複雑化した「営業」をDXする NTT東日本の局地戦

2020/3/12
現在普及している「4G」の100倍の通信速度でデータのやりとりを行なう「5G」が、いよいよ今春から開始となる。
ネット環境の転換点に立ちあう期待感と、対応が遅れ自社ビジネスが遅れを取ってしまうかもしれない危機感、この両方を合わせ持つビジネスパーソンも多いのではないだろうか。
DXに取り組まなければと感じながらも、「どうしたらいいのか」「実際に取り組むと、何がどのように変わるのか」という企業担当者の疑問に答えるべく、本記事では、一足早くDXに着手した企業の事例をKaizen Platform須藤憲司氏が紹介する。
1つ目は、営業活動にDXを取り入れた「NTT東日本 東京武蔵野支店」の取り組みだ。
*本事例は、Kaizen Platformの主催で2月に開催された「DX Drive2020」での講演内容を一部抜粋したものです。

事業の多様化で、営業の難易度が上昇

蛭間武久。NTT東日本 東京武蔵野支店 副支店長 兼 ビジネスイノベーション部長(Kaizen Platform主催イベント「DX Drive2020」)
須藤 NTT東日本といえば、電話やインターネット回線のイメージをお持ちの方が多いと思います。もちろんそれも正しいのですが、同社は近年、ICT・IoTを活用し地域密着型で顧客の困りごとを解決する「ソリューション事業」を主体としつつあります。
というのも、これまでは携帯電話やパソコンなど「人と人」がつながっていましたが、最近は「モノ」もインターネットにつながり始めています。人よりモノの数のほうが圧倒的に多いのですから、当然、サービスは多種多様になります。
Kaizen Platform主催イベント「DX Drive2020」にて行われたNTT東日本の講演内容より
同社のウェブサイトを見ると、現在、顧客企業の「働き方改革」や、農業分野への参入、eスポーツや文化遺産のデジタル化まで、事業範囲は今までのNTTのイメージを超え、あらゆる分野に広がっています。
しかし、サービスがこれだけ多様化すると、それを売る営業担当者は大変です。
今までは決まった商材を売る「プロダクトアウト型」の営業手法でよかったのが、顧客の状況をきちんと理解してニーズを聞き出し、最適な解決へと導く「マーケットイン型」へと、これまで以上に高度な営業スキルが求められるようになったのです。
Kaizen Platform主催イベント「DX Drive2020」にて行われたNTT東日本の講演内容より
こうした業態の変化によって、営業の現場はいくつもの課題を感じていました。
たとえば、営業担当者によってジャンルの得意・不得意があること。セキュリティ分野は得意でも「働き方改革」まわりが苦手な社員だと、顧客に「ICTで働き方改革を進めたい」というニーズがあっても、最適な提案ができない可能性があります。
また、会話の中で顧客からたくさんヒントが出ているのに、営業担当者がそれを適切に拾い上げることができない「ニーズの取りこぼし」もあります。
SFAなど顧客訪問の前後に使うシステムは導入されていたものの、肝心の「顧客と会っているときに得た情報」を正確かつリアルタイムにデジタル化する仕組みはありませんでした。そこはアナログに営業担当者に頼るしかなく、管理サイドから見るとブラックボックスなのです。

DXで属人的にならない営業を

Kaizen Platform主催イベント「DX Drive2020」より
こうした営業現場の課題に対し、DXでの解決を試みたのが、NTT東日本の東京武蔵野支店です。われわれKaizen Platformは、このDXに協力させていただきました。
当初は、営業プロセスのうち提案時の工程のみをDXするつもりでした。しかし営業担当者に同行してセールスの様子を見るうちに、提案の前段階である「顧客の状況をいかに把握してニーズを引き出せるか」が商談の成否を分けることがわかり、ヒアリング段階をDXすることにしました。
「ICTヘルスチェック」
そこで開発したのが、顧客の悩みを引き出す問診ツール「ICTヘルスチェック」です。
営業担当者のiPadに「公式サポートが終了したOSを使っていませんか」「自社データの災害対策はどうしていますか」などの質問と、対策の必要性を説明する3分間の動画が流れ、その中で8つの質問に答えてもらう仕組みになっています。顧客にiPadを渡し、流れに沿って回答していってもらいます。
顧客は動画を見て返答しながら「あ、ちゃんとできていないな」と自身を振り返ることができますし、すべての質問に答えると「通信環境で変えるべきポイントはあるか」「コスト削減の余地はあるか」など、ニーズや課題が可視化されます。
こうすることで、先に挙げたような営業担当者の得意・不得意やニーズの取りこぼしによって提案内容が左右されるケースが激減しました。また案件内容によっては、専門スタッフを同行させたり対策チームを組んだりするなど、タイミングを逃さずに、その後のサービス提案を行うことができるようになりました。
Kaizen Platform主催イベント「DX Drive2020」にて行われたNTT東日本の講演内容より
2019年11月に始めたばかりの取り組みなので、成約数としての成果が出るのはこれからですが、アポイント数とサービスの提案数において、10%以上の伸びが見られました。
営業担当者が、今まで営業ノウハウがなく提案できなかった商材も本ツールをトリガーに受注するといった期待していた効果が出ています。加えて、顧客からは「ICT企業らしいですね」といった言葉もいただくなど、ブランド向上にも寄与しています。
そして、この問診ツールの最大のメリットは、回答データが瞬時に直接クラウドに上がることです。営業がメモを取る必要もありません。その結果、「営業中に何を話しているかわからない」というブラックボックス現象も、解消することができました。

現場発のDXが成功した理由

今回の営業活動のDXが成果を出せたポイントは、支店という「現場」から取り組みを始めたことです。
Kaizen Platform主催イベント「DX Drive2020」にて行われたNTT東日本の講演内容より
大きな組織のDXがうまくいかな原因、その多くは、「現場を巻き込めていないこと」と「目標のスコープが大きすぎること」に大別されます。
その点、今回はまさに現場が必要性を感じて取り組めたこと、小さいけれども成功体験を積めたことで、今後の可能性が大きく広がっています。
もちろん、すべてが順風満帆だったわけではありません。営業担当者も日々のノルマ達成に忙しく、「新しいことを取り入れている場合じゃない」という思いもありました。その齟齬をなくすため毎週の会議でDXの重要性を意識づけ、一人ひとりが「自分ごと」として考えるように心がけたと、副支店長の蛭間武久さんは話していました。
Kaizen Platform主催イベント「DX Drive2020」にて行われたNTT東日本の講演内容より
もう一つ大切なポイントは、一支店のスタンドプレーにならないよう、取り組みを始める際に関係する役員に了承を得たうえで、本部や事業部などの上位組織も巻き込んでいったことです。こうしたロビーイングを怠らないことで、うまくいった際の横展開がしやすくなるのです。
そして印象的だったのが、「他の支店が真似をしたいと思ってくれるように、私たちの支店が業績を上げ続けることが大事なんだ」という蛭間さんの言葉です。自分たちがパイオニアとなり、現場からDXを起こしていくんだという意気込みを感じました。
NTT東日本は今後、このシステムを他のジャンルにも広げ、収集したデータを顧客にフィードバックするなど、ICTでいっそう地域に寄り添える企業を目指してDXを進めるということです。
明日も、DXに取り組む企業の事例をご紹介していきます。
(執筆:合楽仁美、撮影:高澤梨緒、編集:株式会社ツドイ)
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