企業にしか投資させてもらえない。
でもベンチャー投資をしていると、もっとシード(サービスの準備段階)の企業へ投資したくなるじゃないですか。
亀山 うん、だんだんそっちに行きたくなるね。
谷家 そこでシードのベンチャー企業には、個人として投資するようになったんです。
亀山 エンジェル投資家(創業間もない起業家に資金提供する個人投資家)になったんだ。