【哲学】トイレットペーパーが「贈与」になるとき

2020/3/13
哲学研究者・教育者の近内悠太氏が、NewsPicksパブリッシングから初の著書『世界は贈与でできている――資本主義の「すきま」を埋める倫理学』を上梓した。

基盤にあるのは、20世紀を代表する哲学者ルートヴィヒ・ウィトゲンシュタインによる「言語ゲーム論」と、“お金では買えないもの”としての「贈与」のメカニズム。

本書では2つのキーワードを起点に日常社会を解きほぐし、「求心的思考・逸脱的思考」といった思考の枠組みにまで言及する。論の展開を補完するのは「シャーロック・ホームズ」や小松左京のSF作品、漫画「テルマエ・ロマエ」、東京・西国分寺のカフェ「クルミドコーヒー」など豊富なエンターテインメントやビジネスの実例だ。

刊行にあたり、近内氏のインタビューをお届けする。聞き手は、哲学や臨床心理学を理論のベースとする経営学者の宇田川元一氏。同氏の著作『他者と働く――「わかりあえなさ」から始める組織論』(同社刊)はベストセラーとなっている。

「世界と“出会い直す”ことで新たに見えてくるものがある」と語る近内氏。哲学という異分野からビジネスの文脈にアプローチする近内氏の初著作の核を、同じく哲学を背景に持つ宇田川氏を通じて紐解いていく。

「贈与」と「言語ゲーム」

──近内さんは著書の目的について、まえがきで「贈与の原理と言語の本質を理解することで、世界の成り立ちを知ることができる」と語っています。対談に入る前に、この2つのポイントについて簡単にご説明いただけますか。
近内悠太(以下:近内) はい。1つ目の「贈与」。これは、もう1つキーになる「交換」という概念とセットで語る必要があります。
贈与は、「人々が必要としているにもかかわらず、お金では買えないものやその移動」と本の中では定義しています。これに対して「交換」は「ギブ&テイク」や「Win-Win」という言葉に代表されるような、等価なものを渡し合う構造のことを指します。
近内悠太(ちかうち・ゆうた)/1985年神奈川県生まれ。教育者。哲学研究者。慶應義塾大学理工学部数理科学科卒業、日本大学大学院文学研究科修士課程修了。専門はウィトゲンシュタイン哲学。リベラルアーツを主軸にした総合型学習塾「知窓学舎」講師。教養と哲学を教育の現場から立ち上げ、学問分野を越境する「知のマッシュアップ」を実践している。『世界は贈与でできている』がデビュー著作となる。
それから2つめですが、20世紀の大物哲学者ウィトゲンシュタインが提唱した概念に「言語ゲーム」というものがあります。これは人間の言語活動をゲームとしてとらえたものです。
つまり、コミュニケーションには、会話を成立させているルールのようなものがある。逆に言えば、相手とルールが異なれば、会話は成立しません。このように、ルールに基づいたゲームをプレーするようにコミュニケーションを捉える概念が「言語ゲーム」です。
そして、言語ゲームのポイントは、僕らのコミュニケーションは「言語」と「生活、行動、実践」とが織り込まれたものとなっているという点にあります。
──それを踏まえて宇田川さんは、一読していかがでしたか?