【長坂真護】月収4万円だった画家。ガーナのスラム街を再生する

2020/3/11
ガーナの首都アクラ近郊にあるスラム街アグボグブロシー。ガラケーや10年以上前のパソコン、ゲーム機器など、古くなった電子廃棄物(E-waste)の不法投棄場として知られている。
電子廃棄物が広がっている光景(撮影:福田秀世)
ここで「サステイナブル・キャピタリズムの創出」を掲げ、挑戦する一人の日本人アーティストがいる。長坂真護。
作品には、現地で調達した電子廃棄物を使用。「アートは人を救うためにある」と断言する彼が生み出す作品は、現在1点あたり1500万円以上で取引されるものもあり、国内だけではなく海外からも注目されている。
「物質的な解決と共にメッセージを伝えたい」と語る彼は、アートの可能性を最大限に生かし、2030年までに150億円を集めスラム街でのリサイクル工場建設を目指す。
「3年前までは年収100万円以下の生活をしていた」という長坂氏。どのように自身のキャリアを築いてきたのか。彼が提唱するサステイナブル・キャピタリズムとは何なのか? 
長坂 真護(ながさか・まご)/MAGO CREATION株式会社 代表取締役兼美術家/MAGO Art & Institute Founder。「サステイナブル・キャピタリズム」を合言葉にガーナのスラム街に眠る、電子廃棄物を再利用した美術品を製作販売し、その利益を元手にガーナ、スラム街での完全無料の学校を運営。2019年には同スラム街にて電子廃棄物美術館を開館した
寄付ではなく、フェアトレード
長坂 これは現代に残る奴隷制度じゃないか……。アグボグブロシーを訪れた瞬間、僕はそう感じ、その不条理に、いてもたってもいられなくなりました。
アグボグブロシーとの出会いのきっかけは、3年前に偶然目にした1枚の写真です。どこまでも広がる電子廃棄物の山の中でゴミを抱える少女の写真を見た僕は、「現地に行って体感しなければならない」という衝動に駆られました。
それまで現地のことを知らなかった僕ですが、実際に訪れてさらなる衝撃を受けます。ひと昔前のPC、僕らが幼少時代に使っていたゲーム機器、ガラケー。世界中から集まる、ありとあらゆる電子機器が打ち捨てられているゴミの山。
鼻が曲がるような異臭に包まれる中、防護マスクなどもなく電子機器を燃やす人々。彼らは電子機器を燃やし、中に入っているわずかな鉄、銅、鉛などを抽出し、それらを売り生計を立てているのです。
電子廃棄物を燃やし、金属を抽出する現地の人々(撮影:福田秀世)
現地にはリサイクル工場などはなく、至るところで、野焼きで電子機器が燃やされています。電子機器を燃やしたことによって、空気中には有害物質が充満している。その空気を直に吸い込んでいるアグボグブロシーの人々の多くは30代で亡くなります。
アフリカ全体の平均寿命は60代前半ですが、アグボグブロシーの平均寿命はその半分です。
スラム街は約3万人の人口で、数十の部族から成り立っているのですが、実際に現地を訪れて彼らと共に生活をしても、確かに老人は一人もいない。先進国では「人生100年時代」と声高に叫ばれている中、「寿命は30歳」という事実。
先進国が排出する電子ゴミを、いわば彼らに押し付けているわけです。僕自身も電子機器が好きで、愛用してきた者の一人です。当事者であるからこそ、「何かしなくては……」という思いに駆り立てられたのかもしれません。
マスクをつけてスラム街を行く(撮影:福田秀世)
世の中には様々な不条理が溢れています。災害や貧困、暴力など、目にしたら「何かしなければ」と感じることはたくさんあるでしょう。
しかし、現実的にはその思いや行動は一過性になってしまうことが多い。たとえば、「寄付」という行為。
寄付はしないよりしたほうがいいし、それ自体は立派な行為ですが、大抵の問題は一度寄付しただけでは解決されない。ボランティアについても同様です。
僕自身も様々な失敗を繰り返し、そのことを体感した結果、「寄付の代わりにフェアトレードを、Creating Shared Value」という考えに行き着きました。
「持続可能な資本主義」の実現へ
「CSR」(企業の社会的責任)はよく耳にする概念だと思います。CSRとは、「企業が経済活動によって社会にもたらす影響に責任を持ち環境対策や法令遵守を行うこと」と定義されていますが、一般的に、CSRに関する行為は会社の主な事業とは別軸で行われます。
一方で、「CSV」(共有価値の創造)は2011年にハーバードビジネススクールで提唱された考え方ですが、ビジネスとして社会的課題に取り組むことが特徴的です。
僕が代表を務めるMAGO CREATIONでは、この考え方を採用しています。例えば、僕がアグボグブロシーの人たちをモデルにして作品をつくる。もしくは、現地の子どもたちに描き方を教えて作品を描いてもらう。
それを僕が先進国に持ってきて売る。そこで得た資金を元に、現地に無料の学校を開校したり、ミュージアムを開き、雇用を生む。僕が絵を教えた子どもたちがつくった作品に関しては、売上金の10%を直接本人に還元しています。
例えば、彼らが描いた絵が1枚10万円で売れたとします。すると、絵を描いた本人が1万円手にすることができる。1万円は、スラム街の人々にとって2カ月分の給料と同等です。
長坂真護さんが開校した無料の学校「MAGO school」(撮影:福田秀世)
この仕組みは、現地の人が、ともすると抱いてしまう「お金は空から降ってくるもの」という概念も覆します。