「コスト増と取引高減」に立ち向かうDNPのチラシDX

2020/3/14
現在普及している「4G」の100倍の通信速度でデータのやりとりを行なう「5G」が、いよいよ今春から開始となる。ネット環境の転換点に立ちあう期待感と、対応が遅れ自社ビジネスが遅れを取ってしまうかもしれない危機感、この両方を合わせ持つビジネスパーソンも多いのではないだろうか。
DXに取り組まなければと感じながらも、「どうしたらいいのか」「実際に取り組むと、何がどのように変わるのか」という企業担当者の疑問に答えるべく、本記事では、一足早くDXに着手した企業の事例をKaizen Platform須藤憲司氏が紹介する。
最後である3つ目は、販促ソリューションにDXを取り入れた「大日本印刷」の取り組みだ。
*本事例は、Kaizen Platformの主催で2月に開催された「DX Drive2020」での講演内容を一部抜粋したものです。

「コスト増と取引高減」大手印刷会社の危機

Kaizen Platform主催イベント「DX Drive2020」で講演した、嶋岡立行。大日本印刷株式会社 情報イノベーション事業部C&センター SP・SD本部 第2プロモーション企画開発部 部長
須藤 大日本印刷(以下、DNP)は、日本有数の大手印刷会社としてプリントメディアを牽引してきました。中でもチラシ、DM、ポスターなど、「紙」を起点としたオフラインコミュニケーションを強みとしています。
しかし昨今、デジタルメディアの発達による取引高減と、紙の原材料費高騰によるコスト増の二重苦に陥っている状況にありました。
そこでDNPでは、デジタルコミュニケーションを強化すべく2010年代初頭からプリントメディアとデジタルメディアの融合をスタート。現在ではデジタルサイネージやLINE、動画、センシング・AIなどさまざまなテクノロジーを柔軟に取り入れ、新しい顧客体験の創造にチャレンジしています。
その中でも、既存のプリントメディアとして大きな課題となっていたのが、「新聞の折込チラシ」でした。20~30代の新聞購読者数が大幅に減る一方で、紙の原材料費のみならず新聞の運送費まで右肩上がりというかなり厳しい状況。折込チラシの制作コストは、年々増加していました。
もちろん、DNPとしてもこうした状況を傍観していたわけではありません。これまでも、折込チラシをデジタル化し、チラシアプリや企業のオウンドメディアに掲載するソリューションを提供するなどの対策をとって、大きな話題を呼んでいました。
しかし、せっかくチラシをデジタル化したにもかかわらず、それがスーパーマーケットやドラッグストアなどの店頭への集客になかなかつながらないという新たな課題が出てきました。デジタルチラシから来店への導線となる効果的なコミュニケーション設計を確立できないまま、3~4年ほど紆余曲折を繰り返していました。

折込チラシを動画広告にし、来店率2倍を実現

そこで注目したのが、チラシのウェブ動画化でした。
通信規格が「5G」になると従来の100倍の通信速度でデータをやりとりできるようになるため、格段に通信コストが下がります。通信速度やデータ容量を気にせずインターネットを楽しむ人が増えるため、モバイルデータ通信量の80%が動画にシフトする予測もなされています。このような状況の中、DNPでは動画広告に大きな可能性を感じたのです。
私たちKaizen Platformは、この折込チラシのDXに協力。「DNP動画チラシ広告サービス」という新しい販促ソリューションを共に開発することになりました。
「DNP動画チラシ広告サービス」は、紙の折込チラシ、カタログ、POPといったプリントメディアの完成データを入稿すると、48時間以内にKaizen Platformが動画化する仕組み。
そして、紙のチラシが折り込まれる当日に、動画もデジタルサイネージやウェブ運用型広告、オウンドメディア、SNSオウンドページといったマルチデバイスに配信されます。
この取り組みで重視したのは、「スピード感」と「圧倒的な量」の両立でした。通常、新聞の折込チラシは制作から校了、折り込みまで5営業日ほどで完了します。それに合わせて、このチラシ動画も、制作に48時間(2営業日)、入稿と審査に3営業日と、紙の折込チラシと同じ日数で配信する体制を整えました。
動画制作という点で言えば、DNPの社内にも従来から動画制作を行うクリエイティブチームはあり、企画構成からキャスティング、撮影や編集など一連の制作を担ってきましたが、48時間という短納期で大量のバリエーションを展開する手法は実現していませんでした。
Kaizen Platform主催イベント「DX Drive2020」にて行われた大日本印刷の講演内容より
前回記事でもご説明した通り、Kaizen Platformは画像とテキスト素材などの限られた素材を使い、「短期納品・低料金」で動画を制作できます。そこで、私たちKaizen Platformの動画制作ノウハウをご活用いただいたのです。
その結果、2018年9月のリリース以降、取引社数は100社以上に及び、チラシ動画の制作本数は300本を超えました。ジオターゲティングやPOSデータのリフト値から拡大推計すれば、来店客数や購買データを割り出すこともできるようになりました。
チラシ動画に入れ込む商品を、売れ筋のものに差し替えるなど柔軟かつタイムリーな対応もできるようになり、配信商品の最適化も実現できつつあります。
Kaizen Platform主催イベント「DX Drive2020」にて行われた大日本印刷の講演内容より
この販促ソリューションをリリースしたら、おもしろいことが起きました。長年DNPとお取り引きのある家電量販店から、「店舗ごとに異なるチラシ動画を制作したい」という要望をいただき、Kaizen Platformと共にチラシ動画を制作。
すると、これまでなかなかリーチできていなかった20~40代の視聴完了率が、約30%まで到達。平均よりも高い数値を叩き出したのです。また、通常、家電量販店において、折込チラシからの来店率は約2%ですが、チラシ動画の利用後は2倍に及ぶ約4%、高い店舗では10%の来店率※を記録しています。
※来店率は来店数 ÷ 視聴完了数 ×100で算出
流通とメーカーが連携、協賛してチラシ動画を制作し、展開する流れも増えてきています。
ターゲットに合わせて適切なメディアを選び、適切なコミュニケーション方法を模索することで、若年層への認知拡大、既存のマスメディア、プリントメディアではリーチできない層へのアプローチという大きな課題を解決することができました。
折込チラシという一見レガシーに見える媒体も、DXによって顧客体験を劇的に変えることによって、さらなる飛躍を成し遂げることができたのです。

日本企業は「品質」という強みを強化せよ

須藤憲司。株式会社Kaizen Platform代表取締役(Kaizen Platform主催イベント「DX Drive2020」)
日本企業の強みは、圧倒的なサービス業の品質です。私自身、仕事を含めて海外渡航も多いですが、日本以上にクオリティの高いサービスを提供できる国はそうそうないと感じています。
確かに今、GAFAなど海外のテックジャイアントたちが築き上げたとてつもないデジタルインフラに、日本企業は大きく水をあけられています。
彼らがデジタルインフラを整備してきたとすれば、これからはその整備された環境下でいかに自分たちの強みを活かすか考えるとき。今こそサービス業に徹し、優れた顧客体験を提供するためにはどうするか、ユーザー起点で知恵を絞るときが来たと言えます。
では、実際にどうすれば、自分たちの強みを尖らせ、DXを推進することができるのでしょう。
これまで4回の連載でお伝えしてきたように、私たちはさまざまなDXの事例を手掛けてきました。最終回である次回は、これまでの事例を振り返ってみえた「DXを成功させた企業の共通点」を解説していきます。
(構成:石川香苗子、撮影:高澤梨緒、編集:株式会社ツドイ)
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