【HRテック新時代】覇権を狙う、プラットフォーム戦略の勝算

2020/3/23
今、さまざまなカテゴリで「○○テック」が頻出する中、急速に市場を拡大しているのが「HR(Human Resources)テック」だ。

就労人口の減少、終身雇用制度の事実上の崩壊、ダイバーシティ、複業など「人材」に関する変化は大きく、多くのプレーヤーがこの市場に参入。「群雄割拠」の時代に突入している。

その中で抜きん出た存在になろうと野心を燃やすのがカオナビだ。約8年で1,600社(※)のユーザー企業を獲得した同社は、前回の連載で新たな構想を打ち出している。(※)2019年12月末時点

そこで、HRテック企業の「ハブ」役を担うプラットフォーマー構想を打ち出したカオナビの真意と実現可能性を探るべくCOOの佐藤寛之氏に迫った。

急成長するHRテック市場

──まず、昨今のHRテックブームの現状について、どのように捉えているかお話しいただけますか。
HRテック市場の現状として、ユーザー数が急増しているフェーズに入っているといえます。
ミック経済研究所の「HRTechクラウド市場の実態と展望2019年度版」でも、国内のHR Techクラウド市場規模は、2020年度には476.0億円、2024年度には1,700億円以上の市場規模になると予測されています。
一方でプレーヤーを見ると、すべての分野を網羅する「ガリバー」や、各分野において2位以下に圧倒的な差をつけるような企業は存在していないのが現状。
HR Tech業界カオスマップ。9カテゴリー449サービスを掲載(2019年10月15日時点)。初期作成時(2018年3月時点で180サービス掲載)に比べ、200以上のサービスがリリースされている。出典:HR Techナビ
HRテックと一口にいっても、人材の活用を志向するサービスもあれば、事務作業の効率化を志向するサービスもあり、分野ごとに複数の企業同士がしのぎを削る状況が続いている。
まさに今、HRテックは群雄割拠の時代に突入しているといえます。
──佐藤さんはカオナビを提供する立場から、さまざまな企業の内実をご覧になっています。HRテックへのユーザーの関心が高くなっている理由については、どのように捉えていますか。
どの企業も採用難や生産性向上といった慢性的な課題解決のため、今いる人材を最大限、有効活用することが至上命題になっているからです。
人口減少社会に向かう中、企業は「量」的な経営から「質」で価値を生み出すしかない
とくに旧来のビジネスモデルからの脱却と、イノベーションによる変革が迫られている企業においては、浮沈にかかわる重要な課題といえます。
そして、このような企業は今後ますます増えていく。
こんな状況の中、企業の人的な自己変革のみに期待するのには無理があります。テクノロジーによる何らかのアプローチが必要なのは明らかです。
その上でインフラとしてクラウドが普及したことも追い風になり、HRテックのベンダー側も簡単にサービスを展開しやすくなったといえます。
群雄割拠のHRテック市場は、やがて多くの業界がたどった道と同じように、市場の成熟に合わせてサービスの優勝劣敗が進み、合従連衡の時代を迎えるでしょう。
そしてここ数年で企業の淘汰が急速に進み、圧倒的なナンバーワン企業が生まれるタイミングでもあると考えています。

人事版セールスフォースを目指す

──そんな中、前回の連載で「世界中の人材情報を一元化したデータプラットフォームを作る」というビジョンを打ち出しています。改めて、具体的に教えてください。
【始動】私たちの働き方を変える、人材マネジメント革命
私たちが打ち出している「データプラットフォーム」とは、人事マスターデータベースの構築を実現させることです。
下の図のようにカオナビが提供する人事マスター管理という「お皿」の上に、機能である「お団子」を乗せていくイメージです。
その人がどんな経験を積み、どんな志向性を持ち、どんな評価をされてきたか。現在は企業内に点在している、人の個性にまつわるデータが集まるプラットフォームの構築を目指します。
もちろん今も、人事関係のデータを集めたデータベースは存在します。しかしあるのは、サービス、企業ごとに分断された小規模なデータベースのみなのが現状です。
──人事マスターデータプラットフォームの構築は、企業にとってどのようなメリットがありますか。
現時点のHRテック業界は、「勤怠管理」「給与計算」「採用管理」といった機能ごとに特化したサービスが乱立し、各機能が独立する部分最適のフェーズ。
しかし、いずれさまざまなサービスを併用して使うことに、ユーザーは煩わしさを感じるようになるはずです。
カオナビによって複数のファンクションを一元化し、バラバラなサービスを使い分ける不便さを解消すれば、より効率的で生産性の高い人材マネジメントが可能になるのは間違いありません。
HRテックのサービス事業者にとっても、新機能の開発や既存機能の洗練に注力することが可能になる。
サービスを利用する企業の担当者も膨大な入力作業や確認作業から解放され、売り上げや差別化につながる機能開発に時間を割けるようになるはずです。
こうした環境が整うことで、私たちの働き方は大きく変化します。
雇用を保証する代わりに組織への隷属を迫るような旧態依然とした企業は淘汰され、個人と企業はお互いの利益に基づいて相互選択する対等な関係になるでしょう。
──プラットフォーム構想はいつ頃から抱いていたものですか。
実は、『カオナビ』は2012年リリース当初から「人事マスターデータ」として発展させることを前提に設計したサービスです。
さまざまなタレント情報が扱いやすい形で保存でき、かつAPIにより他社サービスと連携可能な拡張性を備えているのもそのためです。
自社ですべての機能を提供しようとはせず、SaaSの王者セールスフォースのように他社と組むことで機能拡充していく。
いわば、人事版セールスフォースを目指しているといえるかもしれません。
ただ、いきなりプラットフォーマーになるのは難しいので、私たちのようなベンチャーはニッチな領域から始める必要がありました。
そこで、当時はまだ概念が浸透していなかった、スキルや知識・経験値などを一元管理するタレントマネジメントシステムというニッチな領域から、人事マスターデータという「お皿」の部分を取りに行ったわけです。

