【須藤憲司】なぜいまDX? 大転換期にレガシー企業が生き残る方法
2020/3/11
現在普及している「4G」の100倍の通信速度でデータのやりとりを行なう「5G」が、いよいよ今春から開始となる。
ネット環境の転換点に立ちあう期待感と、対応が遅れ自社ビジネスが遅れを取ってしまうかもしれない危機感、この両方を合わせ持つビジネスパーソンも多いのではないだろうか。
そこでNewsPicksは、Kaizen Platformとタッグを組んで「DX人材養成」プロジェクトを2020年6月から9月に開催する。
Kaizen Platformは、最新のテクノロジーを使った業務の効率化や、サービス成長の加速を得意とする業務改善の専門企業だ。これまでに取り組んだ施策数は約3万件、取引した法人数は500社を超える。
本連載では、実際にデジタルトランスフォーメーション(DX)に着手した企業の事例を紹介していく。
まず、なぜいまDXが必要なのか? Kaizen Platform須藤憲司氏からのメッセージをお届けする。
なぜいまDXなのか? 期待と危機感
須藤 今年春から本格的に実用化される「5G」に向け、多くの企業が中期経営計画上でDX(デジタルトランスフォーメーション)について言及しています。なぜいまDXなのか、その背景を外部環境の変化から説明していきたいと思います。
人口減少社会への突入にあたり、働き方改革やダイバーシティは多くの企業にとっての経営課題です。
それらの課題に向き合うにあたり利活用がすすんでいるのが、スマホやタブレットなどのデバイス、そしてそれらを活用した業務効率化サービス。昨今でも新型コロナウイルスの感染拡大により、デジタルの必要性をより感じた方も多いのではないでしょうか。
いつでも場所を選ばず接続できるデバイスそのものの利便性にくわえ、サーバー側で複雑な処理を完了させた上でデバイス側に情報表示するクラウド技術などを活用することで、あらゆる業務が手元で済んでしまうようになりました。
ビジネスチャットツールやSFA(営業支援システム)など多くのサービスの活用がすすんでいます。
こうした技術進化は自社オペレーションをスマートにする機会である一方、新規参入してきた異業種企業に、市場を一気に奪われてしまう危険性もあります。
Amazonは本業のECサービスで培った資産を外部提供し、AWSで約100億ドルの売上をあげました。このようにGAFAやBATHと呼ばれる巨大テック系企業が異業種へ参入し、デジタルを最大限に活用して産業の勢力図が塗り変わる、ということが起きています。
※GAFAとは「グーグル」「アップル」「フェイスブック」「アマゾン」の米系テック企業、BATHとは「バイドゥ」「アリババ」「テンセント」「ファーウェイ」の中華系テック企業の総称
加えてスタートアップが大きな投資を元手に、最新技術やトレンドに最適化したサービスを立ち上げて、勢力図を一気に塗りかえていくケースも枚挙にいとまがありません。国内では、料理レシピメディアで動画を活用しユーザの支持をあつめたクラシルなどがその一例です。
インターネット取引による中間流通マージンの削減や、シェアリングエコノミー普及による遊休資産の活用など、さまざまなプレーヤーが既存産業に新しいモデルを持ちこみ、競争原理が一変する事態もおきています。
今後「5G」普及がさらなる後押しとなり、この動きは加速していくと予測されるなか、多くの経営者は、マーケットに支持され続けるために新しい顧客体験に変革する必要があると考えはじめています。
このような「期待」と「危機感」からDXが注目をあつめ、経営ボードで検討されているのです。
改めてDXとはなにか?
DXとは「デジタルを活用して、圧倒的にかつ優れた顧客体験を提供し、事業を成長させること」です。ここでの“成長させる”は、もっとハッキリと「稼ぐ」と言い換えてもいいかもしれません。
顧客体験と直接的に関連しない、単なる「社内の業務効率を上げるためのデジタル化」ではDXとはいえず、自分たちの事業や商売に直結していることが原理原則になると私は考えています。
ポイントとなるのは、外部サービスをフル活用することを念頭にサービスモデルを検討していく、という点です。
たとえばタクシードライバーを抱えずに世界最大のタクシー会社になったUber社は、その配車エンジンを自社で開発する一方、地図はGoogle Mapsを利用するなど、さまざまな機能を外部連携させてサービス構築しています。
安宅和人氏も、近著『シン・ニホン』で
「何もかもをブラックボックス化して作ることで競争優位、競合の参入障壁を築く時代は終わりつつある。仮にUberが、世界最大のユーザ数を誇るGoogle Maps並みの地図を自力で構築しようとしていたら、彼らの劇的な成長は起きず、世界展開も遅れ、結果、現在のような企業価値を生み出すことはなかった」
と言及しました。
このように外部サービス含めてデジタル技術を活用し、自分たちの磨きどころはどこかを明確化することで顧客体験の差別化を追求しなくてはなりません。
顧客から選ばれた分だけデータが貯えられ、データをもとにサービスがもう一段磨かれ、さらなる顧客体験の差別化につながっていく。そうするとさらに顧客から選ばれて一層データが貯まっていく。このようにぐるぐると顧客にとっての価値が大きくなる構造をデジタルを活用して築く。これこそがDXなのです。
なぜDXはうまくいかないのか
「DXが実現できないと2025年以降、最大12兆円/年の経済損失を被ってしまう」と経済産業省が発表しています。
DXの重要性が認識されていっていることは好ましいことです。ですが、問題は、DX推進の難易度が極めて高いことです。
私が繰り返しあげる数字でもありますが、スイスに拠点を置くビジネススクールIMD(国際経営開発研究所)の教授であるマイケル・ウェイド氏は、世界中のDXの事例調査の結果「思ったような効果を上げられたケース」はわずか5%に過ぎないといいます。
つまり、DXに取り組んだ企業の95%が「思ったようにうまくいかなかった」ということです。
ウェイド氏はその原因を「組織のもつれ」と表現しています。ただ、私の実感値は「もつれ」というよりも「ほどけない絡まり」に近いです。
その絡まりとは、各企業に鎮座するレガシーシステムのこと。
多くの企業の組織やシステムは、SaaSやクラウドサービスとの連携を念頭に置いて構築されてはいません。
業務プロセスそのものもデジタル化していかないと生産性を高めていくことは出来ないわけですが、これまでの業務プロセスを前提に構築された「基幹システム」「それに付随する組織」「オペレーション」などすべてが複雑に絡み合っていることでDXをややこしいものにしています。
既存アセットの磨きこみではなく、多くを大胆に変革することが求められています。
とは言うものの、これまで正解とされてきたものは簡単に変えられないのが現実。
そんななか、企業はどのようにDXに取り組んでいるのか? 明日からは、『DXの裏側』というテーマで各企業のDXのリアルについてお話していきたいと思います。
(撮影:高澤梨緒、構成・編集:株式会社ツドイ)