プラットフォーム戦略の勝算

──では、カオナビがプラットフォーマーにふさわしい条件を整えているといえる理由について教えてください。
サービス自体の特性と普及率の高さです。
カオナビは、人事部門の担当者が従業員の「管理」のために利用するサービスではなく、全従業員の「最適配置」や日々の「人材育成」を実現するツールとして、企業の経営者やマネジメント層が日常的にログインしてくださっています。
急速に変化する時代の流れに適応せざるを得ない今、経営においても意思決定の質とスピードの向上が求められています。
量から質へと経営が変化せざるを得ない中で、最大の資産は「人」です。
その資産を最大限活用するために、人の全ての才能、個性に関するデータをより「リアルタイム」で可視化しておくことが経営の鍵を握るようになります。
生産性を最大化するためには、最適配置を実現させるしかない
そこで、企業の経営者やマネジメント層が毎日見るカオナビのデータは最新の状態にしておこうとなるわけです
一方、「勤怠管理」や「給与計算」は主に人事がアクセスするデータ。カオナビが提供する人事マスター管理という「お皿」の上に、給与計算などの「お団子」である機能を乗せていく方が合理的なわけです。
カオナビ開発前は経営者自らマネジメントするためのツールはなかった。多忙な経営者でも使用できるようにと、「顔」と「名前」を一致させるというシンプルなコンセプトに徹底し、直感的な操作性にこだわっている。
普及率の高さとしても、カオナビは東証1部上場企業を含む1,600社以上の企業に導入され、タレントマネジメントシステム分野で、3年連続シェアナンバーワンも記録しています。(※)
(※)株式会社ミック経済研究所『HRTechクラウド市場の実態と展望2019年度版』の「人事・配置クラウド」分野・出荷社数において、2017年度から2019年度にかけてシェア第1位を獲得
──既に、1,600社以上のニーズやノウハウが蓄積・反映されている。新たな機能開発については?
もちろん今ある機能のアップデートはしていきますが、新しい機能に関してはAPI連携などで他のサービスとつながることで拡充していく予定です。
既にクラウド人事労務ソフト『SmartHR』、クラウド型給与計算ソフト『MFクラウド給与』、ビジネスコラボレーションハブ『Slack』など、有力なツールとの連携を実現させており、今後もその数を増やしていく計画。
日本有数の人事マスターデータを持つプラットフォームとして、『カオナビ』がHRテック各社の「ハブ役」を果たす日はそう遠くないと確信しています。

今が一番エキサイティングな時期

──タレントマネジメント分野に限定した「局地戦」から、HRテック業界全体を動かす「全面戦」への場面転換に挑むことになります。今後、どのような人材が必要になりますか?
この大転換を実現するには、細分化され、厳密に規定された業務を効率的に運用する人材よりも、大局に立ってゲームのルールを変える人材が必要です。
私たちは早くからカオナビをSaaSで提供してきましたが、自分を売るのではなく仕組みを売れば、さまざまな制約を取り払って世の中を動かしていける。つまりレバレッジが効くわけです。
このように合理的な仕組みで世の中を広く動かしていくことを面白がり、新たな仕組みを構築できるような人。テレアポや飛び込みのような「量」を追求するのではなく、人と違うやり方を考え「質」を最大化できる人。
私たちはそんなカオナビのバリューを体現できるような方と、壮大なビジョンに挑戦したいと考えています。
例えば、コンサルタントの立場では自分がインパクトを与える影響範囲は目の前のクライアントとそこにかかわる人たちです。
しかし今のカオナビなら、自分が考えた仕組みで世の中に対してダイナミックにインパクトを与えることができます
だから「自分たちの手で作り出したものが、社会に対して良い影響を与えている」という実感が持ちやすい。
「課題解決の成果が社会をより良くすることに直結している」という手応えを感じられるのは、とてもやりがいのある仕事です。
カオナビにジョインするなら、今が一番エキサイティングな時期。私たちのような会社がどれだけ成長していけるかは、「人」にかかっています。
カオナビの目指す世界に共感してもらえる方がいたら、ぜひ力を貸していただきたい。
日本の人材マネジメントの未来を一緒に作っていきましょう
(構成:武田敏則 編集:君和田郁弥 写真:桑原美樹 デザイン:岩城ユリエ)